第3話 鉄砲売却


 ラディと一緒に魔術師協会に戻る。


 マツとクレールはまだ頭を突き合わせて、ああでもないこうでもない、と、図を書いている。


 マサヒデは後ろに振り返り、


「では、ラディさん、庭に置いてある物、鑑定をお願いします。

 茣蓙(ござ)を持ってきますので」


「分かりました」


 ラディは庭に回り、マサヒデが敷いたござに座って、武器の山から槍を取って、穂先を見始めた。

 マサヒデは居間に上がり、


「カオルさん、こちらを」


 と、懐からミナミ新型をカオルに差し出す。


「短銃ですか?」


「ええ。マツモトさんに良い物を選んで頂きました。

 これは、ミナミ新型拳銃と言います。

 馬上で使うとしましょうか」


「ミナミと言うと、ラディさんの?」


「2代目の作だそうです」


「そうですか・・・ふうむ・・・」


 カオルがミナミ新型を受け取り、しげしげと見つめる。


「威力は他と比べれば小さめだそうですが、弾代が安い。

 弾薬が小さい分、反動が少なく、女性でも扱いやすい、と。

 頑丈で、滅多に故障もしない。弾は5発入ります。

 ミナミの特徴で、非常に正確だそうです」


「確かに、小さいですね。これなら、隠し持つ事も出来ましょう。

 馬上で使う物であれば、鞍にこの銃をしまう筒を着けても良いですね。

 反動が小さいなら、片手でも扱えますか」


「まあ、実際に撃ってみなければ分かりませんね。

 私はこれをもらいました」


 マサヒデが四分型拳銃を出す。


「大きいですね?」


「とは言っても、短銃ですからね。懐に入れてても、意外と邪魔になりません。

 こちらは随分と威力があるようで。

 どちらも大量生産の品ですが、傑作と言っても良い作らしいです。

 例え壊れても、大量生産なので簡単に部品も手に入ると。

 冒険者の方々には、非常に人気があるとか」


「形が違いますね。こちらは、こう丸くなっていますが」


「これは・・・ええと、なんて言ったかな?

 弾薬入れ? みたいのがここに入ってて・・・どう出すんだ?

 これだったかな?」


 カオルが不安そうな顔で、マサヒデの手に手を乗せる。


「ご主人様、今はいじるのはやめておきましょう。

 鉄砲屋に行けば、取扱説明書などあるでしょう」


「う、そうですね。やめておきますか。

 暴発なんてしたら大変です」


 マサヒデは銃を懐に入れ、


「で、まず銃を売り払ってきましょう。

 短銃ばかりとはいえ、結構な値になるはず。

 その金で、銃をしまう筒や、手入れ用品、弾薬を揃えましょう。

 私のもカオルさんのも、多くある品ですから、取扱説明書もあるでしょう」


「そう言えば、あそこには射撃場もありましたね。

 試し撃ちもしてきましょうか」


「良いですね」


 マサヒデは寝転がったシズクの方を向いて、


「シズクさん」


「はいはい?」


「庭に転がっている武器で『ゴミ』という束、ギルドに届けてくれませんか。

 マツモトさんに、寄付の話は通してあります」


「いいよー」


「ゴミという札は、ちゃんと取って下さいよ」


 庭の方に目をやると、ラディが「がらん」と槍を放り投げた。

 マサヒデもシズクも笑って、


「ふふ。まだ寄付は増える、と、一緒に伝えておいて下さい」


「あはは! 分かった!」


「では、お聞きの通り、我々はちょっと鉄砲屋に銃を売り払いに行ってきます」


「行ってらっしゃーい!」



----------



 銃が入った袋を持ち、玄関を出ようとして、はた、とマサヒデは散弾銃の事を思い出した。これは奉行所に提出しなければ。


「む、そうでした。カオルさん、この銃、奉行所に提出しておいてもらえますか」


 と、散弾銃を出して、手拭いでぐるぐる巻きにする。


「奉行所へ? 売りに行かないのですか?」


「これ、元々は長物だった物を、先を切って短くした物です。

 そういう物は、犯罪だそうですよ」


「そうでしたか。それは知りませんでした」


「どこで手に入れたとか、根掘り葉掘り聞かれるかもしれませんが、別に隠す事もないでしょう。強情橋の者から回収した得物の中にありました、と。クロカワ先生が自分で作った訳ではありませんし、無手術で高名な方ですから、奉行所も銃の事で聞きに行くこともないでしょう」


「分かりました。では、こちら奉行所へ届けた後、私も鉄砲屋へ参ります」


「では、鉄砲屋で会いましょう」


「は」



----------



 職人街、鉄砲屋。


 がらっ。


「こんにちは」


「いらっしゃい」


 相変わらず無愛想な店主がマサヒデを迎える。


「どうも。今日は銃を売りに来ました」


 おや、と店主が雑誌から顔を上げ、


「売りに? なんだ、かっ払って来たのか?」


「まあ、そんな感じです。ご店主、強情橋の話はご存知で?」


 店主が驚いた顔で、ぐいっと身体を前のめりにして、


「おお、知ってるとも! 読売にでかでかと載ってたからな。

 もしかして、そいつらぶちのめして、持って来たってか?」


 マサヒデは苦笑いして、


「いやあ、あれ、私の無手術の先生だったんですよ。

 修行というか武術交流のつもりで、勇者祭に参加して来てたらしいんです。

 でも、尾ひれが付いて読売に載っちゃって、皆が武器を放り出して逃げる始末。

 別に武器なんて欲しくないし、誰も相手にしてくれないって」


「わははは!」


「無手術の先生ですから、まあ武器は必要ないと言う訳で。

 皆が放り出して行った得物は好きに持っていけ、と、頂いて来ました。

 いくつか銃がありましたので、持って来ました」


「なるほどな。良いぞ。見てやる」


 店主が袋から短銃を取り出して並べていく。

 あからさまにがっかりした顔で、


「ふうん・・・大した物はないな・・・」


「まあ、投げ出されるような物ですからね」


「三三式が3、一動作が1? たったこれだけか?」


「あと、これが2丁。これは私が使おうかと」


 マサヒデが懐から四分型を出す。


「ふうん。まあ無難だな。もう1丁は売らねえのか?」


「もし壊れてしまった時の為に、予備か部品取りに使おうかなと」


「なるほどな。で、他にも何かあったのか?」


「あとは、ミナミ新型が3丁ありました。

 1丁はラディさんに、1丁はもう1人の私の仲間に、1丁は予備です」


 はあ、と溜め息をついて、店主が椅子にもたれかかる。


「なんだ、つまらねえ物ばっかりだな・・・」


「ご期待に添えず、申し訳ありません」


「ま、投げ出されるような物だからな・・・仕方ねえか」


 ふう、と息をついて、1丁ずつ丁寧に弾薬を抜いて動きを見る。

 そして、流れるように三三式を分解していく。


「おお!?」


 と、マサヒデが声を上げた。

 店主はぶっきらぼうな顔を上げ、


「こんなの慣れれば普通だ」


 並べられた部品を軽く見て、またかちかちと組み立てていく。


「す、凄いですね・・・」


「本職の銃使いから見れば、遥かに遅いぞ」


 残った2丁の三三式もさっと分解、部品を見て、さらっと組み立てる。


「ふうん。ま、全部で金貨50枚ちょいって所だな。

 まあ、あんたラディちゃんの良い人みたいだし、まけて55枚だ」


「ありがとうございます。そんな仲ではありませんけどね。

 あと、この銃を入れる筒みたいな奴、ありますか?」


「どうやって持つ? 服の下に隠すか? 腰の裏か? 腰から下げるか?」


「え」


 のそっと店主が立ち上がり、


「その着込み脱いで、そこのカウンターに置いとけ」


「はい」


 マサヒデが着込みを脱いで、カウンターの上に置く。

 店主が3つホルスターを持って来て、マサヒデの腕を上げて肩に吊り下げる。


「これなら、上を着ちまえば外から見えねえがな・・・

 お前さん、本業は剣術だろ? ちょっと腕振ってみろ」


「む、当たりますね」


「じゃ、これは駄目だな。次はこいつかな」


 ベルトを巻き、マサヒデの腰の裏にホルスターを着ける。


「この位置なら、上を着れば後ろからでも見えねえだろう。どうだ」


「ふむ。すみません、ちょっと刀を抜いてみて良いですか。

 鞘に当たらないかどうか」


「居合抜きか? 店の物壊すなよ」


 マサヒデは店主に背を向ける。

 右手を前に出し、鞘だけを引いて。イマイに習った抜き方。

 ぴ!


「うお!?」


 抜いた速さに店主が驚いて、背中から声が上がった。


「うむ・・・」


 今の刀なら抜ける。

 だが、コウアンはどうだろうか? 大丈夫そうな気もするが・・・

 マサヒデは刀を納め、目を丸くした店主に、


「ご店主、腰から下げる方も見せてもらえますか」


「お、おう・・・あんた、本当に凄えな・・・見えなかったぞ」


 恐る恐る、店主がマサヒデの腰にホルスターを下げる。


「この抜き方、研師のイマイさんに教えてもらったんですよ」


「何? 研師のイマイ? あの変態のイマイか?

 ううむ・・・あいつ、只の変態じゃなかったんだな・・・

 さ、こんな感じだ」


 店主が立ち上がり、1歩下がってマサヒデの腰のホルスターを見る。


「ふむ?」


 右側に垂れ下がり、下げた右手のすぐ側に銃の握りがある。

 右側だから、刀の邪魔にはならない。


「あ、これ良さそうですね? 刀の邪魔にもなりませんし」


「だが、動くとぶらつくし、相手からも丸見えだ。

 てことは、飛び込まれたら、掴まれてぶん取られるかもしれねえ。

 引っ張られたら、転ばされるかもしれねえしな」


「む、確かに・・・」


「あんなに凄え居合抜きが出来るんだ。

 俺は腰の裏に着ける方が良いと思うぞ。思うが・・・」


「が・・・なんでしょうか?」


 ぷ! と店主が吹き出し、


「あのよ、今のままで良いんじゃねえか?

 懐に入れて、帯で挟んでおけば」


「あ・・・そうですね・・・」


「は! 時間の無駄だったな! わはは!」

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