第10話 新たな祝福

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 始まりの祝福(身体強化 二、水火生成、微回復)


 祝福 格納

 

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 あの地震から十五日。

 救助は絶望的、減少する食料、少なすぎる生存者、誰も発見できない遺体など。

 多くの問題や異常は、解決の目処が立っていない。


 そんなギリギリの生活の中で、それは突然起こった。


 日課となった見回りでゴブリンを剣先スコップで突き刺し、消えたところで新たに祝福を得たのがわかったのだ。


 新たに得た祝福は「格納」と、始まりの祝福の「身体強化」が「二」へ上昇。


 もともとゴブリンを倒す毎に、「身体強化」が上がったんだかわからないくらい微妙に上昇していた。

 しかし、「二」に上がった途端、はっきりと上昇を理解できた。

 今なら父の持っている鉄パイプを、全力を出せば曲げられると思う。


 そんなことより「格納」だ。

 始まりの祝福のときのように、使い方も全て理解できる。

 明確な意思を向けないといけないけど、手足のように使える。……効果がヤバすぎて怖い。


「父さん、トウジ、新しい祝福もらっちゃった」


「兄ちゃんマジで!?」


「新しい祝福か、使い方はわかるかい?」


「初めて水と火を出せたときと同じ、自然に理解できたよ」


 外での実地検証は、ゴブリンが出てくるから危ない。

 見回りと避難所での情報交換が終わってから、自宅拠点で実地検証とお披露目することになった。


「それじゃやるよ。はい。ほいほいっと……あ、これ以上は無理! 謎エネルギーが、一気に減る」


 持っていた剣先スコップを一瞬で消し、自宅の瓦礫もひょいひょいと消す。

 実際には消したのではなく、私の中に存在する私しか干渉できない別の空間に入れている。重さは感じない。


 使い方など祝福の内容はわかるのだけど、格納したものがどうなるかがわからないから、検証は必要なはずだ。


 格納する条件は二つ。

「身体に触れている」こと、「明確な意思を向ける」こと。


 出す条件も二つ。

「他の物質に干渉しない場所」と、「明確な意思を向ける」こと。


 睡眠時など明確な意識や意思のない状態で、出し入れが不意に発動する心配をしなくていいのが素晴らしい。


 空間内は外と同じように時間が経過するが、温度や湿度、光などなにもない。

 マイナスやゼロではなく、「」ちょっと意味がわからないことになっている。

「完璧な真空パック」が、一番近いだろうか? 食料はかなりの長期保存できそうだ。


 格納中は私の謎エネルギーを消費しているようで、質量ではなく重量依存。


 限界重量は無限ではなく、私の体重の倍は入らないくらい。

 限界重量はゴブリンを倒す毎に、ほんのわずかに増える。

 万単位でゴブリンを倒したら、明確に増えたと感じられると思う。


 限界重量を越えると、謎エネルギーの消費と回復の均衡が崩れ、消費が爆増し寝込んでしまう。


 生物もゴブリンも入ってしまう。

 呼吸ができないから短時間で死んでしまうと思うけど、あの血が流れないゴブリンは、呼吸をしているのだろうか。

 生物……人間に使うような事態にならないことを願うしかない。


「アキトお兄ちゃん! これも! 保存はできる!?」


「アキトお兄さん! 液体ってどうなるんですか!?」


「兄ちゃん! 生き物は!」


「アキっちパねぇ……さっすがトっちの兄貴」


 みんな驚いたり詳しく聞いたりしてきたが、年下四人の食い付きが良い。

 中でも妹と、妹の親友のカノさんのテンションが、ぶち上がっていた。


 生活がかなり楽になるし、将来への希望にもなる。

 みんなが新たな「祝福」を得ることができれば、今後はもっと生きやすくなると思う。


 私と弟と妹、カノさん、ヒムロさんの五人で格納を色々試している。


 防壁完成からは安全のために、女性陣はゴブリン退治にほとんど参加していなかった。

 女性陣が新たな祝福を得るために、ゴブリン退治をどう進めるかなど、見えた希望に喜び合いながらはしゃいでしまう。


 その後ろで両親が、深刻な表情で話し合っているのを、はしゃいでいる私たちは誰も気が付かなかった。



「……シロウさん。私の杞憂ならいいのですが……アキトの新しい祝福や急激に上がった身体能力が意味することを考えてしまうと、どうしても地球の声のこと……、を考えてしまいます……」


「……私もナツコと似たようなことを考えていたと思う。私たちの考えすぎ……杞憂かもしれない。子供たちを不安にさせるかもしれないけど、皆で話し合った方がいいと思う。

 ナツコも私の説明が足りないと思ったら、補足をしてくれないかい?」


「わかりました。シロウさん、アキトだけではなく誰でも新しい祝福を得る可能性があるのなら、急ぐ必要があるかもしれません。……可能な限り早急に」



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tips 防衛組と見回り組

 防衛組。全被災者の中心拠点、情報集積拠点となる避難所の防衛、防災備蓄の管理、周辺の見回りをしている。

 見回り組。5〜7名で構成された4グループ。東西南北で各々の拠点を維持し、避難所から離れた場所の見回りや情報収集をしている。

 防衛組見回り組の関係は良好。

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