第3話

「お仕事、受けるんですか?」


 その後しばらくの食事の後、お開きとなった。あらかじめ取っておいた首都の宿。暫く考え事をしていると、肩に柔らかい感覚が乗る。


「……まあ」

「悩み事ですか?」

「よく分かるね」

「何年一緒に居ます?」

「それもそうか」


 随分甘えているな、と思う。よく考えなくても、こうして稼げているのは彼女のお陰だ。金細工にも似た髪を撫ぜると、心地良さげな声を漏らす。猫のようだ。


「くあ」

「受けようとは思ってる。後は報酬の問題かな。それより……」

「それより?」

「ちょっと、準備に時間が掛かるかもしれないのと。ミアの仕事が大分忙しくなる」

「それは構いませんが――ああ、魔導防壁ですね」


 流石に本職は早い。魔術師としての腕はミアの方が格段に上だから、当然と言えば当然なのだが。


「話を聞くだけでも、一筋縄でいきそうにない。吸収ドレイン術式なんて、今時使う人間の方が少ないよ」

「確かに……最近は聞きませんね?術式の組み上げが難しい、とは聞いたことがありますけど」

「単純な必要魔力量も並みの術式以上だ。出力も昔の都市防壁並みと考えるべきだろうし――言っちゃ何だけど、今時の魔術師が簡単に組めるような代物じゃない。とすると……」

魔導道具アーティファクト?」

「なら、まだ良いかも。……図書館にも行く必要がありそうだね。実物見ないとどうも言えないけど」


 ……話を聞いた時、僅かに昔の記憶が頭を掠めた。こういう時は大体事実だ。嫌なことに。


「何かまた、昔の関係者が絡んでそうなんだよなあ……」

「嫌なことですか」

「……大方はね。昔の関係者に、おおよそまともな奴はいないよ」

「……じゃあその気分、上書きしましょうか」


 ……肩の感覚が消える。思わず横を向くと、ミアが両手を広げている。


「……つまり?」

「かまってください。さびしいので」

「……おいで」

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銘なし配達人《ネームレス・ポストマン》の配達スローライフ 猫町大五 @zack0913

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