第56話 銀を以て赤を散らす
「サン坊!しっかりしなサン坊!」
「ぐ……」
数度咳き込んだ後、サンダルフォンは冷ややかな視線を向けてくるパンフィリカを忌々しげに睨み付ける。
「……テスタ婆、あいつも亡霊……なんだよな……?」
「残念ながら違うよ」
「そうか……それは、最悪だな……」
壁に叩きつけられた時に落とした双剣を拾い上げ、サンダルフォンは深呼吸をする。
「良い顔になってきたではないか、モーリエの狩人よ」
「……そりゃどうも」
「屠り甲斐が出てきたのは実に喜ばしいことだ」
邪悪な笑みを浮かべながらパンフィリカは赤いレイピアの切っ先をサンダルフォンに向ける。
「その首を手土産に今一度人間どもに宣戦布告をしてやろうぞ!」
「生憎だがな、お前の野望が叶うことは無いぞ」
そう宣言した後、サンダルフォンは双剣を構え直す。
「お前は俺に討たれて、終わるんだからな」
「──やれるものならやってみよ」
銀と赤の刃が数度交錯した後、パンフィリカの頭上に氷塊が出現する。
「白銀の司より授かった祝福か!」
「ああそうさね!」
自分を押し潰さんとする氷塊を容易く両断した後、追い討ちとばかりに床から生えてきた氷柱も斬り伏せてパンフィリカは笑う。
「手緩いぞ!妾を仕留めたくば冬の災禍を再現してみせよ!」
「あのお偉いさんでもなきゃやれないことを軽々しく要求しないでもらいたいねぇ!」
「じゃあ吹雪は起こせるか?」
一瞬考え込んだ後、テスタメントはサンダルフォンの問いに対する答えを述べる。
「目眩ましくらいにしか使えないけど、それで良いのかい?」
「十分だ」
にやりと笑みを浮かべ、サンダルフォンは地面を蹴る。
「如何様な小細工を弄そうとも!」
また数度刃を交えた後、テスタメントがキーワードを叫ぶ。
「"凍えろ"!」
「見え透いた真似を!」
視界を阻む吹雪を回転斬りで薙ぎ払った後、パンフィリカは赤いレイピアを突き出す。
「──ほう、」
自分の胸と紅い薔薇を貫く銀の刃を一瞥した後、パンフィリカはサンダルフォンに微笑みかける。
「敢えて蛮勇を選んだか、モーリエの狩人よ」
「……勝手に言ってろ」
こめかみから止めどなく流れ落ちる血に不快感を覚えつつもサンダルフォンは剣を引き抜き、鞘に収める。
「何をどうやろうと、最後まで生き残った方が勝者になるんだよ」
「真理だな」
笑みを崩さぬままパンフィリカが塵に変じた後、激しい揺れが起きる。
「どうやら魔城が崩壊を始めたようだね」
「さすがにもう開くようになってるよな……?」
不安を口にしつつサンダルフォンは赤い薔薇の装飾が施された扉のドアノブに手をかける。
「──ご苦労様」
誰のものか分からない声が響いた直後、サンダルフォンは魔城の外──イフティミアの工房前に飛ばされた。
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