第一章 夜の涙
1. サキュバスと夜の涙
『種を越えた愛は成立しうるか』
あの最初の試練について思い出すとき、僕はそのことを考えずにはいられない。なにせ、人間同士であってですら、僕らはすれちがい、争い、傷つけあっている。
『ナイトティアーズ』というコンセプトカフェ――いわゆるコンカフェに、その夢魔は潜んでいた。
それは女性の夢魔――西洋ではサキュバスと呼ばれる妖魔だった。サキュバスは夜な夜な男の元へ行っては、男を虜にし、交わり、その精気を吸い取るという。
あの夢魔はなにを思ったのか、わざわざコンカフェで『サキュバス』のコスプレをして、キャストとして客を迎えていたという。
たしかにコンカフェという場は、男との接点として効率がいいし、演じる必要がないという点で、楽な選択だったのだろう。
サキュバスがサキュバスを演じる。
それは一種のジョークじみているけれど、笑えない切実さがあった。
高木先生は、『素直さが重要だ』と言う。
もし妖魔に心があるのだとしたら、あの夢魔こそが、素直さと真心を持っていたと言えるだろう。
夢魔は恋をしていた。
そして僕はそんなことも知らずに、霜月を手に夜の街を歩いた。指示にしたがい、夢魔を狩るために。
実際のところ、あの一件は僕の心にとってこの上ない試練となった。
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