第6話 覚醒と死闘



 パーティの全員は、洞窟深層の脇に空いた小さな洞穴ほらあなに逃げ込んでいた。

 毒島は姫宮と共に洞窟へ。

 他の男達もどうにか洞穴に入り込んでいた。 瘴気のブレスが深層に充満している。

 紫色の瘴気の中心で、俺は佇んでいる。

 毒沼竜の顔が見えた。

 洞窟深層。密閉空間。毒のブレス。

 この条件が揃えば毒沼竜は最強となるのだろう。


「ふぅ、ふぅ」

 俺は息をしている。毒耐性があるからだ。

 瘴気が晴れると、毒沼竜は以外そうな顔をした。


「ナゼ、イキテイル?」

「しゃべれたのか?」


「竜には知性がある。人族の街への侵攻は常に考えているがな」

「侵攻してくるんだから、討伐対象なんだろ」


「タガイノ利害ガ合ワナイナラバ、闘ウシカナイ」

「ふぅ。ふぅ。だな」


 俺は腕に力を込める。

 ブレスマスターとなったことで、能力が上昇したようだ。

 パラメータを見る暇はないので、自分の力は無自覚だがな。


【毒沼竜ガルムガルトロス】レベル70


討伐ランク 不明


HP 3230

MP 1808

TP 1808

攻撃 1001

防御 1033

魔攻 1033

魔防 2033

速さ 866

運命 300

体格 2500

移動 30



(瘴気を受けたときは死ぬかと思ったが)


 瘴気のブレスを受けてなお俺のバイタルはグリーンのままだった。

 今は後遺症も何もない。

 瘴気を受ける前よりもピンピンしているくらいだ。


「弱きものよ。覚悟はできたか?」


 毒沼竜ガルムガルトロス(ガルムと呼ぶことにする)の声が鮮明に聞こえた。

 呼吸を読むことによる第六感で、竜のカタコトもわかるようになった。翻訳能力ってわけか。

 言葉がわかるとより残酷な現実が立ちはだかる。

 俺を殺すのは確定らしい。


「覚悟はてめーのほうだろ」


 とりあえずイキってみる。

 竜と1体1。逃げ場はなし。


 姫宮も脇の洞穴に隠れている。

 彼女を置いて逃げても俺は後悔に苛まれるだろう。


(一緒に入院してきた仲だった。ずっと一緒に、闘病してきた。一緒にソウルワールドで冒険するって約束したんだ。姫宮は見捨てない!)


 ならば開き直るまで。


 新たに生まれた〈ブレスマスター〉というクラスを信じるしかない。


 落ちていた斧を拾い上げる。

 毒島の斧だ。


 軽い。片手で持てる。

 あいつはこんなものを両手で持っていたのか?


 左腕では爪田の大剣を持った。こちらも軽い。

 片腕で楽勝で持てる。


 あいつらこんなに弱かったのか?


 脳内にアラートが浮かぶ。


【酸素濃度上昇】

【筋力限定膨張】

【稼働時間3分】


 なるほど。

 呼吸によって筋力がアップするのか。

 

 右手に戦斧。

 左手に大剣。


 刃そのものとなった俺は


 自分の10倍以上もある毒沼竜と対峙する。

 このとき俺の攻撃力の強化幅は3倍となっている。



神裂アルト レベル51 ブレスマスター



HP 1230

MP 907

TP 707

攻撃 988 →【強化時2964】

防御 783

魔攻 533

魔防 533

素早さ 988

運命力 →0

体格 →50

移動 →50


【バイタル】グリーン

【スキル】呼吸

【アビリティ】強肺、成分解析、毒耐性、呼吸経験値変換、呼気感知、身体強化、イノベーション進化、アビス適性、

【ギフト】カナリア、ブレスマスター、


「行くぜ」

「来い。人間ン!」


 決死のタイマンが始まる。


 瘴気のブレスの隙をついて、俺は竜の顎に踏み込む。

 剣をつきたて、内部から破壊していく。


「オオオオァァアアアアア!」


 紫色の体液を浴びて、なお俺は斬り続ける!

 多少切っただけでは毒沼竜は殺せない。


 背中の毒噴出穴から、さらに瘴気が噴出!


「ガンバッタナ人間。だが体内瘴気は濃度が高い。すべからく、息絶えるのみ」

「知らねーよ」


 俺は呼吸の力と毒耐性で瘴気に適応。


「ナン……?! 動きが更に速く?!」


 斧と大剣を乱舞され、毒沼竜の龍鱗に打ち付ける。

 だが切れ味は悪い。斧も大剣も重さで打ち付ける武器だからだ。


「斬れねーな。だったらよぉ!」


 ぼっ、ぼっと大剣を龍鱗に打ち付けつつ、俺は刃そのものを削っていく。

 斧と大剣は龍鱗で刃こぼれしつつも形状を変えていった。


「武器が壊れタ、ヨウダナぁ!」


 竜の太い足が俺の脇腹に着弾!

 肋骨がバキバキバキと音を立てて折れる。


 ごばぁ!と信じられない吐血をする。

 

「死んだな」


 吹き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられる。

 背中がめり込み、衝撃で壁に亀裂が入る。


 俺の体からはザクロのように流血が飛び散っていた。


 前足の一撃で死に至る。

 それが竜のもつ攻撃力なのだ。


「あんたが、毒を使う竜だってのが、がはぁっ……。誤算、だったな」

「何故、立てる?」


 俺は立ち上がっている。

 骨が折れ、吐血し、全身血まみれだが、すでに回復は始まっている。


「このスキルは【ただの呼吸】って奴じゃない。呼吸ってのはようするに進化の本質なんだろうな」


 洞窟には瘴気が充満している。

 俺にとって毒はもはや回復の材料だった。

 

 毒を栄養に変換!


 折れたアバラが修復されていく。

 

「ソウカ。お前ハ……!」

「ああ。あんたにとっての天敵のようだったな」


「イツカ、来るトオモッテイタ。ソウルワールドには、こうした穴があるからおもしろい」


 俺は斧と大剣をこすり合わせる。

 

 キイイイィイイイインン……!


 音とともに、刃こぼれした刃が鋭利になる。

 だが鋭くしたかわりに耐久を失った。


 次の攻防が最後になるだろう。


 鋭利になった斧を振るう。

 竜の前足とぶつかり合い、斧は砕けた。


 もちろん囮だ。


 鋭く婉曲した肉きり包丁のごとき大剣で、毒沼竜の胴体に刃を入れる。


「ウオオオァアアアァアア!」


 巨大な肉きり包丁となった大剣を竜の胴体に走らせる!


 尾までを切り開いた。

 毒の血が俺を包み込む。

 もちろんこれも養分にする。

 

「オマエとの戦いは楽しかッタ。我が竜という役割にスギナイトシテモダ……」


 毒沼竜ガルムガルトロスは意味深な言葉を残し絶命した。


 戦いは終わった。

 言葉の意味が気にはなったが……。

 俺は手を合わせ、鎮魂する。


(皆、は……?)


 脇の洞穴からはパーティの呼吸音が聞こえていた。


 瘴気が充満したことで、皆が死ぬかと思ったが、俺がすべての瘴気を取り込んだおかげで生きていたようだ。


 俺は呼吸を感知する。

 姫宮の声が聞こえた。


 聞いたことのない、艶美な響きを含んでいた。



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運命(ラック)0の主人公ですけど、好きになってもらえれば嬉しいです。




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