第7話 変な声出たわ!

 精神的な重圧を感じなくなったから、地球の声はあれだけのようだ。


 また空が輝き出す。


 この光も本当に変な光だ。

 強い光なのに全く眩しくないし、まぶたを閉じれば眩しくて眠れない何てこともない。

 私も家族も避難所にいた人も、光から優しさまで感じてしまっているから、意味がわからない。


 それにしても、祝福で試練で慈悲ってなんなんだよ。試練でしかねぇよ。具体的に説明してよ地球さん!


「兄ちゃん! 後ろ!」

「アキト!」

「へ? ふぉっ!」


 弟と父の焦った声で勢いよく振り向くと、私の腰くらいまである二足歩行の変な生き物が、両手を振り上げていた。


 振り向いた勢いのままに出た足で、変な動物を蹴ってなんとか離れる。

 そいつは倒壊した家に倒れながら突っ込んでいく。……なんだあれ。


「びびった! くっそびびった! 変な声出たわ!」

「アキト! 怪我はない?」

「お兄ちゃん!」

 母と妹が駆け寄って心配してくれる。


「父ちゃん見て、ざっくりいってる……よね?」

「トウジ、むやみに触るんじゃないよ」

 父と弟は私に蹴られて瓦礫に突っ込んだ変な生き物から、私と母と妹をかばうように前に出てくれる……なんか様子が変だ。


「アキト、ナツコこっちに。ハルカは……ハルカも見たほうがいいな。ハルカもこれを見て」

「シロウさん?」

「お父さん……」


 父に呼ばれて、母と母にしがみつく妹と共に蹴り倒した変な生き物を見に行く。


 倒れこんだそいつは、瓦礫から飛び出ていた尖った部分で、首と胴体を貫かれている。


「母ちゃん、ハル、大丈夫っぽい。もう動いてないよ。瓦礫に突っ込んだ拍子に、ざっくりいったんだと思う」


「父さん、トウジ、ありがとう。助かったよ。めっちゃびびった」


「アキトよくとっさに足が出たね。いい蹴りだったよ」


「それがさ、なんかそいつ見た瞬間に攻撃しなきゃ! って、なんか変な感じだった」


「兄ちゃんも変な感じがしたんだ。おれもさ、死骸を前にしてんのに気持ち悪いとか思わないのが変な感じでさ」


 皆で、動かなくなった変な生き物を観察する。

 確かにトウジの言うように死骸を前にしているのに、不快感、嫌悪感、罪悪感などを感じない。変な気分だ。


 倒れた変な生き物の身長は、私の腰ほどで、シルエットだけなら人間のように見えないこともない。

 しかし、全身が濃い緑色、頭部どころか全身に体毛がなく生殖器がない全裸を晒している。


 生き物のはずだけど、人形のようにも感じてしまう。

 細い体躯に比べて、額にこぶのある頭部。

 手と足は不釣り合いにサイズが大きく、大きな鷲鼻、尖った耳、大きなつり上がった目、横に裂けたような大きな口、口から飛び出す大きな犬歯、鮫のような尖った歯。


 これって……ゴブリンだよな?


「……なぁ、兄ちゃん、ハル。これってさ、ゴブリンとか小鬼ってやつじゃね? マンガとゲームでよく見るやつ」


「トウジお兄ちゃん、やっぱりゴブリンっぽいよね。あたしグロがダメなのに、このゴブリンは怖いのに怖くない、変な感じがするの」


「トウジもハルカもそう思う? やっぱりゴブリンだよな、これ。無駄に小綺麗なのが腹立つわ。なぁ、こいつ血が全く出てないよな……」


「あなた達この動物に見覚えがあるの?」

「あれ? 三人は知って、っ離れて!」


 弟と妹と私で、この変な生き物がゲームやマンガ、アニメに出てくるゴブリンっぽいと話していると、突然ゴブリンが弱い光を一瞬放つ。

 焦った父の声に皆で後ろに下がると、ゴブリンが消えてなくなった。


 それと同時に、私の中で確かな変化が起こる。


 今まで出来なかったことが、確実に出来るようになった感覚。

 新たに知覚出来るようになった感覚。


「消えた……皆、大丈夫? 怪我や体に違和感はない?」


 父の問いかけに母と弟と妹が問題ないと、自身の体を確認しながら答えている。

 私は自身の変化に狼狽えていた。


「アキト?」

「アキト大丈夫?」


「あ、父さん母さん、ごめん。大丈夫だよ。怪我はない。それよりも、わかったことがあるんだ。おれがこれからやることを皆落ち着いて見ていて、一度見た方が解りやすいと思う。危険じゃないし危険なことは絶対にしないから」


 これは見てもらった方がすぐにわかってもらえるはずだ。

 右手を誰もいない方に向けてかざすと、弟と妹が「まさか!」と声を揃えて、露骨にわくわくし始め、父と母は逆に困惑している。


 前にかざした右手の手のひらを下に向けて、真水を出す。

 水の勢いは、食器洗いで水が飛び散らない程度の緩やかなものだ。

 弟と妹からあがる歓声。父と母は目を見開いた。


 驚いている皆には悪いけど、もう一つだけ見てもらう。


 水を止めた右手の手のひらを、今度は上に向け、強めのライター程度の火を灯す。

 弟と妹の止まらない歓声。父と母は口が半開きになっている。

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