第四章 カオルは内弟子になりたい

第16話 カオルは内弟子になりたい・1


 オリネオ魔術師協会。


 さらり。

 襖の開く音がして、カオルが出て来た。


「皆様! 如何でございましょう!」


 軽く元結を結び、さらりと流された長い金髪。

 紋無しの長着(足首くらいまである羽織)と袴。

 やはり着物は明るい色の髪の方が似合うな、と、マサヒデは思う。


「おお、良いじゃないですか」


「うわあ! カオルさん、格好良いですねえ!」


「本当。カオルさんは着物も良く似合いますね」


「ありがとうございます!」


 余程気合を入れて作ったのか、すごく嬉しそうだ。

 マツもクレールも目を輝かせた。


「羽織は長着にしたんですね? 動きづらくないですか?」


「問題ありません。この方が色々と隠しやすくもありますし」


「でも、髪型もラディさんと被ってしまいますね?

 ラディさんが羽織袴で来たら、そっくりです! 姉妹みたい!」


 にこにこしたクレールの一言で、ぴし! とカオルが固まった。


「む、確かにそうですね。でも良いんじゃないですか?

 羽織袴には良く合うと思います」


「そうですね」


「ん、む・・・お待ち下さい!」


 さ! とカオルは奥に引っ込み、また戻ってきた。


「如何でしょう!」


 顎くらいの長さの髪を横分け。


「被ってはないですね」


「かわいいですね!」


「良いのではないのですか?」


「・・・」


 反応が満足いかないのか、カオルはまた奥に戻って行ってしまった。


「どうですか!」


 元の長髪に戻った。

 頭で結んでいた所を、首の後ろ辺りで結んでいる。

 終わりそうにないから、適当に褒めておこうか。


「良いんじゃないですか? 最初よりそっちの方が女らしさを感じますよ」


「そうですね!」


「ええ、カオルさん、綺麗ですよ」


「良し! これにしましょう!」


 うん、と満足気に頷いて、カオルは「びし!」と羽織の襟を正した。


「では、カオルさんの、その姿での内弟子入りの段取りを決めましょうか」


「段取り?」


 皆が疑問の顔をマサヒデに向けた。


「ええ。いつの間にか内弟子じゃあ『あれ誰だ?』って思われるでしょう。

 せっかく目立つ格好にしたんです。

 目立っても不思議に思われないようにしませんと」


 マツが良く分からない、といった顔で、


「マサヒデ様、目立っても不思議ではない、とは?」


「皆の前で、カオルさんが私に内弟子入りします、と見せれば良いだけです」


「と言いますと?」


「皆の前で、私に勝負を挑むだけです。

 で、内弟子にして下さい! って言えば良いだけです。

 あとは私が良いですよ、と了承すれば、皆に周知の事実として知られます」


「はあ。それ、必要ですか?」


「いつどこで内弟子になった? て疑問に思われない為にやります。

 ここの玄関で、でかい声で私に内弟子にして下さい、でも良いですけど。

 立ち会いだ! となれば、往来に人も集まり、周知の事になるでしょう。

 カオルさん。どう思います?」


「ううむ、良い偽装工作です・・・ご主人様、政の才もお持ちですね」


「偽装工作って・・・まあ、そうなんですけど、何か聞こえが悪いですね・・・」


 ううん、とクレールが眉をひそめる。


「まわりくどいですねえ。普通に内弟子にしました、で良いじゃないですか」


「前に内弟子にって頼みは断ってますからね。

 それなりの腕があると、周りに見せておきませんと・・・

 ちょっとしたお芝居の感じで『中々良い。内弟子にしてやろう』なんて」


「ううん、なるほど? 分かったような?」


 クレールが首を傾げる。


「まあ、それで目立っても不思議に思われないなら、良いではありませんか。

 でも、カオルという名前は知られていませんか?」


「名前まで変えなくても、大丈夫じゃないですか?

 ちゃんと知っているのは、オオタさんやマツモトさんくらいでは?」


「馬屋さんは冒険者のカオルさんを知ってますよね!

 いつも冒険者姿で行ってますから!」


 あ、そうか、とマツがカオルに顔を向けた。


「そうでしたね。白百合や黒影を乗りこなしたら、不自然ではありませんか?」


「ううむ、そうか・・・馬がありましたね・・・

 いきなり知らない人が来て、黒影を乗り回したら・・・

 ああ、一度顔見せに行けば良いか。この人も使います、試し乗りしますって。

 名前は偶然同じだった、で通しちゃいましょう。

 冒険者の人は、いつ仕事で町を離れたって不自然じゃありませんし」


「お芝居、楽しみですね!」


「うふふ。マサヒデ様、どうせなら派手な立ち回りをお見せしては。

 町中に知られるよう、そこの通りでやりませんか。

 皆様に、楽しんで頂きましょう」


「じゃ、そうしますか。カオルさん、一度町の外に出て、歩いて入って来て下さい。

 玄関で『頼もう!』とか大声出して、私を呼び出してもらえば。

 ギルドも目の前だし、立ち会い所望! なんて言えば、わらわら集まりますよ」


「は」


「得物はどうします? 真剣でいきます?」


「え!?」


「マサヒデ様!?」


「真剣ですか!?」


 皆が驚いて目を見開いた。


「ははは! 冗談ですよ! ギルドが目の前なんだから、訓練用の物を持ってきてもらいましょう。カオルさんは『真剣で!』とか言って、私は訓練用じゃないと駄目です、とか言ったりして。往来で真剣勝負なんて、そりゃあ目立ちますよ」


「もう、マサヒデ様、驚かせないで下さいませ」


「ふふふ、ぴりっとした空気を出して、皆さんを驚かせてやりましょうよ」


「分かりました。では」


 段取りが終わり、間もなくカオルは出て行った。


「うふふ。マサヒデ様、私達もそこでしっかり見せてもらいますよ。

 ちょっと心配するふりでも、お見せしましょうか?」


「ははは! それもそうだ! クレールさんも頼みますね」


「はい!」

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