第54話 聖職者はかく語りき
「次の移動先は謁見の間だろうね」
「つまりパンフィリカを復活させる時が来たってことか」
「……いよいよ、なんですね」
「何でお前さんが浮かない顔をしてるんだい」
「元はと言えば私が──」
「その話はもう良いだろ」
「う、」
サンダルフォンに容赦無い一言をぶつけられて口籠るユスフの横でイフティミアは微笑を浮かべる。
「お前さんは聖職者らしく祈っていれば良いんだよ、サンダルフォンの無事をね」
「そもそも他に出来ることが無いだろ」
「……それだけの減らず口を叩く余裕があるなら、何を言っても野暮というものですね」
今にも爆発しそうな怒りをどうにか抑え込み、ユスフは深い溜め息を吐く。
「話すことも無くなったしそろそろ行ってくる」
「何度も言うけど決して用心を怠るんじゃないよ」
「ああ」
光が消えた水晶玉を暫し見つめた後、イフティミアはユスフの方に向き直る。
「今のうちに準備しておいたらどうだい?」
「準備……と言いますと」
「事後処理、とでも言えば良いのかね。教会にあれこれ報告しなきゃならないんだろ?」
「ああ、その件についてはご心配なく。依頼をしてからここに至るまでの経緯は文書の形で纏めてありますので」
「……たまに黙々と書いていたのはそれかい」
「お陰様で中々の量になりましたよ」
分厚い紙束を手の甲で数度叩いた後、ユスフはふんと鼻を鳴らす。
「モーリエの狩人がどのように魔城を攻略し、女王吸血鬼を討ち取ったのかを記録に残す大役を担えるのは大変喜ばしいことですよ。その過程で膨大な労力を要するという難点があることを除けば、ですが」
「……そんな大袈裟に言う程のことかい?」
「大袈裟な解釈をしないと今すぐにでも投げ出したくなるんですよ。只管に文字を書き連ねる地道さとは裏腹に過酷極まりない苦行なんて普通はやりたくないでしょう?」
「それはまぁ……そうだね」
「要するにただの言い訳ですよ、情けない話ですけどね」
肩を竦めた後、ユスフは分厚い紙束に視線を向ける。
「これの最後に書くのは女王吸血鬼を討ち取って無事に生還、一件落着の一文であってほしいものです。悲劇の最期なんて書き記したくありませんので」
「見る側だって望んでいるさ。悪い奴が倒されて、救われるべきものが救われる最良の結末って奴をね」
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