第二話 美鈴からの電話

 第600階層にある拠点に戻った俺は、血を拭ったり武器をしまったりすると、ソファによっこらせと座り込んだ。

 直後、膝の上にルルムが座る。


「えへへ~~マスターの膝~~~」


 そう言って、俺の方を見ながらにへらっと笑うルルムに、俺は優しく笑いかけながら抱きしめてあげる。


「さてと。ロボさん。データは、どんな感じだ?」


 俺はルルムを愛でながら、ロボさんに話題を振った。

 すると、ロボさんはこくりとロボットのような動作で頷いた後、声を出す。


「ハイ。コンカイノタンサクデ、チケイヲタンチシタケッカヲ、オワタシシマス」


「ああ、頼む【繋げ】」


 直後、頭に流れ込んでくる膨大な情報。

 ロボさんが探索を経て集めてくれた貴重な情報だ。

 俺はそれを脳内で、素早く解析していく。


「……なるほど。ありがとな」


 解析は一瞬。

 俺は必要な情報を脳内で確認しながら、ロボさんに礼を言った。


「ハイ。アリガトウゴザイマス」


 それに対し、ロボさんはそう応えるのであった。


「うむ。この調子なら、何とかなりそうじゃの?」


「ああ。そう遠くない内に、第893階層も攻略できるだろう。ただ、こうなると心配になって来るのが、第899階層の階層主フロアマスターだ」


「そうじゃの。第799階層の時は、散々じゃったからのう……」


「だね」


 そう言って、俺とアルフィアは息を吐く。

 第799階層の階層主フロアマスター――それは、ルルムにも度々擬態させている空間捕食者スペースイーター

 レベル3500、平均ステータス値40000のあいつを倒すのは、本当に骨が折れたよ。

 文字通り。

 何せ、ステータスでは完全に負けているんだ。それだけでも結構キツいのに、あいつって空間魔法主体で戦ってくるから、ステータス差を埋めるために《屍山血河デストブラッド》を使っても、あんま有効打にならないんだよね。

 結果、魔法勝負となる訳だが、大技はまず当たらん。何せ、使おうものなら察知されてからの転移回避で即終了。

 最終的には手数と技量、我慢比べで押し切ったが、普通に辛かったんよなぁ……


「まあ、あれから強くなったし、人間の技術も念の為取り入れておけば、安心だろう」


 人間の技術には、目を引くものが多々ある。それを取り入れるのは、ダンジョン攻略にとって結構必要な物なのだ。

 後は、美鈴や宏紀にただ調べるだけでは分からないような、細かい事を聞ければ完璧だ。


「……ん?」


 そんな時だった。

 なんと、地上の方から《遠距離念話テレフォン》で連絡が来たのだ。

 俺は一瞬何事かと目を見開いたが、直ぐに美鈴であると理解すると、警戒を解き、接続する。


『美鈴。大翔だ。何かあったのか?』


 そして、そんな言葉を投げかけた。

 すると、息を呑むような息遣いの後、声が聞こえてくる。


『は、はい。”星下の誓い”所属の第二級探索者、青梨美鈴です』


『あ、ああ』


 別に所属や階級は言わなくてもいいのでは無いか……と思ってしまったが、今の電話のルールは違うかもしれないと、俺は言葉を飲み込む。

 だが、美鈴は俺の言いたい事を察してしまったようで、「はうっ……」と、詰まったような声を漏らした。


『す、すみません。それで、時間が空いてきたので、12日……3日後の12時半に、昼食を食べに行きませんか? 無理でしたら、遠慮なく言ってください』


『飯か……』


 そういや、この前行こうって俺の方から言ってたな。

 約束、ちゃんと覚えてくれていたようだ。


『ああ、特に予定は無い』


 そもそも俺の行動って特に予定という物が無く、やろうと思った事をやる感じだからね。

 すると、若干頬が緩んだような声で、美鈴が言葉を紡ぐ。


『それは、良かったです。待ち合わせ場所は、事務所前にしましょう』


『ああ、分かった』


『はい。では』


 そう言って、美鈴との連絡は切れた。


「……飯、か」


 気付けば、俺はぼそりとそんな言葉を口にしていた。

 どこへ連れてってくれるのか、期待していないと言えば嘘になる。

 現状、ここで美鈴が碌でもない所に連れて行く可能性は、相当低い訳だし。


「む? あの人間の女からかの?」


「ああ。いい海鮮系の飯を紹介してもらう約束を前にしたからな。今後飯を選ぶ、参考になればいいと思っているよ」


 アルフィアからの問いに、俺はそう言って答える。


「うむ。美味い飯は大事じゃからの。しっかりリサーチとやらをしてくるのじゃ、ご主人様よ」


「んん!? ごはん? ごはん~~~~~?」


 すると、アルフィアは笑顔でそのような事を宣い、更にその言葉にルルムが反応して、ぱっと花開くような笑みを浮かべながら、きゃっきゃと笑う。


「まあ、確かにそろそろ飯を食べる時間だな。そんじゃ、弁当食うか」


 あれから、しれっと弁当の補充もしてある。金は、魔石を売りまくったお陰で、大分潤ったしな。


「あ、なんか要望ある?」


 俺は一応とばかりに、3人に問いを投げかけた。


「ふむ……肉系が食べたいのぅ」


「ワタシハ、オイシイモノガタベタイデス」


「ルルムは美味しいもの~~~~~!」


 だが、3人中2人が、美味しいとかいうめっちゃ曖昧な答えを出す。

 おいおい。まあ、美味しいと思うものを出すけどさぁ……それで文句は言わないでくれよ?

 そんな事を思いながら、俺は《空間収納インベントリ》からいくつもの弁当を取り出すと、皆に分け与えるのであった。

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