第2話

「よう、達者そうだな」


 部屋の中、見知ったゴブリンが席に着いていた。


「会長こそ」

「おいおい、会長は止めてくれよ。俺もたまには仕事を忘れたいんだ」

「俺たちゃ仕事で来てるんですがね……」


 名をブルタークと言う。昔の職場の上司で、今は首都アーカムの商人ギルドの会長様マスターだ。


「ミアも一緒か。二人並ぶと、あの頃と変わらんな」

「社長さんこそ」

「まあ食え。話はその後でも構わんさ」






「ヴィル、お前魔術防壁って知ってるか?」

「魔導防壁?まあ、人並みには」


 これでも一応魔術師の端くれだ。よく分からない動物肉の煮付けを咀嚼しながら応えた。ミアは夢中で俺の倍ほども食べている。


「そうか……まあ、今回の仕事にも関わってくるもんでな」

「……受けるとは言ってませんよ?」

「構わん。金の話も後だ。悪いようにはしない」


 ……俺もミアも、個人的には随分世話になった。普段は金の話から入るのだが、それでは無礼でなおかつ筋も通らない。


「……伺いましょう」

「流石はハルトマン配達社だ、話が分かる」


 社長はエールを煽ると、語り始めた。


「……冒険者ギルドから連絡があったのが、数日前のことだ。首都郊外のとある迷宮ダンジョンでトラブルがあったとね。俺直々に来て欲しいと」

「わざわざ商人ギルドのマスターを呼ぶことですか?」

「向こうさんとも付き合いは長い、その辺りの事情はよく分かってるさ――それでだ、その、魔導防壁の話になるわけだ」

「どういうことです?」

「ダンジョンの最下層近くでな、未確認の魔導防壁が発見された」

「へえ」

「……最初は安全点検のために入ったらしい。現場近くの床に亀裂が入ったらしくてな。放置すると危ねえってんで、内部確認のために重装備の探索隊が入った。……帰ってこなかったがな」

「……はい?」


 俺もエールを煽った。捜索隊というのは、冒険者ギルドお抱えの腕利きパーティのことだろう。最下層近くに潜る辺り、間違いなく百戦錬磨の強者揃いだ。


「丸一日経って連絡もないんで、心配になって後続連中に潜らせたら……巨大な魔導防壁があったってよ」

「……じゃあ、破りゃあ良いじゃないですか」

「破れたんなら、お前んとこに頼みゃしねえよ」

「……破れなかったんですか?」


 魔導防壁とは、読んで字の如く魔導技術による防壁だ。範囲・効力の大小や細かい特徴はあれど、物理・魔術攻撃を加えればその内破れる。効力は大概その防壁の規模に比例するから、腕利きパーティ数個分の火力もあれば、十分破れるはずなのだが。


「――魔術攻撃・物理攻撃の一切を吸収ドレインするんだ。おまけにどういう仕組みか知らんが、そのエネルギーを防壁の強化に回すらしい」

「つまり、攻撃すればするほど防壁が強力になる、と?」

「ああ。悪いことに通信も効かん。……捜索隊の携帯食料ももうじき尽きる。二、三日が山ってとこだ」

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