第46話 汚れた大人たち…
「ア、アレグリア!?」
俺がアレグリアをおんぶしたまま宿に入ると、ジュリアさんが驚いて駆けつけてきた。
「どうしたの、アレグリア。大丈夫、怪我でもしたの?」
若干、あたふたしているジュリアさん。
「大丈夫よ、お母さん。ちょっと疲れただけだから…」
「そうなの?あまり心配をさせないでね」
「もう…子供じゃないんだからね!!」
「お母さんにとっては、あなたはいつまでたっても子供なのよ」
「ごめんなさい。本当に大丈夫だから!!」
「………大丈夫なら、ハヤト君から降りたらどうなの?」
「………やっぱり大丈夫じゃないかも」
「アレグリア、降りなさい!!」
ジュリアさんが無理やり俺の背中からアレグリアを降ろそうとする。アレグリアは俺の背中から離れまいと必死でしがみついてきた。
「降りなさい!!」
「嫌よ!!」
「アレグリアがその気なら…私は」
ジュリアさんはそう言って、俺の前から抱き着いてきた。
「ちょっと、お母さん!!何してるのよ!!」
「今日は仕事が忙しくて疲れてしまいました。ハヤト君、私を抱っこしてください!!」
(はっ!?いやいやいや!?母と娘が前から後ろから…ここは天国か!!)
俺の顔は自然ににやけ、緩み切ってしまった…が
「何をしているのですか?」
とアパパネの声が聞こえた。
固まってしまう三人。まだ成人もしていないアパパネの前でイチャつく事は教育上よろしくない。
(どうやってごまかしたら良いのか…)
いいアイデアが浮かばない。アレグリアとジュリアさんも目が泳ぎ、思考停止状態だ。
「あっ、あっ、あの…わ、わ、私もいいですか!?」
そう言いながら、アパパネも俺に抱き着いてきた。
『えっ!?』
困惑する俺たち三人だが
「小さい時、本当にまだ私が小さい時、お父さんが帰って来た時に、こうやってみんなで抱き着いて『お帰りなさい』をしていたんですよ!!ハヤトさん、アレグリアさん、お帰りなさい!!」
俺たち三人は汚れ切った己の行動を恥じる。
「そ、そうね。ハヤト君、アレグリア。お帰りなさい」
ジュリアさんはそう言って、この場から早々に脱出していった。酷い!!
一方のアレグリアは俺の背中から降り、あたふたしている。
「アレグリアさん、お帰りなさい!!」
満面の笑顔でアレグリアに抱き着くアパパネ。
「…アパパネ、歳を重ねていくと子供の時の純粋な気持ちを忘れていくものよ」
遠くを見つめながら呟くアレグリア。
「???」
アレグリアはそのまま首をかしげるアパパネの手を取り、ダイニングのほうへ入って行った。
「アレグリア、お前もまだ16歳だろうが…」
俺はそう言って二人の後ろ姿を見送ったのだった。
一旦自室に戻り、夕食をとるためにダイニングへと降りていく。何事も無かったような顔をして…。
椅子に座るとアパパネがやってきた。
「今日のパスタはどういたしましょう」
「う~ん、ナポリタンをお願いできるかな。あと出来れば大盛でお願いしたい」
「はい。ナポリタンの大盛ですね」
注文を取る姿がとても可愛らしい。これなら明日の試食会でも大丈夫だと思う。
夕食の用意が終わり、全員が席に着き食べ始める。
俺はアレグリアを促し、今日あった出来事と明日、王家筆頭魔術師のシーザリオ様が試食会に参加する事になったとみんなに伝えてもらった。
「まあ、そんな事があったのね」
「王家筆頭魔術師のシーザリオ様…」
「なんか緊張してきました」
ジュリアさんとリスグラシュー、それにアパパネはそれぞれの反応をする。
「王家筆頭魔術師と言っても、本人は特別扱いを望んでいないと思う。その他の招待したお客さんと同じ扱いでいいからね」
俺の言葉を聞いて『ホッ』とするジュリアさんとリスグラシューとアパパネ。
そしてアレグリアが
「シーザリオ様とは特別な話があるので、私とハヤトは一緒に食事をするから、そのつもりでお願いね」
と言われた…が
「それは断る!!出来得る限り、お偉い様には近づきたくはない」
と、きっぱり断る。地位と美貌と才能を兼ねそろえた女性を前にすると、ビビッてしまう小心者の自分は異世界に来ても変わらないのであった。
(決して近づいてはいけない。離れたところから見ているのに限る!!)
そう心に誓ったのであった。
【アパパネ視点】
(あぁ~、ジュリアさんとアレグリアさんがハヤトさんに抱き着いてる!!やっぱり外出から帰ってきたら、みんな抱き着いて『お帰りなさい』をするのね。なつかしいなぁ~!!)
私は昔を思い出し、思わずハヤトさんに抱き着いてしまいました。
「ハヤトさん、アレグリアさん。お帰りなさい!!」
とびっきりの笑顔を作って言いましたが、少し大袈裟だったかもしれません。みんなが少し戸惑っているような…。
(えへへっ、やっちゃいました!!)
反省をしているところでアレグリアさんが
「…アパパネ、歳を重ねていくと子供の時の純粋な気持ちを忘れていくものよ」
などと、私に言ってきました。
(さすがアレグリアさん!!意味は分かりませんが、難しい事を『サラッ』と言う姿がとてもカッコいいですね!!尊敬します。私もアレグリアさんみたいなカッコいい大人の女性になりたいです!!)
そんな事を思いながら、アレグリアさんと手を繋いで、ダイニングへ向かうのでした。
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