第57話 残された謎
「これでよし、と」
一通りの処置を終えた後、イフティミアはユスフに目配せをする。
「では聞かせてもらいましょうか、血塗れの顔で帰ってきた理由を」
「……お手柔らかに頼む」
謁見の間で体験したことを一通り話した後、サンダルフォンは包帯が巻かれたこめかみに指を当てる。
「そういえばあの声……」
「声?」
「魔城を出る直前に聞こえたんだ、ご苦労様って」
「……テスタメントが言ったのでは?」
「違うよ、あれは魔城の声さ」
「魔城の……声……?」
困惑を隠しきれない表情のままサンダルフォンとユスフは首を傾げる。
「禁書が無くても血染めの薔薇を作れるようになったことも、パンフィリカが復活の魔法を発動した影響で崩壊しなくなったことも、魔城にとっては不測の事態だったんだろうさ」
「労いの言葉をわざわざ言いに来たのはそういうことか?」
「恐らくはね。まぁ今となっては確かめようが無いことだけど」
「……実態はどうあれ、声に関する記述は避けておきましょう。余計な混乱を招くだけでしょうから」
溜め息を吐いた後、ユスフは真新しい紙に文字を書き連ねる作業に集中する。
「何はともあれ、無事に帰ってきてくれて安心したよ」
「当面は大丈夫……なんだよな?」
「ああ、魔城が復活するまでにはそれなりの時間を要するからね」
「……そう、か」
「いつぞやにお前さんが言った魔城を復活させない方法が見つかればこの手の悩みからも解放されるんだろうけどね」
「実現……出来るのか?」
「出来るように知恵を絞るのさ、あたしたち魔女がね」
そう宣言した後、イフティミアは温かい茶を一口啜る。
「実を言うとね、あの城について研究している魔女は結構いるんだよ」
「そうなのか?」
「あれには魔女の探究心を刺激する要素がたっぷり詰まっているからね。吸血鬼どもに一矢報いることが出来るとなれば張り切ってくれるさ」
ティーカップをソーサーの上に置き、イフティミアは笑みを深くする。
──そして終わり損ねた物語に幕が下りた。
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