第三話 お高めの寿司屋へ行くらしい

 美鈴と電話をしてから3日後。

 あれから、治癒薬の調合をしたりルルムと戯れたりして過ごしていた俺は、そろそろ美鈴と会う時間だと気づくと、地下にある魔導工房アトリエから出た。

 すると、ここでアルフィアとばったり出くわす。


「おお、出て来たかの。何か、必要な物でもあったのかえ?」


「いや、単に今日が美鈴と会う日なんだよ」


「あ、もうそんな時間だったかの」


 アルフィアからの問いに答えると、アルフィアはそう言ってからからと笑う。

 俺はまだ地上で生きていた名残か、時間間隔は割と人並みだ。だが、生まれも育ちもダンジョンであるアルフィアとルルムは、長生きである事もあってか、結構時間間隔がバグってるんだよね。

 あ、ロボさんはゴーレム故か、むしろ俺より正確だ。


「そうだよ。さっき《観察者オブザーバー》で地上を見たところ、もう時間みたいだからな。さっさと行かないと」


「うむ。分かったのじゃ。美味い飯、ちゃんと買ってくるのじゃぞ? 別に《空間収納インベントリ》があるのじゃから、わざわざ弁当にしてくる必要はないからの」


「分かってる分かってる」


 俺がナチュラルにミスしていた事を突いてくるアルフィアに、俺は雑な返しをした。

 いや、仕方ないじゃん。

 飯を持ち帰るってなると、無意識に弁当を選んじゃうんだって。

 忌々しい昔の癖だよ。


「で、希望はある?」


「そうじゃのう……どうせなら、新しいものが食べたいの。ロボさんとルルムには……まあ、聞かなくてよかろう」


「だね」


 ルルムとロボさんは、美味しければなんでもいいと思うタイプなのは、今となっては周知の事実だからね。

 こんな感じで、ちゃんと要望を出してくれるのはアルフィアだけだよ。

 あ、俺?

 俺は勿論、美味しければなんでもいい。


「さてと。それじゃ、ルルムたちと家の事、任せたよ」


「うむ。妾に任せるのじゃ」


 そして、最後に色々な事をアルフィアに任せると、《空間転移ワープ》を行使して、地上へと飛んだ。


「よっと。……相変わらず、人多いな」


 ダンジョン総合案内所の屋根の上に転移した俺は、下を歩く多くの人間を一望しながら、そんな呟きを落とす。

 あそこに居る人間の多くは、その服装からも想像できる通り、ダンジョン探索を生業としている探索者。今は丁度昼時だし、飯屋を求めて彷徨っている所ではないだろうか。


「そろそろ時間だし……少し早いかもだけど行くか。【歪め、空間――《歪曲領域ディストーションフィールド》】【繋げ――《空間転移ワープ》】」


 癖で無意識に《歪曲領域ディストーションフィールド》を展開し、サクッと姿を隠すと、《空間転移ワープ》を使って、待ち合わせ場所である”星下の誓い”の事務所前に転移した。


「……あ、もう居たんだ」


 集合20分前だと言うのに、そこには申し訳程度にマスクをしている美鈴が佇んでいた。普段探索で使っているのであろう装備で身を包んでおり、背中にはリュックサックが背負われていた。

 もしかして、午前中はダンジョンに潜っていたのだろうか?

 俺はそんな事を疑問に思いながら美鈴に近づくと、《歪曲領域ディストーションフィールド》の効果範囲内に美鈴を入れた。

 そして、声を掛ける


「美鈴。随分と早く来てたんだな」


「あ、大翔さん! もう、急に出て来て驚きましたよ……?」


 すると、美鈴はピクリと身体を震わせた後、そう言って俺の方を見る。


「それは悪かった。下手に絡まれるのが嫌いだから、結界を展開してたんだよ」


「ああ、これあの時のやつですね。私はある程度なら問題ありませんが、偶に度を超す方もいますので、その気持ちはよく分かります」


 そんな美鈴に俺は謝り、理由を告げる。

 すると、美鈴は納得したようにそんな言葉を言ってくれた。

 確かに美鈴は、有名なダンジョン配信者だ。面倒な奴に絡まれる事も、珍しくは無いのだろう。


「そうか。それで、今日はどこへ行くんだ?」


「”新兵衛”という昔からある寿司屋にしようかと思っています。高価なところなのですが、大丈夫でしょうか?」


 ここで一旦雑談を終え、本題に入る。

 すると、美鈴はこくりと頷くと、そう答えた。

 なるほど。”新兵衛”……昔、似たような高級寿司屋を聞いたような気がしたのだが……まあ、気のせいだろう。

 それで、値段の方だが……まあ、何百万も持ってて、足りなくなる方がおかしいな。

 それに多分、これは俺の実力から、どの程度の稼ぎなのかを想定しての選択なのだと思う。

 極論になってしまうが、セレブに普通の回転寿司を進める人はいないよねってやつ。


「ああ。ちゃんと考えてくれたんだろ? なら、文句は無いよ」


 それに、お高めの所なら、その分美味しい可能性も大。

 なら、美味しい飯を求める者として、行くしかないな。


「ありがとうございます。それでは、早速行きましょう。ここから、歩いて5分程の距離にあります」


「分かった。行くか」


 そう言って、俺たちは”新兵衛”という寿司屋を目指して、歩き出すのであった。


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……あ、引き続きこの作品の更新は続けますのでご安心を。

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