第8話 始まりの祝福
出来るようになったことは、水と火を生成できること。
水道もない今は、とても助かる。
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愛するお前が試練を一つ越えたことを、我が祝福してやる。
本来なら我が地で愛するお前は生きてはゆけぬ。しかし、我はお前を愛している。
生きてゆけるようにしてやったことが、慈悲だ。
生きることが、試練だ。
生きて試練を越えるごとに、祝福しよう。
祝福は喜びであり、怒りであり、哀しみであり、楽しみであり、願いだ。
生きろ。
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始まりの祝福(身体強化、水火生成、微回復)
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意識を自分の内側に向けると、地球が私たちに送ったメッセージと与えられた祝福を知覚し理解できる。
文章の書かれた手紙などではなく、そんな雰囲気をはっきりと知覚できるという、なんとも不思議な感覚だ。
私が祝福を得てから数日。
もう三月も終わりを迎えるけど、やはり救助はない。
家族全員が無事に「始まりの祝福」を得た。
出来ることは同じだったので「始まりの祝福」は、皆が同じような効果なのだろうか。
母と妹がやれるか心配していたが、男衆が転がしたゴブリンの頭を容赦なくカチ割っていた。……母と妹の容赦の無さに、私と弟は震えた。
きっとゴブリンか私たち人間に作用する、なにかがあるに違いない。
身体強化で、腕力がわずかに上がったのは感じられる。
幸いここまで怪我をしていないから、微回復ははっきりと感じられない。
この厳しい生活でも寝て起きれば以前よりも疲労が回復していると両親が言うので、効果はちゃんとあるんだと思う。
この数日で、地球の祝福以外にも変化がある。
変化の一つは避難所。
防災物資を回収出来た。
避難所にいる全員が祝福を得たことや、ずっと空が輝いているので、物資の半分ほどが必要なくなってしまったけど。
今後一番の心配事は、食料だろうか。
避難所には三組の家族が加わって、家族九組の避難者集団になっている。
避難所に常駐しているのは五組。
常駐組は防災物資を守ってくれているので、保管場所を中心に瓦礫を使ってゴブリン用の防壁を建てた。
身体強化持ち三十人がかりで半日で完成し、さらに日々補強と拡張をされ続けている。
私たちも含めた常駐しない四組は、毎日午前中に避難所を訪れて、情報交換をしている。
常駐しない組は、見回りや捜索の役割もある。
「避難所に、ほとんど人が集まって来ないが……」
「避難所の存在を知らないか、あの地震で……」
「あの日は祝日でしたから、出先で被災したと……」
「隣の老夫婦が、下敷きになっていたはずなんだが……」
「このままだと食料が……」
「あの木にリンゴのような実が……」
「ゴブリンの爪が、けっこう鋭くてこの前……」
「防壁の拡張なんだが……」
こんな感じで、情報交換は日課になっている。
なお、救助が絶望的であることは各家族の代表者会議で話し合われている。
生きることを最優先にしつつ、今後どうするのかの意見交換の途中だ。
変化の一つは出会い。
見回りや捜索を無理をしない範囲でやっていると、生存者を発見することも、もちろんある。
そんな中で出会ったというか、発見したというか、探しに行ったのが、妹の幼馴染みで親友の真面目そうな女性カノ・ミライさん。
弟の幼馴染みの、ギャルっぽい女性ヒムロ・アカリさん。
二人の家はご近所で、カノさんヒムロさんの順ですぐに救助出来た。
二人は世代が少し離れるが、近所のお姉さんと後輩女子って感じの付き合いはあったみたいだ。
カノ・ミライさんのご家族はあの災害の日、ミライさんを残してお出かけしていた。現在は安否不明。
ミライさんが疎まれていたわけではなく、うちの妹と当日午後に遊ぶ予定だったらしい。
災害当日は自室でしゃがみこんでいた所で天井と家具に挟まれて身動きが取れなかったらしい。
一晩経った早朝に、妹が率いる私の家族が到着して救助された。
ヒムロ・アカリさんのご家族も、当日はアカリさんを残してお出かけして、安否不明。
アカリさんも疎まれていたわけではなく、前日に弟の友人グループで、遅い時間まで遊んでおり、災害当日はまだ寝ていたらしい。
慌てて目を覚ましたが、揺れが激しくベッドの横で震えていたところ。
落ちてきた天井と家具に挟まれ身動きが取れず、ミライさん救助後に弟が率いる私の家族が到着し救助された。
救助されたカノ・ミライさんは妹と泣きながら抱き合って無事を喜び、ヒムロ・アカリさんは泣きながら弟に抱き付いていた。
弟よ。お前その距離感で付き合ってもいないってマジかよ。彼女欲しいって言ってたじゃん。え、おれが変なの?
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tips 防災物資、防災備品
災害時に避難者に提供される物資。アルファ米や缶詰め、ペットボトルの水などの飲食物、ヘルメットやアルミシートなどの備品が指定された避難所に保管されている。保管物資の種類や量は自治体によって異なる。
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