第6話 車中泊
避難所の小学校に集まった人たちは、私の心配をよそに落ち着いていた。
避難所に集まったのは、全員の無事が確認された五組の家族。
私や父も含めて近所ではないが、同じ地域の人だ。
「シキさんとこも全壊したんか。うちもな……」
「避難所に集まった人が、少なすぎるんじゃないか……」
「ここに来るまで、ほとんどの建物が全壊して……」
「避難所がこんなんじゃ、ここにいた方が危険じゃない……」
「やっぱり皆さんも地球の声が……」
「地震は止んだが、この空の光はいつまで……」
「あの木や雑草も地球の……」
「テレビもラジオも……」
全員微妙に世代が違うし、仲が良くも悪くもない。
顔は知っているし、会えば話をする程度のゆるい付き合いがある程度の人たちだ。
私と父が近付くと、最初は警戒された。
でも、知り合いだとわかると、簡単に話の輪に加わることができた。
女性も多いので待機してもらった母たちも呼び、情報交換をできたのだけど……
私たちも他の避難者も、状況はほとんど一緒で有益な情報はほぼなかった。
ひとつだけ、希望を抱ける情報を得ることができたというか、有益な情報は父が持っていた。
「避難所には防災備品が保管されています。昨年の秋に、期限管理と入れ換えがあったはずです。私の管轄ではなかったので、なにがどの程度保管されているかはわかりません。保管場所は、小学校の端の方だったはずですが……」
五組の家族の代表と父が話し合い、いくつかのことが決まって解散することになった。
一つ、空の光がいつ消えるかわからない。暗くなるかもしれないので、今から瓦礫の山を相手にするのは危険すぎる。
一つ、瓦礫の山が、どのように崩れるかわからない。避難所に残るのは危険なので、今は解散。
一つ、明日の午前十時に、使えそうな道具があれば持参して集合。集合は強制しない。
一つ、自分と自分の家族の安全を、最優先で行動する。
一つ、これからの協力体制は、明日以降に話し合う。
一つ、行き帰りで人を見かけたら、避難所のことを伝える。
家族全員で家に戻り、倒壊した家と納屋から使えそうな物資を少しでも、と皆で回収して一番大きな私の車に集約した。
一番の収穫は、父と弟の車の鍵を回収できたことだ。
母の車の鍵はまだ発見できないけど、保管場所はわかっている。すぐに発見できるはずだ。
簡単に夕食を済ませてから、父の車に父と弟と私、弟の車に母と妹に別れて就寝することになった。
「アキト、トウジ。私は避難所に集まれば、なんとかなると楽観的に思っていたんだ。でも、避難所の前でアキトに言われて思ったよ。危機感が足りなかったって。私が考えていたこと……最悪の事態を二人には伝えるね」
避難したあとは、周囲の人と協力して救助を待とうと思っていた。
パニックや人の悪意を、想像していなかった。
救助活動にも参加したかったことと、おそらく救助が絶望的である。
水道が使えない状況では、飲み水の確保も困難で一週間生きることも難しいこと。
なにもしなければ全員一週間も持たないことなど、父はなにか覚悟を決めたような声色で、つらつらと私と弟に語りかける。
「悲観的なことばかり言ったけど、絶望させたいわけじゃないんだ。私はね。アキト、トウジ、ハルカ、ナツコが生きることが出来るだけでいい。
この状況だ……他の人には悪いけど、家族じゃない人がどうなろうが知ったこっちゃないよ。あ、ナツコとハルカには内緒にしてよ? 幻滅されたら落ち込んじゃう」
「母さんとハルカには言わないって、おれも父さんと同じようなこと考えてたし。
それよりさ、父さんも生きてよね。なんか自分を犠牲にしようとしてない? なぁトウジ」
「そうだよ父ちゃん! みんなで、五人で生きようぜ! おれもがんばるからさ! 父ちゃん犠牲にしたら、母ちゃんとハルが怖すぎるって」
「そうだね。全員で生きよう。本当にアキトとトウジは、大きく、なったなぁ。頼りに、させて、もらうよ」
声を震わせる父と、今日は眠れないんじゃね? と心配になるくらい滾っている弟。
三人で明日からどうするかを、眠りにつくまで話し合っていると……
今までずっと輝いていた空の光が、心拍のように明滅し始めた。
「生き残った我が愛するくそったれ共」
直後に精神的な重圧を感じ、頭に直接叩き付けられるかのように声が聞こえる。
この感覚は……「地球」の声だ。
父と弟と顔を見合せ、急いで車を飛び出す。
母と妹のいる車へ向かい、慌てて出てきた二人と合流する。
「我の進化は成った。新たな生命は慈悲だ。新たな生命は祝福だ。新たな生命は我と我が愛するお前らの贄であり試練だ。乗り越えてみせろ」
「生きろ」
――――
tips 車社会
電車やバスなどの公共交通機関が整っていない地方では、自動車免許はほぼ必須。生活のために自動車を大人一人一台を所持している家庭は多く、一般的。
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