23.打ち上げ

 結局、俺たちのクラスは男子が初戦敗退。女子が2回戦敗退という結果に終わった。全学年合同の球技大会であることを考えれば、まあまあ善戦したのではないだろうか。

 前世ではこういうクラスで一丸になってイベントに臨むってなことを真剣に取り組んでこなかったから、なんだか新鮮な気がした。

 黒川ももう足は大丈夫なようで普通に歩いている。とりあえず一安心だ。


「打ち上げ行こうぜ」


 吉本がクラス全員にそう呼びかけ、大多数の生徒の参加が決まった。前世ではこういうクラスの集まりに参加しないタイプだった俺は初めてのことで緊張するが、せっかく人生をやり直せたのだから経験することにした。

 姫宮と黒川も参加するようで男子連中は喜んでいた。放課後、カラオケに集まって打ち上げが始まる。

 俺の両隣は姫宮と黒川が固めた。


「それにしても黒川さん凄かったよね。めちゃくちゃ動けてたし」


 姫宮が興奮気味に黒川にそう言う。黒川は頬を染めながら俺を見た。


「実は鈴木くんに練習に付き合ってもらったの」

「真と」


 一瞬、姫宮が固まった。姫宮からすればおもしろくはないだろう。俺は姫宮の気持ちを聞かされているから、他の女子と二人で過ごしたことに少し後ろめたさを感じる。


「そっかそっか。真相変わらず優しいね。真も凄く動けてたじゃん。バスケやってたの」

「趣味程度だよ。本気で競技をしていたわけじゃない」

「男子の中だと一番動けてたし、他にもう一人できる人がいたらもっといいところまでいけたかもね」

「それはどうだろ。体格差的に厳しかったと思うけど」

「来年はもっと頑張ろうね」

「来年はクラス違うかもしれないだろ」

「あーそんな寂しいこと言う。頑張ろうって言っとけばいいんだよ」


 姫宮が俺の脇腹を小突いた。

 

「でもやっぱり姫宮さんは凄く動けてたね。運動神経良くて羨ましい」


 黒川が姫宮を羨んでそう言う。黒川の発言は本心だろう。運動に対して苦手意識のある黒川からすれば、姫宮はさぞ眩しく映ったことだろう。


「運動は得意だから。でも、黒川さんも真との練習の成果出せてたと思うよ」

「最後が納得いってないの。怪我をして交代しちゃったのが残念で」

「スポーツにアクシデントは付きものだよ。初戦は黒川さんのおかげで勝てたんだし」


 姫宮の言う通り、初戦の黒川は大活躍だった。練習の成果をきっちり発揮できていたし、体も動いていた。初戦ではりきりすぎた分、二回戦に影響したのだろう。


「そうね。今回の球技大会で私、少し自信がついたわ」

「頑張ってたもんね。また何かあれば頼ってくれていいから」

「ありがとう、鈴木くん。同じ部活のよしみで頼らせてもらうわ。その代わり鈴木くんも私を頼る時は頼ってくれていいからね」

「うん、ありがとう」


 三人で雑談していると、吉本がデンモクを持って姫宮のところへやってきた。


「姫宮さん、一曲どうぞ」

「ありがとう。じゃあ歌わせてもらおうかな」


 姫宮はデンモクを操作して曲を入れると、ステージに向かって歩いて行った。

 残された俺と黒川は互いに顔を見合わせて笑った。


「黒川さんは歌わないの?」

「私、人前で歌うのはちょっと苦手で。そういう鈴木くんは」

「俺、歌とか全く聞かないからわからないんだよね」


 嘘だ。前世ではアニソンとか聞きまくっていた。ただこの世界の歌はマジで一曲も知らない。先ほどからクラスメイトが歌っている歌も有名な歌らしいのだが、何一つわからなかった。

 姫宮が歌い出す。姫宮の可愛らしい声がマイクに乗って響き渡る。姫宮はアイドルソングっぽい歌を歌っていた。足でリズムを取りながら、笑顔でノリノリで歌っている。


「姫宮さん凄いわね。まるで本物のアイドルみたい」


 黒川が姫宮を見て言う。黒川の言う通り、姫宮は容姿も抜群い整っているし、マイクを持って笑顔で歌っている様はまさに本物のアイドルそのものだった。


「鈴木くんも姫宮さんみたな子がタイプなの?」

「え……いきなり何言い出すんだよ」

「ちょっとした興味本意よ。で、どうなの?」


 確かに姫宮は可愛い。俺も姫宮の見た目に惹かれていることは事実だ。

 だが、俺は首を横に振った。


「姫宮も可愛いけど、見た目なら俺は黒川さんの方がタイプかな」

「えっ……えっと、その……ありがとう」


 黒川が目線を逸らして俯いた。

 俺はいったい何を口走っているのだろう。これじゃまるで口説いているみたいじゃないか。

 黒川は真っ赤にして俯いている。まさか自分の名前が出るとは思っていなかったのだろう。なんだか悪いことをしたな。


「私も」

「え?」

「私も、見た目だけなら鈴木くんがタイプだわ」

「あ……いや、その……ありがとう」


 黒川と全く同じ反応になってしまった。

 いやこれ恥ずかしいな。黒川の意趣返しに赤面していると、歌い終わった姫宮が戻ってきた。


「どうしたの二人とも」

「いや、なんでもない」

「なんでもないわ」


 二人して顔を真っ赤にしながら姫宮に弁明するのだった。

 それから打ち上げは華やかに進み、お開きとなった。俺は一切歌わなかったけど、案外こういうのも悪くないものだなと思った。

 帰り際、黒川が俺の方にやってきてこっそり耳打ちしてくる。


「土曜日の件、また連絡するわね」


 それだけ言うと手を振って去っていく。

 これってやっぱりデートだよな。

 俺は姫宮と並んで歩き出す。


「練習、私も誘ってくれたらよかったのに」


 帰り道、姫宮がそっとそう切り出してくる。


「やっぱり気にしてたのか」

「そりゃするよ。真って優しいからモテるんじゃないかって」

「まあ、見た目タイプだとは言われたな」

「あーやっぱり。そっか、黒川さんがライバルか」

「いや、黒川さんは俺のこと好きとは言ってないからな」

「絶対好きだよ。仮に今好きじゃなくても好きになる。同じ女だからわかる」


 姫宮が謎の自信を持ってそう答える。

 確かに男の俺よりは黒川の気持ちはわかるのかもしれないが。

 ここまで俺への好意を隠さない姫宮を見ていると、隠し事しているのがなんだか後ろめたい気持ちになってきた。

 俺は土曜日の件を姫宮に話すことにした。

 

「まあ土曜日お礼したいとは言われてる」

「行くの?」

「まあ、行くよ。断る理由がないからな」

「行くんだ」


 姫宮が溜め息を吐く。姫宮との分かれ道に到達した。


「それじゃまた私ともデートしてね」


 姫宮はそう言い残して去っていった。

 俺は自分の気持ちの整理がつかないまま、家路を歩いた。


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