13.部活動見学②

 翌日の放課後も姫宮と共に部活動見学に繰り出した。

 昨日と同じく、部活動案内を開いて見学に向かう部活を選ぶ。


「今日はどこ行こうか」

「そうだね。昨日は私が選んだから、今日は真が選んでいいよ」

「それじゃお言葉に甘えて」


 俺は部活動案内を見る。吹奏楽部、手芸部、競技かるた部、科学部……本当に色々あるな。姫宮も同じ部活に入る気でいるし、姫宮も楽しめる部活の方がいいか。

 そう考え、俺は部活動案内の中から、ひとつの部活を選ぶ。


「これなんかいいんじゃないか。レクリエーション部」

「レクリエーションか。何する部活なんだろ」

「まあ、行ってみようぜ」


 レクリエーション部は特別棟の3階奥の部屋だ。俺と姫宮は特別棟に移動し、階段を上る。

 静かな場所だ。部活動が行われているにしては静かすぎるぐらいだ。文化系の部活なんてこんなものかもしれないが。

 レクリエーション部の部室の前に辿り着くと、思いがけない人物がいた。


「黒川さん。どうしてここに」


 俺は驚いて引き戸を開けようとしていた黒川さんに声を掛ける。

 

「鈴木くんに姫宮さん。私はこのレクリエーション部の見学に。あなたたちは?」

「俺たちも同じだよ。でも意外だね。黒川さんがレクリエーション部なんて」

「ここの部長が私の中学の先輩で泣きつかれたのよ。部員がいないから入部してくれって」

「なるほどそういう事情か」

「そうよ。興味のある部活もないし、まあいいかなと思ってね」

「よし、それじゃ入ろうか」


 3人でレクリエーション部の部室へ入る。


「待ってたよ、才華!」


 引き戸を開けた途端に飛びついてきたのは小柄な女子生徒だった。いきなり女子に抱きつかれた俺は驚いて開いた口が塞がらない。


「およ? 才華じゃない。というか男の子」


 小柄な女子は俺が黒川じゃないとわかると、慌てて飛びのいた。

 やべえ。すげえいい匂いした。マンガとかで女子に抱きつかれて主人公が赤面する理由がよくわかる。柔らかいやらいい匂いやらで頭がおかしくなる。


「真、鼻の下伸びてるよ。……えっち」


 姫宮がジト目で俺を見ていた。俺は苦笑しながら目を逸らす。


「折本先輩、相手はちゃんとよく確認してから抱きついてください。というか抱きつかないでください」


 黒川が小柄な女子にそう言う。

 折本先輩と呼ばれた彼女は、「ごめんごめん」と頭を掻きながら苦笑する。


「改めまして、レクリエーション部へようこそ。部長の折本栞だよ。よろしく」


 明るい声でそう自己紹介する。女子の中でロリ顔の年上に見えない先輩だ。髪は茶髪でショート。人懐っこい印象を受ける人だな。


「初めまして、私は姫宮咲良です。こっちは鈴木真くん。今日はレクリエーション部の見学に来ました」

「おー、それは僥倖だね。というか見学と言わず入っちゃおっか」

「え、いや、それはまだ」

「いいからいいから。大勢でやった方がおもしろいから。はい、これ入部届」


 かなり強引な人だ。姫宮が困惑した表情で俺を見る。


「というか、入ってお願い。部員私しかいなくて潰れる寸前なの。才華が入ってもまだ二人だし、どのみちやばいの!」


 涙ながらに訴えかけてくる折本先輩を見て、俺は溜め息を吐く。


「いいんじゃないか姫宮。どうせ何かの部活に入るつもりだったし。それに部員が少ないならそんなに厳しい部活ってわけでもなさそうだ」

「それは保証するよ! うちはゆるゆるだから安心して」

「そ、そうですね。わかりました。入部します」

「姫宮さん、うちの先輩がごめんなさいね」

「ううん、いいの。黒川さんとも同じ部活なら楽しいだろうし」


 というわけで俺と姫宮はレクリエーション部への入部を決めた。折本先輩はマンガには未登場のキャラクターだ。真と付き合った女子の中にはいなかった。だから危険視する必要がない。なら、このゆるそうな部活に決めるのも悪くないと思ったのだ。


「それじゃさっそく部活やろっか。今日は人数もいるし、ボードゲームやろうよ」


 そう言って折本先輩は棚からラブラブ人生ゲームと書かれた箱を取り出した。


「人生ゲームですか。こういうの学校に置いていいんですね」


 姫宮が興味津々に箱を眺めている。

 

「部費で買ったんだ。去年までは先輩たちがいたから」


 折本先輩が箱を机に置き、蓋を開けながらそう言う。ボードゲームとかできるなら俺としては最高の部活かもしれない。前世の俺はゲーマーだし、ゲームと名の付く物は基本的に好きなのだ。


「それじゃ、早速始めよっか」


 折本先輩の掛け声で、俺たちは机を合わせてゲームを囲んで座る。俺の正面には黒川、隣に姫宮、斜め前が折本先輩という席配置だ。

 まず折本先輩がルーレットを回す。


「職業選択。普通に就職か専業主婦か水商売かをルーレットで決めるの」


 水商売……マジか。この人生ゲームかなり攻めてるな。

 このゲームは男子と女子で進むマスが違う。どうやら結婚システムというのが存在するらしく、職業選択の後、結婚マスに止まればプレイヤー同士で結婚するシステムらしい。


「5だから就職か。普通すぎておもしろくないなー。職業は会社員だって。つまんないのー」


 唇を尖らせながら文句を言う折本先輩。続いて、姫宮がルーレットを回す。


「3だから専業主婦ですね。一番近い男性と結婚するだって。ってことは真と私が結婚」


 顔から火が出そうなぐらい、姫宮が赤面する。マンガの設定では初心なんだよなあ、姫宮って。

 俺と姫宮が結婚したことで、財産が共有になる。このゲームは最終的に財産を多く持っていたプレイヤーの勝利となる。つまり、二人の財産を合算する分、独身プレイヤーより結婚する方が有利になる。つまり、俺と姫宮はかなり有利になったわけだ。


「次は俺か」


 結婚して財産を共有したことで有利にはなったが、ここで俺が専業主夫を引き当ててしまえば目も当てられない。姫宮も専業主婦だから互いに収入が入ってこないことになる。それだけは避けたいが。

 俺はルーレットを回す。


「1だ。水商売でホストか」


 ホストは客が付けばめちゃくちゃ稼げる職業だ。だが客が付かなければ儲からない。プレイヤー全員がルーレットを回し、1~3が出ればホストの餌食になる。折本先輩からルーレットを回す。


「6だ。セーフ」


 続いて姫宮。姫宮とは結婚しているから、彼女が客になっても意味がない。


「あ、2だ」


 客を確保できたが、相手は嫁だ。何の意味もない。

 最後に黒川がルーレットを回す。


「1……私が鈴木くんのお客」


 黒川が1を引き当ててくれたおかげで俺に太客がついた。これで収入の心配はしなくていい。俺はほっと胸を撫で下ろす。

 続いて黒川の番。ルーレットを回し、職業選択をする。


「1だから水商売ね……ふ、風俗嬢って」


 おい。このゲームダメだろ。黒川が風俗嬢になってしまった。駄目だ。マンガの設定でも黒川は男好きのする身体という設定だ。どうしても黒川がそういうことをしている場面を想像してしまう。

 黒川はわなわなと震えながら俺らにルーレットを回すように促した。


「これはゲームよ、ゲーム」


 呪詛のようにうわごとを繰り返しながら、黒川が俺たちを見る。俺は気まずさから思わず目を逸らすが、黒川はじっと俺を見つめていた。

 ホストの時と同じく黒川の客になるかどうかがかかったルーレットを回す。3。ですよね。

 ルーレットを回した結果、俺と折本先輩が黒川の客になる。女性なのに風俗の客になるとはこれいかに。

 収入源としては黒川が一番設ける構図になった。ゲームはまだ始まったばかりだ。ここからどんな展開になっていくのか誰にもわからない。



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