15.記憶
◇姫宮咲良
勢いで真に告白してしまった。そんな重い感じじゃなかったからまだ良かったけど、真のことが好きなのは本当なのだ。
家に帰った私は部屋着に着替えると、ベッドに寝転がった。
「真、やっぱり嫌がってた?」
薄々そんな気はしていた。真に連絡先を聞いた時も、一旦は断られたし、私と親しくするのを嫌がられているように感じていた。
それでも私は真と一緒にいたいと思ったから、知らない振りをして真の傍にい続けた。
男の子になんて一切興味はなかったのに、なぜか真には強烈に惹かれてしまう。
これでも、私はモテる。今まで告白されたことだって数えきれないぐらいだ。だから真もきっと私のことを好きになってくれると思っていた。でも、実際は微妙に避けられている感じがする。
「私って魅力ないのかな」
中学の頃は恋愛に興味を持つ年頃だったし、声を掛けやすかった私に告白してくれた男子が多かっただけで、私自身に魅力はそんなになかったのかもしれない。真と接していると、自信がなくなってくる。
「家に男の子を呼んだのも、真が初めてなのに」
部屋着姿を見せたのも真が初めてだ。男の子は女の子のオフ姿を見るとぐってくるって見たから試してみたけど、確かに手ごたえはあったんだけどなあ。少なくともあの時の真はドキドキしていたし、かなり緊張していたと思う。
同じ部活にもなれたし、クラス委員で一緒だし、これからも接点自体がなくなることはないだろうけど、油断はできない。真は誰にでも優しい。先の宿泊研修では困っていた黒川さんをフォローしてくれたと彼女が語っていた。黒川さんも同じ部活だし、真のことが好きになる可能性も十分にあるよね。
「私にだけ優しかったらいいのに」
そんな醜い独占欲が心の奥底から湧いてくる。
真が他の女の子に優しくしているところを見ると、少し妬けてしまう。宿泊研修も同じ班になれなくて少なからずショックを受けたし。
自分のことよりも真のことだ。真は何かを恐れているような気がする。女性を恐れているのか、女子への接し方が少し遠慮気味だ。
だったら、私が真の不安を取り除いてあげられたら、真も私を選んでくれるかもしれない。
「でも、まずは真が何を恐れているのかを知る必要があるね」
幸い、これからも真とは接点がある。近くにいれば真が何を恐れているのか探る機会もあるだろう。
これは私にとって戦いなのだ。女としてのプライドを懸けた。そうやすやすと諦めることはできない。
それにしても……
「真は忘れてしまったのかな」
子供の頃のことを。同じ保育園に通って仲が良かった時のことを。私は保育園の頃のアルバムを引っ張り出す。真と再会してから、真と映った写真をベッドの上の写真立てに入れて飾ってある。
私の名前を聞いた時も、真は一切反応を示さなかった。つまり、私のことは覚えていない。子供の頃の話だが、約束もしていたのに。
「結婚しよって言ったのに」
正確には私が一方的に言っていただけだった気がするが、真も笑顔で頷いていた記憶がある。
子供の頃の約束だ。覚えていないのは仕方ない。だが、私自身を忘れられたのはちょっとショックだった。
別に子どもの頃から真のことを恋愛対象として見ていたわけじゃない。再会してから好きになった。でも、私は言い出せなかった。保育園一緒だった咲良だと、言えなかった。もしそれで知らないと言われたら私はきっと泣いてしまうから。
「保育園の頃から、真は優しかったんだよね」
アルバムを見ていればどんどんと記憶が蘇ってくる。こけて怪我をして泣く私を、傍で励まし続けてくれた真。いじわるをされていた私と遊んでくれた真。おやつで私が好きなものが出れば、くれた真。どれも優しい記憶だ。
だからこそ、今も優しい真を見ていると、あのまますくすくと成長したんだなと嬉しい気持ちになる。
そんな真だからこそ、きっと私は好きになったのだ。
あの日、入学式の日、私を学校までおぶってくれた優しい背中に私は恋をしたのだ。この恋をそう簡単に諦めるつもりはない。
きっとライバルは多いだろうけど、最後に真の隣に立つのは私だ。
真が何を恐れているのかを突き止め、それを解消する。当面の目標はこれだ。それと合わせて私自身の女を磨くことも忘れてはならない。桜雪高校には私以外にも魅力的な女子がいるし、油断して真をかっさらわれる未来になっては目も当てられない。できる努力はしておくべきだ。
「真だって私にドキドキはしてくれるみたいだし」
女として意識はしてくれていたはずだ。私がより魅力的になれば、真だって振り向いてくれる。そう信じて私は頑張ることしかできない。
勉強にスポーツに女子力。できることはたくさんある。真に褒めてもらえる為だったら、私はなんだってできる。
「まだ心臓の音が鳴りやまないや」
真と分かれてからもうかなり時間は経っているというのに、私の心臓の鼓動は高鳴ったままだ。
アルバムで真に触れ、彼のことを思い浮かべているからだろうか。この胸の高鳴りが証明している通り、私は真が好きなのだ。
真が私のことを思い出してくれなくてもいい。今の私を好きになってくれたらそれでいい。だからこの先も、私が保育園で一緒だった咲良だと明かすつもりはない。本人が気付いてくれたその時だけ打ち明けよう。
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