第二章

第一話 大翔の日常

 あれから少しして。

 俺たちは、いつものようにダンジョン探索をしていた。


「【絶氷よ、穿て】――はっ!」


「「「グガアアアア――!」」」


 今攻略しているのは、第893階層。

 前来た時に降りてきた新しい階層で、前回よりも若干魔物が強くなっているような気がする。

 あと、数が多い。

 俺からしてみれば、前者よりも後者の方が、非常に厄介に思う。


「アルフィア~。ちょっとそっち多過ぎるから、掃討しといてくれ」


 自身のレベル上げの事も考えて、出来る限りは俺が倒したいと、無意識に思ってしまうのだが、そのせいで死んだら元の子も無い。

 昔みたいに、前へつんのめりながら戦う必要性は、もう無いしさ。


「うむ。分かったのじゃ――【■■■■■■■■■■■■■■】!」


 直後、龍言語で紡がれた炎が産声を上げ、脇道にいる大量の魔物を焼き払った。

 そこそこ離れているのに、結構な熱量を肌身で感じる。


「さてと。【纏え】――はあっ!!!」


 俺はそんなアルフィアを一瞥すると、前方から来る無数の魔物目掛けて、魔力を纏わせた《世界を侵す呪剣ワールド・ビオレーション》を振るった。

 すると、魔物がバターのようにスパスパと斬り刻まれていく。


「キュウシュウシマス」


 そして、俺の後ろではロボさんが魔石を取り込み、俺たち3人の補助として度々使っていた結界魔法で消費した魔力を補充していく。


「お~~~~~~りゃ~~~~~~~~!!!!!」


 そして別方向では、人間形態のルルムは、魔物を力任せにぶん殴っていた。

 ルルムよ。一応倒せてはいるが……それじゃあちょっと効率悪いぞ?

 だが、指摘はしない。

 だって、しても……ねぇ。

 それに、ルルムには、ルルムの戦い方があるし。


「粗方片付いたか……で、こっちの方に階段は無さそうだ」


 しばらくこっち方面を突き進みながら地形探知を続けた結果、こっちに第894階層へと続く階段は無いと判断した俺は、そう言ってアルフィアたちの方に向き直った。


「ふふふっ 今回は妾の予想が当たったの。やはり、こっちには無いでは無いか」


 すると、アルフィアがドヤ顔でそんな事を言う。


「まあ、確かに当たったね。珍しく。」


 外れる事の方が多いのになぁと思いながら、俺はそう言って頷いた。


「む、珍しいとは、酷い言い草ではないか、ご主人様よ」


「いや、そんな事言われても、事実だし……」


 俺の言葉に不満げな表情を浮かべて言うアルフィアに、俺は困惑しながらそんな言葉を漏らした。すると、ルルムが俺の背中に飛びついてきた。そして、アルフィアを睨みつけると、口を開く。


「ご主人様の言う事は正しいの~! アルフィア、文句言わない!」


 珍しく、仲間に対してキツめに声を上げるルルム。

 それには、さしものアルフィアも狼狽える。


「ちょ、ルルム酷いでは無いか……。一応言っておくが、妾、ご主人様の事は大好きじゃからな?」


「うん。なら、よし!」


「何が良しなのか分からん……」


 ルルムの謎判定に、俺は力なくツッコミを入れるのであった。


「……ソロソロイカナイト、マタマモノガキマスヨ」


「ああ、ごめん。ロボさん。それじゃ、直ぐに行くぞ!」


「うむ。分かったのじゃ」


「は~~~い! マスター!」


 ロボさんに注意された俺は、「こんな所でなにやってんだ俺」と反省しながら、来た道を戻るように走り出した。そして、その後に3人が続く。


「……はっ! はっ! はっ!」


「グガァ……」


「ガッ……」


「ガギャッ……」


 道中、当然のように魔物が壁から産み出て来たかと思えば、一直線に突貫してきた――が、なんてことない様に剣を振るって対処していく。


「……剣術。割と上達したな」


 魔物を倒した俺は、走りながらそんな言葉を呟いた。

 あの日、地上に出た俺は色々な事を知った。

 その中には当然、俺の本懐である力の渇望――言うなれば、戦闘に関する様々な事も含まれていた。

 それにより、俺はある程度剣術という物を学んだのである。

 確かに、俺が300年間で培ってきた経験に基づく技術は、自分で言うのもあれだが圧倒的だ。だが、あらゆる面で上回っているかと聞かれると、答えはNOだ。

 前にも言ったが、俺1人で全ての頂点に立てるとは、全然思っちゃいないんだよ。


「……じゃ、やるか」


 ようやく初期の方にあった分かれ道にまで戻った俺は、別方向の道へと入り込んだ。


「「「「「グルァアアァ!!!!!!」」」」」


 そしたら出て来るわ出て来るわ。

 物量で攻めてくるのは、怠いんだって。しかも、1体1体が地味に強いし。


「……どうせこれが終わったら1回拠点に戻るし、使い方を今一度確認しておいた方がいいから、使うか。皆、万が一があるといけないから離れて」


「うむ。了解じゃ!」


「は~~~い!」


「リョウカイシマシタ」


 俺は《世界を侵す呪剣ワールド・ビオレーション》を構えると、アルフィアたちを一瞥し、警告を飛ばした。

 そして、前方からなだれ込んでくる魔物どもを見据えると、《世界を侵す呪剣ワールド・ビオレーション》を横なぎに後ろへ振るう。


「やるか――【《死の斬撃デス・スラスト》】」


 刹那、俺は思いっきりそれを横なぎに振るった。

 直後、漆黒のオーラが空間内に迸り、魔物どもの命を


「ガ……」


「グ……」


 文字通り命を刈り取られ、魔物どもは地へ沈んでいく。


「ん-久々に使うけど、相変わらず扱いが難しいな……。まあ、使ったし結果も取れた。一旦、拠点に戻るとしよう」


 そう言うと、俺は《範囲空間転移エリア・ワープ》を使って、皆と共に第600階層にある拠点へと戻るのであった。

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