第11話 新たな出会い



 ソウルワールドは現世と接続し、配信を続けている。

 配信がされることによって、安全が確保されているのだ。


 だがこのソウルワールドでは一部、洞窟系や深層ダンジョンは〈配信外〉となる。


〈配信外〉のダンジョンは、高レベルであり死地ということだ。


 ゆえに報酬が高


 毒沼竜の洞窟もまた〈配信外〉〈高報酬〉だった。


 報酬は全部、毒島達に取られたんだがな。



「洞窟の向こうに、風を感じていたが。こんな【奈落の入り口】があったんだな」


 ラビの洞穴から出た俺は、毒沼竜の洞窟のさらに向こうを探索していた。


 掌をかざし光る板のマップを表示すると〈ならく〉とだけ表示される。


 俺はステータスを開いた。


 奈落に挑戦できるパラメータかどうか今一度自分を顧みる。



神裂アルト レベル51 ブレスマスター


HP 1230

MP 907

TP 707

攻撃 988(最大2964)

防御 783

魔攻 533

魔防 533

速さ 988

運命力 0

体格 50

移動 50


【バイタル】グリーン

【スキル】呼吸

【アビリティ】不運、強肺、成分解析、毒耐性、呼吸経験値変換、呼気感知、身体強化、イノベーション進化、アビス適性、

【ギフト】カナリア、ブレスマスター



(どれだけ強くなっても、NTRされたんじゃな)

 

 人里にいても石を投げられ、嘘つき呼ばわりされる。


 誰かの助けを得られることもない。

 狡猾で不人情な人間社会に疲れてしまった。


(子供の頃から挨拶は欠かさずやっていたし。病院の人にも愛されていた。掃除とか仕事だってちゃんとやってたのに……。どうしてこうなっちまったんだろうな)


 いざソウルワールドにでたらこの有様だ。


(アビリティにある不運のせいなのかな)


 俺の運のパラメータも0のままだ。


 もしかして、と考える。


 運が0のままなら、どれだけ強くても社会でやっていけないのでは?


「はは。現実と一緒なんて笑えねーよ」


 ならば、もういい。


 どこまでも深淵アビスを進んでいこう。


 俺は毒沼竜の洞窟跡地を進む。


 突き当たりには大きな岩があった。


 洞窟の天井までを覆う、巨大な岩だ。


「やっぱり。この岩からかすかな風を感じる。おびただしい瘴気のような……」


 ふと視界の端に影がしゅんとよぎった。


「誰かいるのか?」


 影の方向にふっと息を吹きかける。

 俺のブレスは空気の弾丸となって、影に着弾した。

 思わず反射的に攻撃したが〈ブレスマスター〉だけあり、『息を弾丸にできる』ようだ。


「いったぁい!」


 洞窟の影からは、金髪で褐色肌のギャルめいたドワーフの女の子がでてきた。

 尻もちをついていて痛そうだった。


 新たな力を確認しつつ、女の子に歩み寄る。


「なんだよ。じろじろ見て。襲う気か?! 私は可愛くないぞ!」


「いや。可愛いだろ」


 俺は反射的に応えてしまった。

 可愛くないと言われたから可愛いと応えたのだが、褐色の少女は後ずさる。


「くるなよ!」


 ドワーフといっても見た目は、人の少女と変わらない。


 金髪で褐色肌で、胴や腕が太い。


 小柄でずんぐりしているが、太い腕や腿は健康そうで、見ていて安心する。


 どっぷりした猫をみるような安心感がドワーフの女の子からは感じられた。


(というか、ぽっちゃりも俺のストライクゾーン好みだからな)


 ぽっちゃりは、一つの正義だ。


 ドワーフ少女は俺を警戒しつつ尋ねる。


「あんた……、どうしてこんなところにいるの?」


「【先】をみたいと思った。俺には深淵がお似合いだからな」


「もしかして。あんたも毒沼竜に挑戦して逃げ帰った人?」


「……まあ、そんなとこだ」


 毒沼竜を倒したのは俺だが、言わないでおく。


 ドワーフ少女は少しだけ警戒を解いたようで話しかけてくる。


「私は毒沼竜が倒されたって聞いたから。さっそくこのダンジョンの向こうを探索しようって思ったの。鉱山資源があるみたいだから、いち早く目をつけたんだ。皆は毒の瘴気が怖くて近づかないけどね」


「へぇ」


 その毒の瘴気も俺が全部食っちまったが、いわないでおく。


「毒沼竜を倒したのは毒島って戦士らしいけどね。なーんかあいつ怪しいのよね。街で豪遊してるし」


「……そいつは嘘だ。倒したのは俺だよ」


 俺はつい本当のことを言ってしまう。

 信じてくれる奴なんて、いやしないのにな。


「あっはは。あんたが毒沼竜を倒した? そんなに細いのに?」


 街では毒島の嘘が本当になっているようだった。

 クソ現実では声が大きくて平気で嘘をつくサイコパスが勝つんだ。


 確かに俺は見た目は細いのだろう。

 だがひ弱なわけではない。


「だったら、確かめてみろよ」


 俺は腹筋を差し出す。

 少女は俺をペタペタと触ってくる。


「何、これ……? 腹筋なの?」


 ドワーフの少女は驚愕した。腹筋を触られたことで、俺自身も驚いていた。 


 ただの筋肉ではない。


【凝縮された力】が腹には宿っている。


 俺は高濃度の毒を吸って成長したようだが、どうやら【高濃度の毒=高濃度の栄養】として変換されたらしい。


「あんた、人間?」

「一応、人間のつもりだ」


 人間社会からは迫害されたがな。


「まあ、いいわ。強そうなのはわかったけど。さすがにこの大岩は砕けないでしょ。私もここで詰んでてさあ。どうしよっかなって迷ってたんだ」


「武器はあるか? 貸してくれ。岩を砕いてみたい」


 ドワーフ少女はぽかんとした。


「私は持ってるけど。あんたは武器持ってないの?」


「ない」


「丸腰でここに来たの? それどんな初心者? 話にならないわ」


「無一文だし、信用も奪われたから。武器も変えなかった。クエストさえも紹介されなかったんだ。稼げるアテがここしかなかった。だから岩を砕いて先に進みたい。武器を貸して欲しい」


「いや武器を渡すわけないでしょ。もしやあたしを殺して犯そうと……」


 そのとき、巨大な蝙蝠が少女を襲った。


「え?! きゃああああ!」


 俺は手刀で巨大蝙蝠をたたき落とす。


「おらぁ!」


 巨大蝙蝠は真っ二つになった。

 どぼぉ!と流血が走る。



「あんた、もう徒手空拳でよくない?」

「岩も拳で割るか」


 俺は肩を回し、岩に向けて拳を放とうとする。

 ドワーフ少女はため息をついた。


「変な奴。しょうがないなぁ。一回だけなら、武器貸してあげるよ」

「いや。その必要は無さそうだ」


「本当にやる気?」


 俺は岩の向こうから瘴気が漏れているのを感じている。


「すうぅぅぅ……」


 その瘴気を吸い込む。


 毒耐性と呼吸身体強化で攻撃力が倍加する。


「はああっぁああああああ……!」


岩の向こうの瘴気はとても濃い。

俺の攻撃力は5倍になった。


【攻撃 988(最大2964)→4940(最大値更新)】


「はあぁぁああぁあぁっっ!」


 俺がしたのはただの正拳突きだ。

 岩にひびが入り粉砕玉砕、穴が空く。


「うっそ、でしょ?」

「行こうか。俺は神裂アルト。君の名前は?」


「……タキナだ。名字は捨てた。でもいいのか? あたしは敵対してたろ」

「気にしないよ。相手がいれば気が紛れるし。せめて、ひとりでいる人は信用したいんだ」


「悪いやつじゃあなさそうだね」

「お互いにな」


 金髪褐色のドワーフギャル、タキナが仲間になった。



【タキナ レベル20 ドワーフスミス】


HP 302

MP 407

TP 302

攻撃 150

防御 180

魔攻 96

魔防 96

素早さ 60

運命力 200

体格 20

移動 10


【バイタル】グリーン

【スキル】錬金

【アビリティ】鍛冶、鑑定、解剖、強健、頑丈。

【ギフト】確定ドロップ


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ドワーフギャルはマスタースミスの夢を見るのか?



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