12.部活動見学①

 下山も思っていた以上に疲れた。山は登るときもそうだが、下る時も足に結構負担がくる。

 黒川とまた休憩しながら歩いたが、下りは時間はそれほどかからなかった。

 全員揃ったところでバスに乗り込み、学校へと帰った。

 その日は家に帰ると泥のように眠った。翌日の休日は昼頃まで惰眠を貪り、一日ゴロゴロして過ごした。

 週明けの月曜日の放課後、姫宮が俺に話し掛けてきた。


「真、文芸部入りに行こうよ」

「そうだな」


 姫宮に文芸部に入ると言った手前、断ることもできない俺は姫宮に付いて職員室へと向かう。文芸部の部室の場所を聞く為だ。マンガには一切文芸部は登場しなかったから、俺にも知識がない。


「文芸部はな、廃部になったぞ」


 教師の言葉に俺と姫宮は絶句する。入学式の時に貰った部活動案内には載っていたのに。

 教師の話では去年までは存続していたらしい。3年生の卒業で部員がいなくなり、消滅したそうだ。


「どうしよっか、真」

「文芸部に入る気でいたからな。部活する気満々だっただけにこのまま帰宅部ってのはなんか嫌だな」

「だよね。私もできれば部活やりたいし、せっかくだから色々見学に行ってみない?」

「そうするか」

「なら、この部活動案内をやろう。そこにはどんな部活があり、どこで活動しているかも書かれている」


 教師に部活動案内を貰った俺たちは、早速部活動見学に出発する。


「真はどんな部活がいいとかあるの?」

「俺は文科系ならとりあえずいいかなって感じ。姫宮は?」

「私も文科系がいいかな。せっかくだし一緒の部活入ろうよ」


 やはり姫宮はぐいぐい来るな。女子からの誘いを断れるほど、俺は女子に慣れていない。俺は頷くと、部活動案内を広げる。

 桜雪高校は部活動数が多い。全ての部活動を見て回るのは到底無理だろう。行きたいところをピックアップして回るしかないな。


「まずはどこに行く?」

「占い研究会とかおもしろそうじゃない」

「女子って占い好きだよな」

「そういう真だって、裏では占い結果とか気にするタイプでしょ」


 図星だ。前世では血液型診断とか、誕生日占いとかで好きな子と相性を占ったりして一喜一憂していた。

 俺は咳払いをして誤魔化すと「とりあえず行くか」と言って歩き出した。

 占い研究会は旧校舎の端の教室だった。少し歩いたが姫宮が楽しそうだったのでまあいいか。


「失礼しまーす!」


 元気よく姫宮が引き戸を開く。中には女子が数人机を囲んでいた。


「部活動見学に来ました」

「いらっしゃい。占ってあげるから、そこに座って」


 部長なのか、女子がひとり俺たちを席に案内する。俺と姫宮は並んで座ると、部長っぽい女子が正面に座った。ミステリアスな雰囲気を醸し出す女子生徒だ。瞳は深淵に吸い込まれそうなほど澄んでいるし、全てを見透かされているような感覚を味わう。


「私は占い研究会の代表の平等院京よ。よろしくね」


 平等院とはまた大層な名前だな。俺みたいなどこにでもありふれた名前とは雲泥の差だ。

 平等院先輩は布を敷き、その上に水晶を置くと手をかざした。


「名前を教えてもらっていいかしら」

「姫宮咲良です」

「ありがとう。姫宮さんね。あなたは今悩んでいることがありますね」

「わかるんですか?」

「ええ。その悩みがどんなものかはわからないけれど、あなたを助けてくれる人が現れるでしょう。その助けを拒まず受け入れるのが吉と出ています」


 本当に見えているのか。占いなんて所詮は気休めだと思っていたが、平等院先輩の落ち着いた声を聞いていると、信じてしまいそうになる。姫宮に悩みがあるのは初耳だが、姫宮の反応からして悩み自体があるのは間違いなさそうだし、占いも案外馬鹿にできないのかもしれない。

 姫宮の番が終了する。

 姫宮と場所をチェンジし、今度は俺が占ってもらう番になる。


「さて、あなたのお名前は?」

「鈴木真です」

「鈴木さんですか。ありがとうございます」


 平等院先輩が水晶に手をかざす。数舜後、平等院先輩の目が泳いだ。


「あなたはその、かなりえっちな人のようですね」

「ぶふっ……!」


 なにそれ。いや、確かにこの身体はかなりえっちだと思うけど。そんなことまでわかっちゃうの占いって。

 隣で姫宮が興味津々で俺の顔をまじまじと見ているし。


「こほん。すみません。女難の相が出てますね。というより、ありとあらゆる災いの相が出てます……前世は犯罪者か何かだったのでしょうか」

「そんなことはないです」


 前世は普通の高校生でしたよ。ちょっとゲームが得意ぐらいで他に取り得なんてなかったですとも。罰を受けるようなことは何もしていない。


「そうですね。時期としては今年の夏休み頃でしょうか。良くないことが起こりそうです。十分に注意してください」

「は、はい。ありがとうございます」


 占いを馬鹿にできないと思った。夏休みに何かが起こる。それはわかっていたことだ。なぜならマンガ「恋の怪物」で主人公鈴木真が命を落としたのが夏休みだからだ。

 やはり、俺はまだ死の運命から脱却できていないのか。額に冷や汗が浮かぶ。怖い。前世で俺は酷い死に方をした。とても痛かったし、怖かった。

 寿命を全うし、人生で死ぬのはたった1回だけでいい。もう寿命以外で死ぬのはごめんだ。


「真、大丈夫」


 姫宮が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。自分でも気づかないくらい、顔が強張っていた。

 そうだ。マンガの展開を回避できれば、俺は助かるかもしれない。まだ終わりだと決まったわけじゃない。


「大丈夫だ」


 俺は姫宮に笑顔でそう返す。

 その後、俺と姫宮は占いの本などを読んで、一緒に帰宅する。

 

「真、どうだった?」

「んー、結構驚かされたけど、入部はしないかな」

「だよね。私も自分で占うのとかはいいなって感じがした」


 占い研究会にいると、未来が確定してしまいそうで少し居心地が悪かった。

 俺自身の未来は俺自身で決める。


「あ、そうだ。姫宮」

「どしたの真」


 俺はポケットからスマホを取り出す。


「スマホ買ったから連絡先交換しよう」

「お、やったあ」


 姫宮がスマホを取り出し、QRコードを出す。俺はそのQRコードを読み込み、姫宮のアカウントを登録した。

 黒川と合わせてこれで2人目だ。前世では女子の連絡先なんて手に入れたことがなかったから、なんだか嬉しい。

 友達としてなら、付き合いたいと思う。


「またメッセージ送るね」

「ああ。待ってるよ」


 そう言って姫宮と分かれる。上機嫌で帰っていく姫宮の背中を見送りながら、俺も帰路についた。



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