22.球技大会
俺たちの対戦相手は上級生だ。2年生ということで、体格が俺たちより一回り大きい。
男子チームはポジションも適当に決めていた。そもそもバスケの知識があるやつがいない。基本的にはマークする相手だけを決めて、自由に動く作戦だった。
ジャンプボールで相手にボールが渡る。相手チームはバスケ部が1人いるらしく、そいつにボールが渡った。ドリブルで俺たちのディフェンスを躱し、中へ切り込んでくる。
速い。やはり本格的にバスケをしている人間の動きは別格だった。すぐに俺の前までやってくる。俺は両手を広げ、重心を低くして迎え撃つ。バスケ部員はフェイントを入れて俺を抜き去ろうとしたが、俺はぎりぎりのところで踏ん張ってなんとかついていった。
「やるじゃん」
バスケ部員は俺を抜くことを諦め横にパスを出した。クラスメイトが抜き去られ、シュートを打たれる。あっさりと先制点を献上した俺たちは早くも実力の差に落ち込んだ。
「やべえよ。あんなの止められるわけねえ」
吉本が渋面を作りながらそう溢す。早くも俺たちのチームは士気が下がっている。
「相手は上級生だ。体格じゃどうしても勝てない。俺たちは精一杯やろう」
俺はチームメイトを励まし、コートに散る。まだ試合は始まったばかり。見たところ、バスケ部員は1人だし、その他の生徒でマークするのは2人ほど。あとは体格がいい生徒が1人か。一矢報いるぐらいはできるだろう。
俺はパスを受けるとドリブルで進んでいく。
「鈴木くん、頑張って!」
コートの外から黒川が声援を送ってくれる。一緒に練習したんだもんな。黒川にかっこいいとこ、見せたいよな。
俺はフェイントを入れて1人抜くと、中へ切り込む。目の前にバスケ部員が立ちはだかり、俺の行く手を阻む。俺はすぐさまパスを出し、ゴール下へ走る。ディフェンスの隙を突き、パスが通りやすい位置取りをキープした。
俺がフリーなのに気付いた吉本が俺にパスを出す。俺はパスを受けると、シュートの体勢に入る。俺の放ったボールをは弧を描き、ネットを揺らした。
「凄いわ、鈴木くん!」
黒川が歓声を上げている。上級生相手にシュートを決めた。それだけで凄く映ったことだろう。
しかし、俺が活躍できたのはここまでだった。この後は俺にマークが集中し、特にバスケ部員の先輩が俺を徹底マークした。俺にパスは通らず、クラスメイト達はなかなかシュートを放つこともさせてもらえなかった。
じりじりと点差は引き離され、気付けば大差をつけられていた。やはり地力に差がある分、試合結果は俺たちの大敗で終わった。
「あー負けた負けた」
吉本は開き直って汗を拭っていた。後半は先輩たちの動きについていけず、好き放題にやられていたからな。いっそ清々しいまでの大敗だった。
「お疲れ様」
黒川がタオルを持って近づいてくる。俺はタオルを受け取ると、汗を拭った。
「いやあ。流石は上級生だ。なにもさせてもらえなかったよ」
「見ていたわ。鈴木くんへのマークが厳しかったわね」
「多分、俺がちょっとバスケできるのバレたんだと思う。見る人が見ればわかるしね」
「でも、最初は相手を抜いてシュートを決めたじゃない。かっこよかったわよ」
「ありがとう。俺たちは敗退してしまったけど女子はまだ次があるからね。頑張ってね」
「ええ。男子の分も頑張るわ」
負けるのはやっぱり悔しいが、本気でバスケをやっていたわけじゃない俺からすれば、こんなもんかなとも思う。むしろ、シュートを決めることができたのはいい方だ。あとは黒川の応援に徹しよう。
女子の2回戦は3年生のクラスとの試合だった。
少し休んだとはいえ、黒川はまだ肩で息をしている。体力がない黒川にとってこの連戦はきついだろう。
試合が始まる。姫宮がジャンプボールを制するが、すぐにボールを奪われてしまう。
流石は3年生。チームの呼吸が合っている。パスを上手く繋がれ、あっさりと得点を奪われてしまう。
うちのクラスの女子もすぐさま反撃に転じるが、相手のディフェンスが固い。姫宮が徹底的にマークされ、2人がかりで潰しにきている。やむを得ず姫宮は黒川にパスを出す。
黒川も頑張ってはいるが、所詮は付け焼刃。体力の衰えた黒川はすぐにボロが出てしまう。
「あっ……!」
黒川が出したパスがカットされ、ボールを奪われる。黒川も必死で食らいつこうとするが、相手の背中はどんどん離れていく。
その時、黒川の足がもつれた。
「いたっ……⁉」
転倒した黒川が苦悶の表情を浮かべる。
「大丈夫、黒川さん」
慌てた姫宮が駆け寄る。
「足を捻ったみたい」
「保健室に行かないと。選手交代で」
姫宮が審判に告げ、黒川が交代する。
「俺が付き添うよ」
「ありがとう、鈴木くん」
俺は黒川に肩を貸し、一緒に保健室へと向かう。姫宮の視線を感じるが、今は気にしている場合ではないだろう。
保健室に着くと、保険医が優しく微笑んだ。黒川をベッドに座らせ、足の様子を診る。
「大丈夫。捻挫まではしてないわ。ちょっと捻っただけね」
「良かった」
俺は安堵の声を漏らす。
「それじゃ、先生は体育館に戻るから、あなたたちも少し休んだら戻りなさいね」
「わかりました」
保険医を見送って黒川と二人きりになる。黒川は落ち込んだ様子で俯いている。
「ごめんなさい。せっかく鈴木くんに付き合ってもらったのに、こんな結末で」
「何言ってるのさ。初戦活躍できたんだ。付き合った甲斐があったよ」
「でも、こんなかっこ悪いところ、見せたくなかったわ」
黒川は悔しいのだろう。本当なら、試合も最後まで出たかったはずだ。この球技大会に懸ける想いが強いのはわかっていた。だが、同時に俺はそれほどの活躍は難しいのではと思っていた。いくら練習したとはいっても、所詮は短期間。付け焼刃に過ぎない。体力のない黒川がフル出場は厳しいだろうと俺は考えていた。
だが、俺の予想はいい意味で裏切られた。初戦をフル出場で頑張っている黒川を見て、俺は胸に熱いものがこみ上げてくるのを感じた。勝利に貢献した黒川の姿は間違いなくかっこよかったのだ。
だからこそ、こうして黒川が落ち込んでいるのが俺は許せなかった。
「黒川さんはかっこよかった。少なくとも初戦勝つことができたのは、黒川さんの努力の成果だよ」
「鈴木くん……」
「だから元気出して。俺は黒川さん、かっこよかったと思ってる」
「ありがとう。鈴木くんにそう思ってもらえたのなら、これで良かったのかもしれないわ」
黒川の顔に笑顔が戻る。マンガではあまり笑わなかった黒川だが、俺といるときはよく笑顔を見せてくれる。俺はそれが嬉しい。
「お礼、するから。土曜日は空けておいてね」
「うん。空けておく。足大丈夫そうなら、戻ろうか」
「ええ。もう大丈夫。戻りましょうか」
俺は黒川に手を貸して立ち上がらせる。黒川も痛みは引いたのか、笑顔で体育館に戻った。
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