第10話 D級ダンジョン四層

「実はあと一週間後、来週の土曜日に北区にある準S級ダンジョンを攻略する為の攻略隊の選抜があるのじゃ。それに霊能力者枠として出て頂きたい」

「え?」


 思いもよらないダンジョン関係の話に俺は呆ける。


「……準S級のダンジョンなんて入れるのはA級以上じゃないですか。俺は資格すら持ってないんですよ? どうやって選抜を受けろって言うんです?」

「ご安心下さい、E級探索者資格は明日の朝までにご用意致します」


 横から正道さんがそう言ってきた。それに俺は絶句する。


「えっ……それって」

「完全なるコネじゃな」

「やっぱりコネなんだ……じゃなくて、たった六日でA級になれって言うんですか!?」


 それは晶がやったのと同じことじゃないか!! 確かに探索者試験には飛び級試験があるが、それでも相応の実力がないと難しい。

 まぁ、レッドオークを楽々倒せる時点で合格できることはできるのだが……。


「そうじゃよ。竜真殿にはそれが可能なのではないかの?」

「……まぁ、やりようはありますけど」

「ならば決定じゃ。明日の午前十時にまた澄鳴家にご足労をお願いする」

「はぁ……分かりましたよ」


 中々強引な爺さんだ。


「でもなんで俺がダンジョンに行く必要があるんです? あっ……霊能力者枠ってことだから、霊能力者の面子を保つためですか?」

「それもあるが、第一に儂の息子を守ってほしいからじゃ」

「息子?」

「あぁ、その攻略に儂の息子も霊能力者枠代表として出ることになっておる。その息子を守ってほしいのじゃ」

「なるほど……そういう事なら」


 俺は溜息を吐いて立ち上がった。そして転移魔法を発動させる。


「ではまた」


 俺はそれだけ告げてその場を去った。




 目を開けるとそこは主の自宅前だった。

 

 そのまま玄関扉をすり抜けようとして気付く。そういえば今俺、人間なんだった。このまますり抜けようとしていたら、間違いなく頭をぶつけてたな。今度から気を付けよ。

 

 俺は自分の身体を念力で掴み、その状態で身体から魂を離脱する。するとあら不思議、明らかに身体全体に力が入って無さそうなのに直立不動している。

 この身体に他の魂が入り込むと厄介だから、即座に異空間収納に身体を突っ込む。これで良し。


 無事魂だけとなった俺は主の家の中に入り、主のスマホに入り込む。

 ふぅ、やっぱりここも落ち着く。


 昨日感知・視認系の全てのスキルを使ったところ、このスマホの中に居る固定視点の時でも周りの状況が分かるスキルがあることに気付いた。

 それは【俯瞰視】というスキルだ。

 今これを使ってみると、安らかな顔をして寝息を立てている主の顔が見えた。


 この寝顔を見ていると庇護欲が搔き立てられた。




 朝。主のルーティンを見て、念の為主とお母さまに対物理攻撃結界と対魔法結界を施し、俺は昨日にも行ったD級ダンジョンへ向かう。その途中で和也からの念話が来た。


『おはよう、魂さん。今念話できる?』

『おう、おはよう。できるぞ』

『おけ。昨日あの後買った胸当てを見てもらいたいから、昨日のダンジョン近くの公園で待ち合わせでいい?』

『わかったぞ。……もう着いてるのか?』

『うん。まぁゆっくりでもいいからね』

『わかった』


 俺は念話を切ると、少しスピードを速めて公園に向かう。するとすぐに着いた。

 和也は公園のベンチに座って、携帯をいじっている。だが時々辺りを見渡していた。


 俺はその和也の前に降りた。すると俺を認めたのか携帯をしまって話しかけてきた。


「魂さん、急がなくていいって言ったじゃん」

『いや、丁度近くまで来ていたんだ。急いではいないよ』

「そっか、なるほど」

『で、見てほしい胸当てとはどれだい?』

「あっ、ちょっと待って……」


 和也はそう言って横に置いていた大き目の手提げバックから、身体に固定する用のベルト付の胸当てを取り出した。

 材質は鉄……かな。


『いいチョイスなんじゃないか。下手に皮系の胸当てを買うより、この鉄製の胸当ての方がいい』

「やっぱりそうだよね。……魂さんのお墨付きも貰えたし、早速ダンジョン行きますか!」


 和也そう張り切って胸当てを手提げバックの中に入れつつ立ち上がる。

 そしてそのまま俺達はD級ダンジョンに向かった。




 和也は広場に着くといつも通り広場の入り口を守っている、警察官に探索者カードを見せ通してもらう。


 夜中の間に調べたが、ダンジョン広場の入り口を警備している自衛官又は警察官は、探索者資格を持っているらしい。

 警察官だとD級以上の探索者資格を持っている人が、E~C級ダンジョン広場の警備に配属され、自衛官だとC級以上のダンジョンの警備にあてられるのだとか。


 因みになる話だが、今から約30年前程から警察官になるにはD級探索者資格を取るのが必要条件となったらしい。自衛官は訓練メニューに『ダンジョン内訓練』なるものが追加され、自衛官のほとんどがC級以上の探索者資格を持っているという。


 一般人に人の力を超えた探索者が増え、暴力による犯罪が増えたからこその対応だと伺える。


 そんな話を念話で和也としながら仮設更衣室で着替え、ダンジョンの中に入った。


『今日は何層まで潜る?』

『時間はかなりあるから、思い切って五層まで行ってみるか?』

『そうだね、行ってみるか~!』

『……あっ、そういえばこのダンジョンは十二層まであるらしいぞ? 最終層のボスを倒すのは三日後らしい』


 これも夜中の内に仕入れた情報だ。


『お、そうなのか! じゃあ今日含めて後三日は潜れるね』

『そうだな』


 和也はやる気満々の様だ。昨日の午後よりも増して、活気がある。

 そして昨日同じ様に走り出した。


 ここまま走って行くと……あの魔物と接敵しそうだな。


『和也、30m先にゴブリン一体』

『あいよ! 任せろ!!』


 和也はそのままゴブリンが居る方向に駆け、腰からナイフを抜く。

 ゴブリンまでの距離約5mを一瞬にして詰め、目を見開くゴブリンの首を刎ねた。


『おー。この分ならゴブリン十匹来ても遅れは取ら無さそうだな』

『だろぉ?』

『あ、なんかウザい』

『酷っ』


 そんな軽口を言い合いながら、ゴブリンが黒煙になっていくのを見守る。そして俺が念力でドロップした魔石を拾いあげる。


「おおー! 魔石だー!!」


 和也は浮いている魔石に歓声を上げて、手に取る。そしてポケットに入れた。


『幸先が良いな』

『そうだね! どんどん行こう!』


 和也は張り切ってまた走り出した。




 その調子で二層、三層と降りたところで和也の体力が切れた。

 和也は肩で呼吸しながら洞窟の壁にもたれ掛かり、地面に座り込んだ。


「ふぅ~。た、魂さんとか俺と同じ速さで付いてきてるよね!? なんで疲れとかなさそうなの!?」


 確かに俺は今までこの世界に転生してから疲れを感じたことは殆どない。和也が疑問を持つのも分かる。


『そう言われても、俺は魂だからな……肉体がある和也と違って疲れとかないんだろう』

「なんか、ずるくね?」

『そんなこと言われてもなぁ……あっ』

「ん?」


 せや、俺も肉体になれば疲れとか感じれるかも? 

 という事で俺は異空間収納を開く。そこから今日の深夜しまった、俺の前世を模した身体を取り出し、その場にすとんと置いた。


「うわっ!? 何この人!! 異空間収納から出てきたように見えたけど!? もしかしなくても攫ってきてるよね!? これ!!」


 和也が耳障りなほどに騒ぐ。


『安心してくれ、これは俺の前世の肉体だ。攫ってきたわけではない』

「なんだ……そうだったのか~って、は? ……魂さんの前世ってこんなに美形だったのか……」

『なんだ? 褒めても魔石しか出ないぞ』

「出るんじゃねぇか」


 軽口の応酬をしたところで俺は、この身体に入り込む。

 目を開けると、未だ驚いた表情の和也が目の前にいた。


「よう」

「よ、よう」

「今から俺は、この身体で一緒にお前についていくぞ」

「え、マジ?」

「大マジ」


 和也は溜息を吐いて、「分かった」と言った。そんな和也の肩に手を乗せ、俺は《中位回復魔法》を掛ける。


「さんきゅー」

「じゃ、行くか」

「おうよ」


 走り出した和也の速さに合わせるようにして走る。


 四層の階段まで走っていて分かったことだが、和也は気配をある程度察知できるようになっていた。

 そのことを本人に伝えると、何やら腕を組んで考えステータスを開いた。するとそこには【気配察知/Lv.1】というスキルの表示があった。


 それを見た和也は跳んで喜んだ。それはもうはしゃいでいた。

 なぜそんなに喜んでいるのか、それは恐らくネットの記事にあった“気配察知のスキルを手に入れたら中級者の仲間入り”というものが関係しているのだろう。


「よかったな」

「ああ!! ありがとう!!」


 そう言って和也は俺の肩を揺すってきた。興奮冷めやらぬって感じだな。冷ます為にビンタ一発入れてやろうかな。


「じゃあ次行こっか!」


 そう言って和也は走って行ってしまった。やれやれと俺はその後を追いかける。

 そんな調子で四層へ下る階段を見つけ、俺達はその階段を下りた。




「うお~~! すげぇ! めっちゃいい景色だ」


 そう声を弾ませはしゃぐのは和也だ。俺はその横で記憶フォルダの中にこの景色を焼き付けようと、見渡している。


 四層はフィールド型の竹林山道だった。そこら中に竹が生えている。


 これだけ竹が生えていればたけのこだって生えてそうではあるが、ぐるりと辺りを見渡しても見つかる気配はない。

 だが、あらゆる感知・視認系スキルを使ってこの層を見渡すとチラホラたけのこが存在するのが確認できた。だがその全てが山道から結構離れている。これは山道近くのたけのこは取られつくされたと考えた方がいいな。


「さて、和也」

「ん?」

「たけのこ狩りをするぞ」

「え? あ、目がマジじゃん怖っ」


 こうして俺達はたけのこ狩りをした。

 結果――


「づがれだ……」


 俺達はたけのこ狩りの途中、五層への階段を見つけ、そこで休憩をしていた。

 結局収穫はたけのこ15個だけ。まぁそれでも十分な成果と言えよう。


「足がパンパンだよ……」


 和也は慣れない急斜面だったり、がたがたした山道だったりで体力精神を削られていた。まぁそうなるのも無理ないと思うので回復魔法を掛けてあげる。


「あ……助かる……」


 そう呟いて、和也は足を揉み解しながら俺の回復魔法を受けていた。

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