第15話_喰うか?

 「おい、そろそろ帰れよ」

 前触れもなく生徒会室の引き戸が開けられ、先生が入ってきた。

 涼介はこの先生を見たことはないが、生徒会長の木下の「はい。じゃあ、みんな帰るよ」の一言で、生徒会メンバーが全員立ち上がった。

 まだ、吐き気がひかない涼介は、星太に腕を掴まれ引きずられるような形で生徒会室を後にした。



 この日以降、放課後のたびに星太に拉致され、生徒会室に連れていかれることになった。連日続いているため、涼介は同級生の明からにらまれていた。


 ……明。言いたいことはわかっている。俺も忘れていないから。


 生徒会室に入ると、会長の木下と副会長の世良が必ずいた。他のメンバーは部活だったり、用事があったりでほとんど来ていないらしい。星太の話だと、定例会や会長の呼びかけが会った時くらいしか、全員集まることはないとのこと。


 涼介は生徒会室に入るなり、スマホと取り出した。スカウトマンの石田からアカウント情報をもらい、アプリ「コロッセオ」を使用することができるようになっていた。

 残り人数は42人となっていた。

 木下は「想像していたよりスローペースよね」と言っていた。



 涼介が生徒会室に連れてこられる理由。それは、アニマの使役をするための訓練だった。

 アニマを使役し、制御しないと自身の体内の中で暴走する。意識と身体を乗っ取られる。また、アニマ同士が近づくと狂暴になるらしい。

 数日前、生徒会室に行ったときに、生徒会全員がなんらかのアニマを持っていたはずなのに、なんであの時は暴れなかったのだろうと思い、木下に聞いた。

 「ああ、アレね。アレはお互い敵意がなかった。それだけよ」

 木下に即答された。が、涼介にはよく分からなかった。だが、星太によると、この狂暴になるという特性を生かせば、近くにコロッセオ参加者がいるかどうかの判断になるのだと言っていた。


 涼介の目下の目標は、アニマに意識を奪われないことと、他のアニマが近づいていることを把握できるよう敏感になること。あと、アニマを思い通り動かせるようになること。この3つである。                                                                                                                                                                                           

 涼介は毎日放課後に、生徒会室に来ては訓練をさせられていた。

 木下から「砂のポチ」という名前を付けられそうになったが、砂でいろんな形を形成できることを知り、星太が慌てて「ゴーレム」と名をつけてくれた。

 木下は不服そうな顔をしていたが、涼介は心の底から感謝した。



 今日も涼介は課せられた訓練を始めようとしたところ、木下のスマホが鳴った。

 「もしもし……?え……襲われた?」

 いつも笑っている木下が、この時ばかりは顔が青ざめていた。


 木下は教室を飛び出し、世良が続く。涼介と星太はその後ろを追った。

 校舎を飛び出し、涼介が毎日通うコンビニ方向。先頭を走っている木下は自身のスマホを耳に当てたまま走る。が、やがてペースが遅くなり、コンビニたどり着いたところで足が止まった。木下が腕を振るようにして指を指す。


 ……コンビニの裏?


 コンビニの裏にある住宅街。世良は木下を追い抜き、涼介も追った。

このコンビニには毎日来ているが、裏の住宅街の方へは行ったことがなかった。行く用事もなかった。

 初めて裏に回って知った、コンビニの入り口から死角となる路地。そこで、久原が和久井をかばうように立っていた。青ざめた和久井。久原の前には大学生くらいの男が1人の倒れており、その横で何かがうごめいていた。


 涼介の背中に鳥肌が立った。左手がざわついている。

 「涼介」と星太に呼ばれて我に返り、心を落ち着かせ、涼介のアニマ「ゴーレム」を抑えた。


 久原がこちらに気付き、「ようっ」と手を挙げた。現場の状況と裏腹に、どこか満足そうな顔をしている。涼介にはなんとなく理由が想像できたのだが。

 久原の話によると、少し離れて歩いていた久原の目の前で、和久井が路地に引きずり込まれたとのこと。木下の指示で、コロッセオが始まって以降、極力単独行動を避け、2人以上で行動するのを原則としており、今日は久原と和久井は距離をとってはいるものの、行動にともにしていたため、すぐに気付けた。

 「年上っぽいけど、優しく説教した」と言っていたが、足元に倒れている大学生は鼻から血を流して気を失っていた。ぜったい、右回し蹴りだ。


 久原は倒れている大学生に近づき、片膝をついてしゃがむ。その久原の背中から金属のような光沢のあるものがはがれ始める。はがれたところから、すぐに人型に形成された。完全に久原から分離した光沢人間は、そのまま大学生の方に手を伸ばし、大学生から何かを掴み持ち上げた。その手にはヘビ型のアニマがだらりと伸びていた。

 久原が「うわ。気持ちわる」と言いながら、ゆっくりと涼介の方に振り返る。

 「喰うか?」

 どこか嬉しそうな顔をしている久原。

 涼介は、「いらないです」と即答した。



 ヘビなんて食べたくない。

 それ以上に、木下のアニマを食べた時の不快感が忘れられない。思い出しただけで気分が悪い。



 「そうか。じゃあ、喰うわ」

 その言葉を待っていたとばかり、久原の光沢人間はつかんでいるヘビをさらに上に持ち上げた。口を大きく開き、尻尾の方からそのまま飲み込み始めた。




<登場人物>


■崎山高校

・伊藤涼介(ゴーレム):高校1年生。久原道場の元門下生

・古賀星太:高校1年生。生徒会所属。涼介の幼馴染。久原道場門下生

・高山明:高校1年生。同級生。思い出作りに燃える。

・長谷川蒼梧:高校1年生。同級生。美形。


・桜井千沙:高校1年生。同級生

・笹倉亜美:高校1年生。同級生

・小森玲奈:高校1年生

・池下美咲:高校1年生


・木下舞(デコピン):高校3年生。生徒会会長。学校内の人気絶大。

・世良数馬:高校3年生。生徒会副会長

・久原貴斗:高校3年生。生徒会議長。武闘派。久原道場師範代。

・上田琴音:高校3年生。生徒会総務

・美馬:生徒会2年生。生徒会会計

・和久井乃亜:生徒会2年生。生徒会監査



■株式会社神楽カンパニー

・神楽重吉:神楽カンパニー代表取締役会長

・白い仮面の男:スカウトマン・プロ―トス

・石田:スカウトマン・ヘクトス

・北上慶次:スカウトマン・エナトス、ラスボス


■不明

・水野:日本刀を持つ女

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