18. 戦士たちの奮闘

 僕はネコテック社のガラスのドアを引いた。


 その隙間から、リティたちがなだれこんでいく。リティを先頭とした総勢二十匹ほどの猫の群れだ。猫たちは目を光らせ、滑るように次々に進む。


 とたんに、会社の中が大騒ぎになった。鼠の甲高い耳障りな声と、猫のけたたましい唸り声が渦巻いている。


 開いたドアからは、ときおり鼠が逃げてくるが、それすら猫に噛まれて捕まった。


 また、ドアから鼠を咥えた猫が現れて、会社の外のどこかへ消えていった。――おそらく、鼠の死骸をどこかに片付けてくれているのだろう。リティの仕事は本当に行き届いている。


 それに、猫たちは鼠をどこかに処分して、また会社に戻ってきて、中に入っていった。



 僕はドアから少し離れ、なすすべもなく立ちつくした。会社の中は暗いのだが、ときおり窓の向こうに、ジャンプした猫の姿などが見えた。


 加藤さんは目を広げ、心配そうに会社のほうを見ていた。


 黒は苦々しい顔をして、


 「こりゃ、とんでもねえ戦いだな」


 僕は答えた。


「うん。そうだね……。これで鼠たちをやっつけられるといいけど」

「そうだな。だけどよ、それだけじゃないだろ」

「わかってる……」


 僕はそう言いながら、ビルの脇を見る。――そうだ、鼠退治だけではない。旧鼠塚をなんとかしなければ。


 そのとき、車とおりもまばらになった道を横切ってくる人影があった。――それは向かいの蕎麦屋の店主だった。それに、横にはフロアにいた年配の女性がいた。


 加藤さんは店主に気付いたようで、話しかけた。


「あ、どうも。どうされました?」


 すると、店主は驚いたようにネコテック社のほうを見た。暗い窓の向こうで猫たちの姿がおどり、唸り声や物音が続いていた。


「いや、話があってきたんですがね。なんですかこりゃ⁉︎」


 加藤さんは困った表情で、


「ちょっと、いろいろと混みいっているんですが……。鼠どもがとにかく……」


 すると店主は加藤さんに近づいて、


「そうです。鼠! 旧鼠塚のことで、この、うちの従業員が、見たって言うんです」

「見た?」

「ええ。ほら、ちょっとあんたから話してよ」


 そう言って店主は、横にいた女性を見た。女性はためらいがちに、加藤さんへ言った。


「あの。二ヶ月ほど前のことなんですが。店が終わったあと、帰るときに。――夜の九時頃でしたが。そこのビルの脇に、男の人が入っていくのを、見たんです」


 そうして女性は、そちらを指さした。加藤さんは言った。


「なんですって? 誰かが入った?」

「はい……。それで、なにか石の塊みたいなものを、持ち出したみたいで」


 そこで黒は僕に言った。


「おい、たぶんそれが、要石かなにかの、封印かもな」


 それには構わず、加藤さんは尋ねる。


「鼠がではじめたのは、その頃なんです! ――それで、その、石を持ち出したのは。どんな人なんですか?」

「あ、はい。たぶん、いつもお店にもいらっしゃる、おたくの会社の。メガネをかけた、ひょろっとした感じの……」

「え? 澤田が? まさか……」


 そこで、澤田さんは目を広げ、しばし固まった。


「うちの会社の社員で、メガネの痩せ型の者。それは、間違いないんですね?」


 女性はうなずいた。


「そうですね。それは、まあ。いつもお店にも、いらっしゃるので……」

「わかりました。情報提供、ありがとうございます。少し、電話をさせてください」


 そうして、加藤さんはスマートフォンを取り出して、僕らから離れていった。



 僕はあらためて会社のほうを見た。あらかた片付いたようで、社内は静かになっていた。


「よし、見てみようぜ」


 黒はそう言って、ドアへと近づいていった。僕もそれに続いて、懐中電灯を持って歩いていった。



 社内に光を向けると、キーボードやマウスや書類が散乱し、鼠のフンや死骸が転がっていた。


 そんな散らかった事務所の中に、猫たちは悠然とたたずんでいた。また、僕の目の前のデスクには、二又の尻尾の茶色い猫。――リティがいた。


「ありがと。リティ……。片付いたみたいだね」


 すると、リティは「ナーア」とひと鳴きした。


 ――異変があったのは、そのときのことだ。

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