第17話 ベータ居住用巨大ドーム『リリアム』

 ――2050年 リリアム建設 

  (ジーン20歳、サーシャ15歳)


 二十歳になったジーンは天才的な能力を発揮して二つの大きな事を成し遂げる。一つは、形成外科手術や遺伝子操作だ。ベータの女性に手術を施し、見た目は従来の人間(アルファ)と変わらないようにする。自ら希望する一部のベータに次々とその様な処置を行った。さらにベータの寿命を延ばしたり、超能力を強化したりとあらゆる人工的進化を手掛けるようになった。


 もう一つは、南アフリカにリリアムという秘密の巨大な拠点を構築したことだった。リリアムは超巨大なドームで迷彩外壁を施している。一般人(アルファ)から隔離してベータの半永久的な居住地とすることが主な目的である。


 そして、2年の月日をかけて、ついにリリアムが完成した。ジーンと彼女の右腕であるサーシャが出来たばかりのリリアムの全景を眺めている。


 サーシャはまだ弱冠十五歳ながらジーンに継ぐ恵まれた才能の持ち主で、ジーンに代わりリリアムの建設を主導した。


「ジーン、遂にできましたね」

「うん、サーシャ。君のおかげだよ」

「これで世界中のベータを招き入れ、平和な生活を営んでもらうことができます」

「そうだね」


 このリリアムはそれはそれは巨大で、しかもこの世の物とは思えないような美しいドームだった。光学迷彩がまるでモルフォ蝶のように人工的な輝きをまとっている。


「私はここをベータの永遠の楽園にしようと思う。誰にも邪魔されないように……」

「できると思います。リリアムはジーンが産み出した最先端技術の結晶です。本当に美しいです」


「一つ重要な問題がある」

 ジーンが真剣な顔になった。


「それは……」

 サーシャはジーンが何を言わんとしようとしているかすぐに悟った。


「そう、サーシャはわかってるよね」

「ええ……」


 ジーンはそれを口に出してはっきり言った。


「永遠の居住地にするには、どうしても異性が必要。ベータの世界を維持するためには、子孫を残す必要がある。それには適切な男性を連れてくる必要がある」


 ジーンが呟くと、サーシャが言葉をつなげる。


「アルファの中でも非攻撃的でマイルドな性格を持つ、やや小柄な若い男性……」


 ジーンはドームを見つめながら続ける。


「その通り。攻撃的な遺伝子は要らない」

「全国にエージェントを送り込み、そういう男を連れ出してくるんでしたね?」


 サーシャもジーンと同じ方向を見つめる。この行為は真の目的を明かさずに誘うため、詐欺に近い。サーシャも覚悟を決める必要がある。


 ジーンはサーシャの方を初めて向いた。


「やってくれるわね?」

「もちろんです」


 二人の目的は一致していた。この種族間の争い、憎しみを絶ち犠牲者を出さないようにするには隔離するのが最も重要。隔離しながら種を維持するには、男性が絶対に必要なのである。

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