第47話 おっさんには不似合いじゃ!!

 試食会の当日、俺が眠い目を擦りながら一階に降りていくと、ジュリアさんとリスグラシュー、それにアパパネが忙しく動き回っていた。試食会に万全な態勢で臨もうと、早朝から準備をしているのだ。



(もっと気楽に、のんびりとしていてもいいじゃないのか?と思うものの、みんなのやる気をそぐ事は言わない方が良いだろう)



 リスグラシューが料理を作り、アパパネが給仕をする。そしてジュリアさんが食堂の装飾品や照明はもちろん、お皿やフォーク、ナイフなどの細かな備品までを揃え、統一感を演出している。その結果、おしゃれで良い雰囲気を作り出している。これは女性には人気が出るのではないだろうか。



(適材適所というやつだな)



 俺はみんなの動きを見てそう思い、感心したのである。



(俺は蚊帳の外…か)



 少し寂しさを感じるも、もう一人の蚊帳の外が起きてきた。



「おっはよ~~!!ふわぁ~~!!」



 俺の想いとは真逆のご陽気な挨拶と大あくびに、思わず苦笑をしてしまう。



「アレグリア!!ハヤト君の目の前で大あくびなんかして、はしたないわよ!!」



 少し離れたところからジュリアさんの苦言が飛んできた。



「えへへへっ、ごめんなさい」



 舌を『ペロッ』と出して謝るアレグリア。むっちゃ可愛い。



「みんな気合が入っているわね!!」


「あぁ、そうだな!!」



 俺とアレグリアは椅子に座り、みんなの動きを見ながら話をしている。



「でも、残念だけど私達に手伝える事は無さそうね」


「そうなんだよ。下手に手伝うと足を引っ張ってしまいそうで怖いんだよ」



 俺とアレグリアがそんな事を話しているとジュリアさんがやって来て



「そんな事は無いわよ。猫の手も借りたいくらいなんだから…。朝食が済んだら、二人で宿の周りのお掃除をしてくれると助かるわ」


『了解しました!!』



 ジュリアさんのお願いに即答する俺とアレグリア。


 俺もアレグリアも少しでもみんなを手伝える事が嬉しいのだ。ただ、朝食を済ませ、掃除をしようと表に出てみたが、日頃ジュリアさんがこまめに掃除をしているので、全然ゴミも落ちてなく、すぐに掃除は終わってしまった。


 今日は人生相談所も修練も休みにしたので、夕方までアレグリアとのんびり過ごし、試食会の時間を待っていた。






 夕方になり、試食会のお客さんが『ポツポツ』とやってきた。一気に来られても対応に困るので、時間差をつけてある。この時間帯はジュリアさんやアレグリアの知り合いとブロディさんがやってきた。



「ブロディさん、よく来てくれました」


「………ハヤト、帰りたいぞ!!」


「お気持ちは分からないでもないですが、試食はお願いしますよ」


「…試食会で招待されたから入れるが、こんなしゃれた店、わしが一人で入る事はできんぞ!!」


「…ですよね~。俺も一人だったら入るのに勇気がいると思いますよ」



 俺とブロディさんがこんな会話をしているうちに、アパパネがパスタを運んできてくれた。



「じゃあ、さっさと食っちまって帰るぞ!!」



 ブロディさんはお皿を持ち上げ、フォークでパスタを一気に口へと運ぶ。マナーなどお構いなしである。



「!?」



 一口、パスタを口に入れると、ブロディさんの目つきが変わる。そして『あっ』という間に完食してしまったのである。



「ハ、ハヤト!?これは何という食べ物なんだ。滅茶苦茶美味いじゃねぇか!!」


「ふふふっ、これはパスタという食べ物ですよ」



 そして小声で



「俺のいた世界の食べ物。つまり、異世界料理という事です」


「…パスタ、異世界料理。もうないのか!?追加で注文するぞ」


「ごめん。今日は試食会なので、追加注文はできません」


「ぐぬぬぬっ。ど、どうしてもダメか?」


「ダメです!!」



 俺はガックリするブロディさんを見て手ごたえを感じていた。若い女性がメインターゲットだが、おっさんにも普通に通用しそうだ。



「ブロディさん、このパスタ一食分にいくらまでなら出せますか?」


「正直、俺は金に困ってねぇから、食いたかったら金額は関係ない。いくらでも出す。じゃが、あえて値付けをするとすれば…五千エンくらいか」


「…五千エン」


「んっ!?安すぎか!?」


「いや、そういう訳では…ありがとう。参考にします。あと、店に対しての要望とかあったら聞きたいんですけど…」



 俺は試食会の本来の目的である情報収集を開始した。



「客が俺一人でも入りやすくしてくれ!!あとは酒だな!!」


「酒!?」


「あぁ、どうした。酒は置かないのか?ドワーフは酒が無いと生きてはいけん!!強い酒を置いてくれ!!」


「酒かぁ…検討はしてみますが、あまり期待しないでください」


「いや、期待しているぞ!!」



 ブロディさんは『がはははっ』と笑いながら、店を後にしたのだった。






【ブロディ視点】


(飯なんか腹に入ってしまえば皆同じだろうに…面倒じゃわい!!)



 わしはそう思いながら、アレグリアの母親が経営している宿『ベガ』に入っていった…が、即、店から出て行きたい衝動にかられた。



(な、なんじゃ!?この店は…)



 おっさんのわしには不似合いなおしゃれな空間…はっきり言って、場違い感が半端ないぞ。



(ハヤトやアレグリアに見つかる前に帰っちまうか…)



 そう思い、宿から出て行こうと思った瞬間



『逃がしませんよ!!』



 と言いながら、ハヤトとアレグリアに両腕をつかまれ、席まで連行されてしまった。不覚じゃ…。



「こんな店、落ち着かんわい!!ハヤト、お前もここに座っとけ!!」



 わしはハヤトを強引に席に座らせた。要するに、わしを一人にするな!!という事…。ハヤトもわしの心情が理解できたようで、苦笑いしながらも付き合ってくれたわい!!良い奴じゃ!!


 早速、パスタなる食べ物が運ばれてきよった。



「じゃあ、さっさと食っちまって帰るぞ!!」



 そうハヤトに向かって言い放つも…



「!?」



 (止まらん!!)



 あまりの美味さに秒で食べきってしまったわい!!パスタという食べ物は絶品じゃ。今までわしが食べてきたものが魔物の餌かと思うほどじゃったぞ。


 わしは思わずハヤトに『一人でも気安く入れるように』と、要望を出してしまうほどに美味かった。絶対に今のままではいかんぞ!!おっさんが気安く入れん!!あとは酒だ、酒!!強い酒が置いてあれば完璧じゃ!!


 わしは来た時の憂鬱な気持ちなど忘れ、大満足で工房まで帰ったのじゃった。




☆☆☆☆☆★★★★★☆☆☆☆☆★★★★★


 あとがき


 近況ノートは読まれないという事なので、これからはここに更新予定などを書かせていただきます。

 GWは時間があったので予定外の更新ができました。読んで頂き有難く思っています。また木・日更新に戻ります。


 あと、出来ましたら星を付けて頂けると嬉しく思います。

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