第18話 リリアム行きの空港での混乱

 ベータ居住用の大型ドーム都市『リリアム』 


 2054年。リリアム完成から早4年が経った。最初の3年間は高度な迷彩技術でその存在を知られることは無かったが、やはり大量のベータを随時収容するため、やがてその存在が明らかになってしまった。


 しかし、リリアムの存在が明らかになった後も各国はその取扱いを決めかねて、ジーン達の活動は黙認されていた。新たなベータの子供達へのリリアムへの集団移送は極力秘密裡に定期的に行われていたが、ある事件ではそれが事前に漏れてしまった。


 ベータ側は移送日程を変更しようとしたが、移送者が特定されてしまったため、襲撃を避けるために予定どおり早く対象のベータ達を移送せざるを得なかった。


 ―― 移送現場:マヤ国際空港


 空港入口は物々しい雰囲気が漂っていた。


 この日、ベータの少女達、約三十名が南アフリカに向けて移送される。

 サーシャ初め、ベータの保護活動家らが多数、サポートに駆け付けている一方で、その十倍はいようかという、敵対心丸出しのベータ非容認派がデモを行うべくごった返していた。


 19歳になったアルファとスカイは各々の立場で、この場で騒ぎが起きないようにとやってきている。アルファは既に軍に入ることを所望しており、警備の視点で来ている。男性でありながらベータの特徴を持つスカイはもちろんベータの立場で彼女らを守るためである。スカイ自身が目立たぬよう、黒髪に染め、カラーコンタクトをつけている。


 そして、スカイらの同級生である留学生キリーが同行している。彼の出身国をX国としよう。彼はX国の重要政治家の子供で、彼が近い将来、政権に入ることはほぼ確実である。彼の国は対ベータ強硬派の最先鋒だが、なぜかキリー自身は態度を保留していた。


 もう一人、やはりスカイらの学校に飛び級で入学しているエリスという女の子もいた。まだ14歳だが、身長はスカイ、アルファらとそん色なく、女子としては非常に背が高い。この時点ではまだ知られていなかったが、エリスは後にf1と呼ばれるベータ系統とは別の変異人類であった。


 そしてベータの女の子30人の中に異質の子がに2人いることをこの時点では誰も知らない。アイリス14歳、レナ9歳、彼女達はただのベータでは無かった。突然変異中の突然変異。後にベータ2と呼ばれる桁外れの超能力を持つ稀有な存在であった。


 2階からスカイがバスの到着予定場所を見張っている。その近くでキリーがアルファに話す。


「アルファ、この国の政府はベータがリリアムとやらに直行するのを黙って見過ごすのか? リリアムは正式に承認された場所でも国でもないだろう? 南アフリカさえも違法建設と認定しているんだ。移住の手続きも踏まない。これは明らかに亡命行為じゃないか」


「役人たちはどうしたらいいいか分からないんだよ。念力を持っているベータ達を力ずくで抑えて付けようとして、大混乱になるのを恐れているんだ」

「でもあれ、見て見ろよ」


 キリーが顎で示した先には今にも暴発しそうな怒りに満ちた群衆が周辺を囲んでいる。プラカードには『ベータを拘束せよ、秩序を返せ』だの『リリアムへの亡命反対』などと書かれている。警備もかなりの数がいるが、もし群衆が突入してきたら一般人なので何もできないだろう。


「これは、黙っていても大混乱になるのは必至だな。下手してベータを怒らせたら49年のロス衝突のような大惨事になる」

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