第5話 避難所へ
父と弟が確認に向かった火の元からは、幸い火の手は上がっていなかった。
しかし、母と妹が確認に向かった水道からは、水が出なかった。
あの特大の地震だ。水道管が破損していても不思議じゃない。
確認が終わった後は、腹になにか入れようとなった。
車の後部に積んだディスカウントスーパーで買った飲食物から、期限の早いものを五人で分け合って食べる。
外に停車していた車を、敷地内に移動させる。
全壊した家と半壊した納屋を観察して、いくつか物資を取り出せそうな場所を発見した。
しかし、下手に手を出して私どころか家族の誰かが怪我をしたら元も子もない。
なにか行動を起こすなら、一度相談してからがいいかと、食事をしながら話してみる。
「こんな状況だ。物資はいくらあっても足りないだろうね。でも、私は先に避難所に向かった方がいいと思うんけど……ナツコ、どう思う?」
「そうですね……早めに避難所には行ったほうがいいと思います。救助活動に参加したり、私たちが助けて貰う必要もあるでしょう。アキトもそれでいい?」
「避難所か! 避難するレベルのこんな災害初めてだから、避難所とか全然頭になかったよ。物資はいつでも取り出せるから、避難所が先だよね。ハルカ、スマホはどう?」
「ここの避難所って小学校だったよね。アキトお兄ちゃん、スマホはネットも電話もダメ。なんにも情報取れないの。トウジお兄ちゃんテレビかラジオ受信出来た?」
「だーめだ! カーナビから受信できるテレビもラジオもなんにも反応しないわ! でかい地震だったけどさ、生放送どころか録画放送さえ受信できないとか……あり得るの父ちゃん?」
「全部ダメになるなんて聞いたことが……いや、ちょっと待って、皆……地区の防災放送聞いたかい?」
父の問に皆も言葉もなく首を横に振る。
一度も聞いていないと伝えるので、精一杯だった。
ネットも電話も繋がらないスマホ。反応しないテレビとラジオ。
大災害なのに、一度も流れない防災放送。
私たち五人の空気が、張り詰めた感じがした。
いつ得られるかわからない情報を待つよりも、日が落ちる前に早めにこちらから動こうとなり、私の車に全員が乗り込んで行こうとした。
しかし、地震の影響による道路のひび割れなんかはかわいいものだ。
倒れた電柱や、道路を突き破って謎の木や雑草が生い茂り、とても車では向かえない。
車はあきらめ、家族五人で徒歩三十分ほどかけて避難所へ向かったのだが……
近付くにつれて見えてきたのは、瓦礫の山となった避難所に指定されている小学校の校舎。
それを見ている、二十人ほどの人影だけだった。
「父さん相談がある。あそこにいる人たちに見覚えはあるけど、おれと父さんで先に行って話を聞いてこない? 下手にパニックになってたら母さんとハルカが危な」
「兄ちゃん! それならおれも行くよ。あぶねぇって」
「トウジ、少し落ち着いて。まずはアキトの意見を聞こう。危ないかもしれないから、私とアキトで行くんだね?」
「うん、本当は全員で行った方がいいのかもしれないけど……こんな状況じゃ物資を巡って、いきなり襲われないって断言はできないと思う。
地元である程度顔が知られているおれと父さんが手ぶらで行けば、刺激はしないで話をできると思うんだ。
母さんとトウジとハルカには、少し離れたところで変な動きがないかを見ていてほしい」
「……私はアキトの意見に賛成するよ。トウジ、ナツコとハルカを守ってくれないか。頼む」
「父ちゃん……兄ちゃん……わかったよ。でも二人とも無理するなよ。ちょっとでも変な動きがあったら、大声出してそっちに向かうからな」
「なぁにそんな思い詰めた顔してんだ、トウジ。状況を確認してくるだけなんだ。念のためだよ、念のため」
「シロウさん、アキト、気を付けて。なにかあれば私は、ハルカを連れて家に向かって走ります。もしもがあったら、刺し違えてでも私が……」
「ちょっとお母さん! 覚悟決まりすぎでびっくりだよ。……お父さん、アキトお兄ちゃん。あたし待ってるから。避難できなくてもいいよ。今はみんなで一緒に居られればどこでもいいから」
眼をギラつかせて、思い詰めた顔をする母と弟。
涙を浮かべて、無理に笑おうとする妹。
深刻になりすぎたかと思ってしまうけど、マジでここ数時間で異常なことが多すぎた。
慎重に行動して損はないはずだ。
母さんは覚悟決まりすぎだと私も思うよ、妹。
「アキトもトウジも、いい顔をするようになったね。私も負けてられないなぁ」
父さんは笑顔でそう言うけど、避難所を見つめる眼光は、身震いするほど厳しかった。
――――
tips 避難所の小学校
過疎化により数年前に廃校になった小学校跡地。鉄筋コンクリート製。校舎、体育館、プール。現在は市が管理。地域自治体の集まりや民間への貸出などで使われている。
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