第4話 嫌われ者の屍使い
ラスに加勢した二人の軍人が、
見事な連携プレーである。しかし、口いっぱいに腕を突っ込まれた
ラスは「反応なし」と残念そうにこぼすと、「うっ」と踏ん張るような声を上げて
「ロイズ中尉。カイン一等兵。しっかり押さえててくださいね」
左右の軍人に協力を仰いだ。
「名乗って下さい」
ラスが再び、名前を求めた。
「オリバ……ミラー。ぎょうしょう……にん」
「オリバーさんは、ケルトニア出身?」
「カメ……ロット」
カメロットは、ここケルトニア国の北に位置する。車や汽車を使えば、フロンドサス村から一日くらいで着く都市の一つである。
「そこへ帰りたいですか? それともここで弔ってほしい?」
「妻……が待って……いる」
「分りました。詳しい住所は?」
「また時間切れか。住所が分らないとキツイなあ」
ぼやいた彼は、オリバーと名乗った
チリ―ン
高い音色が響いた。ラスの右中指から吊るされている小鐘が鳴ったのだ。その音色に導かれるように、
立ち上がった
次にラスは、レナを保護して道端に避難している看護師に歩み寄った。彼女もまた瞳がうつろで、ナース服の袖口やスカートの裾から包帯が見えている。
「マリーさん。その子を返してあげて」
レナを両腕に抱いている看護師の
マリーと呼ばれた看護師は無表情でレナを抱えたまま、動かない。ラスが困ったように笑う。
「ねえ、あなたにもう子育ては無理でしょ」
ストレートな表現だが、柔らかい声色からは相手を傷つけまいという配慮が伺えた。
レナの胸に回っていたマリーの細い両腕が、すとんと落ちる。ラスは「ほらおいで」と硬直しているレナをマリーからそっと離すと、肩を抱いてビッテの元に連れていった。レナが祖母の両腕にしっかりと抱かれたのを確認すると、恥ずかしそうに俯いてビッテに訊ねる。
「えっと、す、すみません。アボナ、という町へは、ど、どう行けばいいですか」
緊張しているのか、何度もどつっかえていた。
「アボナかい? アボナは……」
ビッテが答えかけた時、ラスが突然、「わっ!」と小さく声を上げて左側頭部を押さえた。ラスの左側頭部に直撃した小鳥の卵大の石が、コロコロと地面を転がる。
「出て行け、
石を投げた大工の男が、ラスに向かって叫んだ。そこからは、野次馬達から次々と罵声や石が飛ぶ。
「村に
「今すぐ出ていけ!」
「え、ちょっとま、待って痛っ!」
狼狽しているラスの肩にまた、石が当たる。
「ちょっと何するんだい!」
ビッテが、ラスを庇うように立ちはだかる。イヴリンも預かった荷物を抱えたまま、渦中へ飛び込んだ。
「みんな落ち着いて! 彼は恩人じゃないの!」
いきり立った野次馬達を鎮めようと呼びかけたが、効果は無かった。彼らはすぐにでもラスを攻撃できるよう、石を構えている。
「
今にもレンガを振りかぶろうという体勢で、パン屋のオヤジが叫んだ。
「あっ」と小さく声を上げたイヴリンとビッテが、ラスの右腕を見る。
彼は、自らの右腕を噛ませてビッテを助けたのだ。服に隠されて素肌は見えないが、あらゆる抑制から解放された
行動を起こしたのは、イヴリンよりもビッテの方が早かった。ラスの背中を押したビッテが、東を指さす。
「あんた、早く逃げな! アボナはあっちだよ!」
「え、あ。は、はいどうも」
ラスはうろたえつつも、右手の小鐘を一振り鳴らして後ろ向きに走りはじめた。四方から石を投げられても微動だにしなかった
追走する
そういえば凶屍との戦いを見守っている間、隣に見覚えのない老人が立っていたなと、イヴリンは走り去る六人を眺めながら思い出す。もしかしたらラスは、彼に荷物を預けるつもりだったのかもしれない。「ダンさん」と呼んでいたし、きっとそうだ、うっかり人違いをしたのだ、と。
そこで、気付いた。彼の荷物は、まだ自分が抱えたままである。
「やだ大変!」
イヴリンは慌てて、道の向こうに消えた集団を追いかけた。
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