第3話

「危ない!!」

焦りすぎて気がつかなかった段差に蹴つまずいて、一瞬体が宙に浮く。でも、構えていた痛みはやってこない。

ぐいっ、

(あっ、)

ぷじゅあぁ…

楓が後ろから抱きかかえているんだ、放尿が始まってから気づく。

パンパンに張り詰めた膀胱が、楓の手によって押し込まれて、出口が一気に熱くなる。

「げほっげほっ、」

ズボンの布も吸収が追いつかなくなって、パシャパシャと音を立てて、それは流れていく。慌てて前を押さえるけど、咳をするたびに水圧が上がって、頭の中が混乱状態だ。

「ッゲェ、ッヒ、かえ、ッゴホッっ、ッグ、ゴホゴホっ」

(せきっ、とめねえと、はやく、)

息を止めて、チンコに力入れて。手もぎゅうぎゅうに押さえつけてるのに、堰を切ったように手から零れていく。

(ど、しよ、っさいあく、)

涙が滲んで、息が苦しい。

「ッゲェっ、ッハ、ッヒゥ、ッゲホッ」

「落ち着いて」

耳元で直に聞こえる声。

「一旦座ろっか。そうそう上手」

「よごっッゲホ、ッヒグ、」

「大丈夫大丈夫。とりあえず辛いの一個ずつ治してこっか。おしっこは全部出しちゃおう?」

ッシャアアアアアアアアアっ‼︎

下腹部を優しく優しく摩られたらもう、我慢できなかった。入れていた力という力が抜けていき、快感で下半身をふるわせる。でも、息苦しさで気持ちよさにストッパーがかかる。

「ちょっとまってて。はい、ゆっくりでいいから飲める?」

「ゲホッ、んぅ、」

口にストローをあてがわれて、それを吸い込む。

「泣いてたらずっと苦しーよ?」

「で、も、ゲホッ、」

小便を垂れ流しながら水飲むなんて滑稽すぎるし、恥ずかしい。

「俺がもっと早く連れてってあげたらよかったね。ゆーっくりスーハーしてみよっか」

「ッスー、っげほっ、げほっ、」

「コンコンしんどいねぇー、もう一回お水のんでー…すー、はー、上手上手」

「っげほ、…っはー…っはー…わりぃ…」

やっと、呼吸ができる。ぐっしょり濡れたズボン、楓の服、手。頭がぼーっとして、でも徐々に理解してしまう、俺のしでかしたこと。

「っひ、ぅ~~~、ごめ、」

「泣かない泣かない。着替えればいいだけ。おいで。また風邪ひどくなっちゃう」

脇に手を入れられて、体が起こされる。

「お腹すいたでしょ。お昼何がいい?」

「いらな゛、喉やける゛、」

「ゼリーだけでも食べな?薬飲めないでしょ」

濡れた物をずり下ろされて、ふわふわのタオルで拭われて。まるで子供に語りかける幼稚園の先生みたいに、甘い声。

「はいできた。熱まだ高そうだね」

おでこにひんやりとした感覚。冷たくて、思わず目を細めてしまう。

「しんど…」

「よかった…やっと気づいてくれた…」

座ってるのもだるくて楓の肩に頭を乗せると、帰ってくる安心したようなため息。

「こんな状態で仕事しようとしてたんだよ?わかる?」

「…ん…」

「俺の大学の友達にさ、菖みたいな状態で働き続けて体壊してまだ復帰できてない人、知ってるからさ。キツいこと言ってごめんね?」

「おれこそ…ごめん…自分のこと、見えてなかった」

「分かったなら良いよ。大丈夫。いつも頑張ってるの、視聴者はわかってるよ」

「ん…」

「さ、ご飯食べよっ!って言っても食べれないよね…」

「ぜりー…たべる…」

「わかった。ぶどうとみかん、どっちがいい?」

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咳が苦しくておしっこが言えなかった同居人 こじらせた処女/ハヅ @hadukoji

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