第48話 ドSとドM

「ハヤト君、こんばんは。今日の試食会を楽しみにして来ました」


「ハヤト、こんばんは。約束通りに来たわよ。美味しい料理を食べさせてくれるんでしょうね」



 ラモーヌさんとグレースさんが来店し、俺を見つけ声をかける。今は手を繋いではいないが、寄り添っていてとても幸せそうだ。



(幸せそうで何よりです。俺の鑑定スキルが無かったら、結ばれていない可能性が高い二人。二人の幸せそうな顔を見ていると、鑑定スキルを使って本当に良かったと思えるな)



「ラモーヌさんにグレースさん、こんばんは。今日は試食会においで頂き、ありがとうございます。ふふふっ、今日お出しする『パスタ』の味には自信があります。すぐに用意ができると思うので、こちらに座ってお待ちください」


『ありがとう』



 二人は席に着き、あれこれと話をしている。


 この二人が『ベガ』のメインターゲットの若い女性。俺は少し離れた所から二人を観察する。店の雰囲気と良く馴染んでいると感じられる。



(女性が楽しそうに食事をする空間が素晴らしく演出されているな)



 俺はジュリアさんのセンスに感心をする。



(前世で行った事のある大衆食堂とは凄い違いだよ…。絶対に俺一人では入る勇気は無いな。でもここは宿のレストランでもあるから、男性客が入りづらいというのは困るかも…。難しいな)



 俺はいろいろと考えながらラモーヌさんとグレースさん、その他のお客さんの観察を続ける。




 しばらくして『ふっ』と気づくと、グレースさんが俺に向かって手招きをしていた。



「どうしましたか?」



 俺は二人のテーブルまで行き、確認をする。



「どうしましたか?じゃないわよ!!この料理、物凄く美味しいわよ。ねぇ、ラモーヌお姉様」



(お、お姉様!?)



「はい、グレースさん。私もそう思います。すごく美味しいですよ!!」



(二人はあまりの美味しさに興奮して、我を忘れているようだ…。さすがに人前で『お姉様』とは呼ばないだろうから…まあ、そこは指摘するまい!!)



「ありがとうございます。詳しく聞かせてもらえると今後の参考にもなるのでありがたいのですけど…。どうですか?」



 二人の目が『キラリッ』と光る。言いたい事、聞きたい事がたくさんあるようだ。



「まず、私とラモーヌお姉…、ラモーヌ先輩のパスタは少しソースが違ったんだけど、何種類のソースがあるのか知りたいわ」


「…あっ、そ、そうですね、現状は五種類ですね。トマトをベースにしたソースが三種類と、卵や生クリームやチーズを使用したソース、ニンニクと唐辛子を使用したものがあります。ただし、現状はと言った通り、今後、料理人によりレパートリーはどんどん増えていくと思いますよ」


「五種類!?お、おかわりはできないの?出来れば違うソースの物を食べてみたいわ!!」


「すみません。今日は試食会なのでおかわりは出来ないんですよ」


「…そうなんだ」



 グレースさんは『ガクッ』と、肩を落とした。


 そんなグレースさんを見て『クスリッ』と笑うラモーヌお姉様…じゃなく、ラモーヌさん。



「ハヤト君、私はやっぱりお値段が気になるわ。これだけ美味しいんだもの…毎日でも食べたいくらいだわ。でも…現実的には、お値段次第というところかしらね」


「そうですね。始めは二千から三千エン位を考えています。まあ、値段は需要と供給次第ですから、将来的には変動するとは思いますけどね」


「二千エンから三千エンかぁ~。思ったより安いと思うわ。っていうか、このレベルの食べ物を提供してくれるお店を私は知りません。少なくとも、リーズには無いと思うわ。まあ、王都まで行けば在るのかも知れませんけど…」


「なるほど…。ではこの値段として、ラモーヌさんは『ベガ』に食べに来てくれますか?」



 ここが一番重要。絶賛だけされて終わりでは、商売は成り立たないのですよ!!



「…では、正直に言いますね。毎日は無理です。でも、週末には必ず来たいと思っています。ふふふっ、出来得る事なら今から席の予約をしたいくらいだわ!!」


「ありがとうございます。席の予約は考えていなかったですけど、一つの意見として参考にさせてもらいますよ。予約をしないと食べれないくらいのレストランになれるようにがんばります!!」


「ふふふっ、がんばってね!!あと…」


「あと?」


「これは私のわがままなんだけど…甘味が欲しいわね」


「甘味?ですか」


「そう、甘味!!。これだけ新しくて美味しい料理が作れるのですもの。絶対に美味しい甘味も作れると思うのです!!」



 ラモーヌさんは甘味に並々ならぬ思い入れがあるようだ。拳を握り締め力説をした。



「ふふふっ、ラモーヌさん。良いところに気が付きましたね。僕も同じことを考えていました」


「本当に!!」



 思わず立ち上がり、満面の笑みを浮かべて喜ぶラモーヌさん。


 

(うわぁ~、凄い!!)



 ラモーヌさんが勢いよく立ち上がった瞬間、お胸が『ボヨン、ボヨン』と揺れる揺れる。思わず、目が釘付けになってしまいましたよ。



(仕様がないだろ!!男なら誰でも目が行くよ)



 俺は心の中で言い訳をするが、それ程までに素晴らしいお体をしていたのだ。でも残念なのは、この立派なお胸は、男性の為についているのでは無いという事…。もったいない!!



「ラモーヌさん、今すぐには作れませんが、甘味は必ず用意しますから、期待して待っててくださいね」


「はい!!期待していますね!!」



 満面の笑みを浮かべ喜ぶラモーヌさん。しかし…ここでグレースさんが不用意な一言を言ってしまった。



「ラモーヌ先輩、甘味、甘味ばかりではさらに太りますよ」



 ラモーヌさんの顔から笑顔が一瞬で消えたかと思うと、能面の様な無表情になった。



「さらに…今、さらに太ると言いましたね?」



 表情を無くした美しいお顔。目を細めてグレースさんを睨みつける。



(……………)



 俺はあまりの恐怖で言葉を無くし、グレースさんに助け舟を出すことができない。



「…グレース。帰ってからお仕置きです。覚悟をしておきなさい!!」



 感情の無い表情で冷たく言い放つラモーヌさん。



(ヤバイ、ヤバイ!!何とかしないと、大変な事になる!!)



 俺は少しパニックになりながらグレースさんの顔を見るも…。


 グレースさんは顔を赤くし



「…はい。ラモーヌお姉様」



 と、妖しく恍惚とした表情で答えた。



(はっ!?)



 俺は言葉を無くし、二人が店から出て行くのを見送った。


 そして思ったのだった。



(この二人の美女は帰ってから、どんなプレイをするのだろう)



 想像しただけで、何とも言えない気持ちになったのだった。






【ラモーヌ視点】


(このパスタという食べ物、凄く美味しいわ!!あぁ…おかわりできないのね。残念だわ…。でも、最近少し太り気味ですから、我慢しましょう)



 私は少しだけ、本当に少しだけお肉が付いているお腹を擦りながら思う。


 でも、ハヤト君に甘味の要望をしてしまいました。



(こんなに斬新で美味しい料理を作る事ができるのです。きっと私などが考える事ができない甘味も作る事ができる事でしょう。うふふふっ、どうしましょう…。また少しだけ、お腹にお肉が付いてしまいますね)



 私は大きな期待と忌々しいおなかに付いているお肉の事を考えていると、グレースさんが…否、グレースが聞き捨てならない発言をしたのです。一瞬、耳を疑ってしまいました。



「ラモーヌ先輩、甘味、甘味ばかりでは、さらに太ってしまいますよ」


(今、何と…、今、何と言ったぁ~!!ふふふっ…面白い、とても面白いですわ…グレース!!)



 私は感情をすべて押し殺し、グレースに言い放つ。



「…グレース。帰ってからお仕置きです。覚悟をしておきなさい!!」



 私はグレースにはもう一段上の調教…いえ、躾が必要だと思ったのでした。



【グレース視点】


(これは美味しい。ハヤトが自信満々で言うだけの事はあるわね。このパスタという料理を食べたら、他の店には行けなくなってしまうわよ。でも、毎日食べられるものでは無いわ。きっとお値段も高いだろうし…。だとしたら、この味を知ってしまうという事は、天国でもあり、地獄でもあるという事…)



 私がそんな事を思っていると、お姉様がハヤトに値段を聞いてくれた。



(お姉様、さすがです!!どうか私のお給料でも気軽に食べに来られる値段にしてください!!)



 私は心の中で願わずにはいられなかった。



「そうですね。初めは二千から三千エン位を考えています。まあ、値段は需要と供給次第ですから、将来的には変動するとは思いますけどね」



 ハヤトの言葉を聞いて、思わずテーブルの下で拳を握り締めた。



(よし!!この値段なら…私の給料でも…)



 毎日は無理だとしても、節約すれば週に何回かは食べに来られる。非常にありがたい値段設定。私はハヤトに感謝をしました。


 そして気分の良くなった私は、うっかり口を滑らせてしまいました『ラモーヌ先輩、甘味、甘味ばかりでは、さらに太ってしまいますよ』っと…。


 すべての感情を失ったかのようなお姉様の表情…ゾクゾクします。


 そして…



「…グレース。帰ってからお仕置きです。覚悟をしておきなさい!!」



 私に向かって言い放たれた言葉…お姉様、最高です!!



(…お仕置き、あぁ…お仕置き。たまらない響き。体が熱くなってしまいます。うふふふっ、お姉様にとってはお仕置きでも、私にとっては嬉しいご褒美…)



 私は湿ってきた下着など気にせずに、ハヤトに最大限の感謝をしたのでした。

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