第9話 魔力異常の洞窟・8 横穴


 カオルはすぐに駆け戻って来て、音もなくマサヒデ達の前に立った。


「お待たせしました」


「うあ! 驚かすなよ!」


 と、シズクが仰け反る。

 びく! とラディや騎士3人もカオルに顔を向ける。

 カオルは困ったような顔で、


「別に驚かすつもりは・・・」


 アルマダは厳しい顔で騎士達の方を向き、


「ホルニコヴァさんは仕方ないとはいえ、あなた方は気付いて下さい」


「は・・・恐縮です」


 マサヒデはアルマダを見て笑い、


「ははは! アルマダさん、それは厳しい!

 シズクさんが気付かなかったんですよ?」


「そのくらい出来ませんとね。さ、行きましょうか」


「そのくらいはって、それじゃあ、カオルさんが困ってしまいますよ。

 皆に見つかってしまって・・・落第してしまったらどうするんです」


 よ、と小さく声を出して、マサヒデが立ち上がり、皆も続いて立ち上がった。

 ぱんぱん、と裾を払って、足の固めを確認。

 手首の手裏剣入れを袖の上から軽く確認し、くい、と腰の大小を直す。


「良し。行きましょうか。

 カオルさん、案内を頼みます」


「は!」



----------



 既にカオルが先に歩いて行った所なので、軽く見ながら歩いて行く。

 今の所、足元に鍾乳石や水晶は見当たらない。

 からからと石を蹴りながら進んで行くと、急に広い場所が目の前に広がった。


「おっ」


 マサヒデが声を上げると、カオルが足を止めて振り向いた。


「ここです。ここに水晶が」


「ほう」


 少し歩いて中に入ると、足元で大きな石を蹴った。

 尖った三角錐の石が転がり、膝を着いて拾い上げると、鍾乳石。

 もし転んだりして、刺さったりしたら・・・考えたくもない。

 ここでは、ラディの治癒魔術も使えないのだ。


「なるほど。ここの奥が鍾乳洞でしょうね。うむ、確かに広い。

 奥まで続いていますね。この明るさでは見えませんが・・・」


 アルマダが膝を着いて石をかき分け、小さな欠片を拾い上げた。

 目の前に持っていき、じっと見つめて頷く。


「うむ。確かに水晶ですね。ただの白い石ではない」


 座ったまま少し進み、また地面を探し、欠片を拾い上げる。

 拾い上げた欠片を見ながら、


「ここにも、そこにもある。水晶が沢山あったんですね。

 ううむ、砕けてしまったのが残念です。

 魔力がこもった物なら高額ですが、でなくとも、かなりの額を産んだはず」


「そんなものですか」


 アルマダは頷いて、


「もし、紫水晶や黄水晶があれば、さらに、です」


「水晶って、紫色や黄色があるんですか?」


「ええ。紫の水晶はアメジストですよ。クレール様の杖に着いているあれです」


「え? あれって水晶なんですか?」


「そうです。そして、黄色の水晶は特に少なくて、非常に高額なのです」


「へえ・・・」


 アルマダは小さく笑って立ち上がり、


「ふふ、カオルさん、色の着いた水晶を探すのも良いでしょう。

 これだけ転がってるんですから、いくつかあるかもしれませんよ」


「は・・・」


 少し恥ずかしそうに、カオルが下を向いた。


「では、まずはこの広間を回ってみましょうか。

 マサヒデさん達は右側の壁沿いに。私達は、左側の壁沿いに進みます。

 穴があっても入らず、入口を地図に書くだけで真っ直ぐ行きましょう」


「分かりました」


 二手に分かれ、壁沿いに歩き始めた。

 壁の近くは石が多く、足元に気を付けて、ゆっくり進んで行く。

 石は尖っているし、転んだら大変だ。

 マサヒデは振り向いて、


「ラディさん、気を付けて。転んだら大怪我をしそうです」


「はい」


 足元こそ危険だが、幸い、見通しは良い。

 噴出で壊れてしまったのか、視界を遮るものが何もない。

 真っ直ぐ、ずっと広がっているが、奥は深く、遠くは見えない。


「ううむ、深いですね。全く入り組んではいないですが」


「だねえ」


 がりん、とシズクが石を踏み砕く。

 マサヒデは首を傾げて、


「しかし、下っていませんね?

 横向きに吹き出てきたんでしょうか?」


 カオルが首を傾げ、


「ううむ・・・どうでしょうか。

 こんなに浅い所から魔力が吹き出すのは、滅多にないかと思いますが」


「ふむ」


「広いから、もしかして真ん中辺りに穴でも開いてるかもしれないよ。

 そこから噴水みたいにばーって吹き出して、横向いて入り口に繋がったとか」


 くす、とカオルが笑った。


「ふふ。魔力の噴水ですか」


 マサヒデが横を向くと、アルマダ達が何とか影で分かる。


「向こうも何もないようですね」


「はい」


 それきり、黙って足元に集中しながら歩いて行く。

 しばらく歩いた所で、からん、と小さく石が転がった。


「止まって下さい」


 と、カオルが足を止めた。

 皆が足を止め、カオルの方を向く。


「む」


 カオルが小さく声を出して、足元の石を拾って放り投げる。

 からん、と石が転がり、じっと皆が耳を澄ませる。


「ご主人様、近くに穴があります。音の響きが違います。

 横か、下か・・・」


「え? 本当?」


「お静かに」


 もう一度、石を拾って放り投げる。

 からん、こん、こん・・・と石が転がる。


「・・・」


 少しして、カオルが首を振った。


「ううむ、申し訳ありません。

 響いて良く分かりませんが、そう離れてはおりません」


「ふむ?」


 マサヒデが壁から離れ、遠くを見るが、この薄明かりでは分からない。

 皆の所に戻って、


「慎重に、ゆっくり進みましょう。

 もし、見える穴ではなく、下が薄くなっていて崩れたりしたら大変です」


 カオルが前に出て、


「私が先頭に立ちます。もし崩れ落ちても、私なら跳んで戻れます。

 皆様は、崩れた時にすぐに後ろに跳べるよう、気を尖らせておいて下さい」


「お願いします」


 マサヒデが頷き、カオルが先頭で歩き出した。

 歩く速度は変わらないが、カオルにしてはかなり慎重な速度なのだろう。

 たまに石を蹴って、音を出しながら進んで行く。


「む!」


 ぴた、とカオルが手を挙げて止まった。

 小石を拾って投げて、こん、と音が響く。

 うん、と頷いて、


「皆様、ご安心下さい。横穴ですね。

 下にはありません。少し先にあります」


「おお、ありましたか」


 頷いて、カオルが歩き出す。

 10間ほど歩いた所で、カオルが止まった。


「この穴ですか」


 この場所が広すぎて小さく見えてしまうが、穴の天井はラディの背丈よりも高い。

 広さも十分進めそうだ。

 カオルがしゃがみこんで、下に転がっている石を見て、


「ふむ。この穴からも魔力が噴き出したようですが・・・」


 そう言って、身体を起こして、広間の奥の方に目をやる。


「この穴は本流ではないでしょう。

 やはり、この広間の奥の方が本流ですね。しかし・・・」


 と、小石を投げ込む。

 こん、こん、こん・・・


「ご主人様、この音、分かりますか」


 もうひとつ、石を投げ込む。

 こん、こん、こん・・・石が跳ねる音。

 転がった石の音が、少し下から聞こえる。


「ここからは見えないですけど、坂になっていますね。下に」


「はい。下に続いております」


 マサヒデは頷いて腕を組み、横穴を見て軽く覗いて、広間に振り返った。

 高い天井を見て、広い空間をぐるりと見渡す。


「ふうむ・・・興味深いですけど、調べるのは後ですね。

 今は、この広い穴の方を見ましょう。

 地図に記しておきましょうか」


「は」


 カオルが懐から地図を取り出し、すーっと線を引いて、丸印を書く。

 ここが、横穴だ。

 シズクとラディが興味津々といった顔で、横穴を覗いている。

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