第5話 初めての銃 後


 がちゃ、と射撃場の扉が開いた。


 マサヒデが夢中になって銃を撃っている。

 撃ち切って弾を込めだした所で、カオルが声を掛けた。


「ご主人様」


「あ、カオルさん。来たんですね」


 と、マサヒデが顔を上げた。

 すたすたとカオルが歩いて来る。


「どうですか?」


「ううん、がつんとくるから、慣れるまで片手で撃つな、と言われましたが、流してしまえばそんなにって感じです。あまり当たらないですけど」


 カオルが的を見ると、数発しか穴が開いていない。

 マサヒデも的を見て、


「馬に当てて止めるのが目的なので、まあ適当で良いかな、と。

 手綱を握りますから、片手で撃てないと、馬上で使うのは難しいですし」


「馬は大きく揺れますし、慣れは必要ですね」


「ええ。ギルドの訓練場でも射撃訓練は出来ますし、たまにやりましょうか。

 マツモトさんに教えてもらえるかも」


「良いお考えです。

 構えなど、教えて頂きますか。

 ご店主に、ご主人様から教えてもらえと」


「ええとですね。まず、両手で持って、前に突き出して」


「こう」


「で、握る時に、右手は深く。左手は、右手の指と指の隙間に」


 マサヒデの手がカオルの手に触れる。


「あ」


「ん? どうかしました?」


「い、いえ。何でも」


「そうですか? ・・でですね、ほんの少しだけ、前のめり。ほおんの少しだけ。

 後は、撃った時の衝撃を、手首から、肘へ、肩へと流すだけです。

 それは小さいし、少し慣れれば手首だけでも流せそうですね。

 何発か撃てばすぐ慣れますから、そうしたら、それを片手でやるだけです」


「え? それだけですか?」


「それだけです」


「店主は随分と念入りに気を付けろ、などと言っておりましたが」


「私達は武術の心得がありますから、流すという感じが分かり易いですからね。

 ただ、中々当たりはしませんけど」


「ふむ。やってみます」


 ぱん!


「おお、確かに来ますね。しかし、店主が言うほどではありませんね?」


「でしょう」


 ぱん! ぱん! ぱん! ぱん!


「ふむ・・・大袈裟にご注意は頂きましたが、こんなものですか」


 カオルは撃ちきった銃を見つめ、ことん、と机に置いた。

 弾薬の箱を開ける。


「おや?」


 置かれた銃を見て、マサヒデが近付いて来た。

 カオルが顔を上げ、


「どうされました?」


「いえ、これ見て下さい」


 マサヒデが、四分型拳銃をカオルのミナミ新型の横に並べる。


「この握りの所」


 マサヒデが握りを指差す。

 四分型の方が、前に広くなっている。


「む。四分型拳銃は、随分と太いですね?」


「ええ。カオルさんのは、握りやすいようになっているんですね」


 ふうむ、と2人が銃を見つめた。


「あ、そうか。ご主人様、四分型拳銃は、この握りの中に弾が入ります。

 それで、どうしても大きくなってしまうのでしょう」


「ああ、それでか」


 カオルがミナミ新型を取り、弾倉をスイングアウトして、空薬莢を落とす。

 ちん、ちちん、ちりん、と小さく音が響き、転がった空薬莢から薄く煙が上がる。

 弾を手に取り、かち、かち、かち、と入れていく。


「ふむ・・・」


 マサヒデが弾を入れるカオルの手を見ながら、


「それ、馬上で弾を入れられますかね?」


「これも慣れれば問題ないと」


「マツモトさん達も、馬上でこうやって撃っていたのでしょうか」


「そうでしょうね。何事も慣れが必要という事でしょう」


 マサヒデがじっと四分型拳銃を見つめる。

 この握りの大きさ、マサヒデより大きいアルマダなら、ぴったりだろう。


「カオルさん、この四分型拳銃、アルマダさんにあげましょうか。

 私はもう1丁のミナミ新型を使って」


「ハワード様に扱えますかね?」


「扱えると思いますが、何か引っ掛かる事でも?」


 カオルは引き金を指差し、


「ハワード様は、がっちり全身鎧を着るではありませんか。

 指まで篭手で覆われます。この引き金の所に、指が入らないのでは」


「あ、そうか・・・いや、ちょっと待って下さい。

 この引き金の回りの丸い部分、これ切っちゃえば問題ないですよ」


 カオルは首を傾げ、


「それは危なくありませんか?

 もし引き金に何か引っ掛かると、意図せず弾が飛び出しますよ。

 例えば、銃をしまおうとして、銃入れにがちっと引っ掛かったら」


「む、くっついた状態で弾が飛び出てしまう。鎧も撃ち抜いてしまいますね。

 そう言えば、どの銃も、この引き金の回りは同じように囲まれていますね」


「危険防止、という、銃全体の基本の作りなのでしょう」


「そうだ。この四分型拳銃は、改造部品もたくさんあるとか。

 ここが大きめの奴があれば、それに変えてしまえば?」


「基本の作りでしょうから・・・ありますかね?

 多少は大きな物もあるかもしれませんが、篭手を着けた指が入るかどうか。

 それに、篭手の上からでは、弾を入れたりとか、他の操作もしにくいでしょう」


「ううむ、確かにその通りです・・・」


「ハワード様が欲しいと言うなら、お譲りするくらいで良いかと」


「そうですね。そうしましょうか」


「では、片手を試してみます」


 マサヒデも頷いて四分型拳銃を取り、


「私も、もう少し練習しましょう」



----------



 1箱撃ち終わった所で、マサヒデは射撃をやめた。

 ど真ん中とはいかないが、的には当たるようになった。もう練習は十分だろう。

 とりあえず、片手で撃てるようにはなった。

 ずっと撃ち続けていたので、流石に手が痺れる。


 かち、かち、と弾を入れているカオルに、


「私はもう十分だと思いますので、先に帰りますね。

 全部で金貨55枚で売れたので、それで欲しい物などあれば買ってきて下さい。

 私も弾を1箱買っていきます」


「分かりました。私もこの箱を撃ち終わったら、少し見て帰ります」


 取扱説明書を袂に入れ、がちゃ、と店への扉を開けると、店主が顔を上げた。


「随分撃ってきたな?」


「ええ。お陰で、片手で撃てるようになりました」


「何? もうか? ちゃんと当たってんだろうな? 腕は? 肩は痛くねえか?」


「平気です。1箱も撃ちましたから、少しは撃てるようにもなりますよ。

 とりあえず、何とか当たるようになりました。

 ご店主、弾を1箱、頂けますか?」


「ほらよ」


 出された弾の箱を持ち、


「それでは」


 受け取って軽く頭を下げ、マサヒデは店を出た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る