第9話 深夜の澄鳴家
俺は去っていく男達を見ながら思った。
フレアランスか……この程度の魔法で魔力切れ起こす奴が、あの程度の一撃でのびる奴が、晶を勧誘するだなんて何を考えているんだ? それにフレアランスは上級魔法。せめて準超級魔法は使えないと勧誘なんて烏滸がましい。
「行こう、スマホ君」
「ああ」
俺達はまた人気のないところを目指して歩き出した。
その後、俺達は人気のない公園のベンチで焼きそばに舌鼓を打った。
「ふぅ~……美味かったな」
「そうだね、俺も焼きそばを食べるのは初めてだったから驚いたよ」
晶はそう言いながら、紙コップに魔法で水を入れて俺に渡してくれた。
お礼を言ってそれを受け取ると、一気飲みする。
焼きそばのソースに侵されて水分を欲しがっていた口が喜んでいる。珍しく気が利く晶だ。
すると突然魂に念話の経路が繋がった感覚がした。
『夜分遅くにすみません。正道です。今から澄鳴家にご足労をお願いできますでしょうか?』
『本当に夜分遅くだな。……分かった、いつまでに向かえばいい?』
『三十分以内に来て頂ければありがたいです』
『わかった』
『よろしくお願いします』
急用なのかな? なんか急いでいる感じあったし、早めに行った方がよさそうだな。
俺はスッと立ち上がり口を開く。
「晶、すまんが少し用事が出来た。先に帰ってるぞ」
「ん? あー分かった。じゃまたね」
晶がそう言って少しもの悲しそうな顔で手を軽く振ってきた。
「またな」
俺はそう言って転移魔法で澄鳴家に飛んだ。
《side:天塚晶》
「あー行っちゃった……」
別に未練がある訳じゃない。だが後悔はしている。もっと言葉巧みに仲間に誘えばよかったなどと嘆いてももう後の祭り。寂しいが、彼と親しく話すのはこれっきりになるのだから。
俺はベンチの背もたれに背中を預けてぐっと背伸びをする。そして「よっと」飛び上がるように立ち上がった。
そしてベンチに置いていた焼きそばパック入りのビニール袋を拾い、俺は仲間の元へ転移した。
「ただいまー」
『お! おかえりー。どうだった? そいつは仲間になってくれそう?』
返事を返してくれたのは、テディベアに転生した魂のペティ。ペティというのはこのぬいぐるみの持ち主に付けられた名前なのだそう。意外と気に入っているそうだ。
「いんや、無理そうだよ」
『うわ~マジかぁ……新しい仲間、楽しみにしてたのになぁー』
そう間延びした声を上げたのはトロフィーに転生した魂のフィル。この名前は俺が名付けた。
フィルが言った通り、スマホ君が仲間になってくれていたならば、きっと心強い戦力になってくれていただろう。
『だよねー』
『だけどそのスマホ君は記憶が完全に戻っていないって話だろ? 記憶が戻れば俺達に味方してくれるんじゃないか?』
そう理想を言うのが、消しゴムに転生した魂のレアル。
確かにレアルの言った通り、スマホ君の記憶が戻れば俺達に協力してくれる可能性はある。しかし彼は、俺達と同じ種族だった可能性が低いのだ。なので事情を汲めないかもしれない。
『まぁ~どちらにせよ、味方に付くなら歓迎。敵に回るなら潰すしかないでしょ』
『……そうだな。それより、焼きそば買ってきたから食べよう。魂の皆でも食べれる焼きそばだよ』
『マジ?』
『本当?』
『えー!?』
驚く三体を他所に俺はテーブルに焼きそばを並べる。
そしてふよふよしながら席に着いた魂たちが、興奮しながら焼きそばを食べ進め始めた。
《side:スマホ君》
目を開けるとそこは座標指定した通り、澄鳴家の屋敷前だった。
そしてなぜか囲まれている。
「何者だ!」
「どこから現れた!!」
そう怒鳴ってくるのは話し合いの時に居なかった二十代後半から三十代くらいの人間四人。
この人たちは正道さんから俺が来るって聞いていないのかな? ここは少し下手に出て話してみよう。
「あのう……俺、正道さんから話があるって聞いてきたんですけども――」
「黙れ!! 正道殿がお前みたいなどこの馬の骨とも知らない奴に、話なんてあるものか! 失せろ!!」
わお、話全く効かないタイプの人間だ。ちょっとイラっと来たので昏倒させてやろうかな。
そう思った瞬間、屋敷の中からこっちに向かってくる気配が三人確認できた。二人は見知った気配だな。これは昏倒させるまでもないか。
俺は玄関に目を向ける。するとガラガラと音を立てて玄関が開いた。
「これは一体何の騒ぎだ」
「あっ、魂さん」
出てきたのは正道さんと未羽さんだった。その後ろにいる人間は見た事ないが、いかにも『ヤ』の付く道の人みたいな風貌をしている。簡単な言葉で言うと厳つい爺さんだ。
正道さんが場を鎮めるドスの効いた声を発し、そして俺を見るなり未羽さんがそう声を上げた。
未羽さんは俺が人間の姿でも、宿っている魂が見えたから俺だと分かったのかもしれない。
「ほぉ……あの御仁が例の――ほれ、その御仁から離れんか」
二人の後ろで俺を探るように見ている爺さんがそう呟き、俺の周りに居る護衛? に向かってそう言った。
すると俺を取り囲んでいた人間たちが急に大人しくなって、俺に「ご無礼を致しました、どうかお許しください」と頭を下げてきた。
「いや、分かってくれたならいいよ。でも、人の話はちゃんと聞いた方がいいと思う」
「はい、申し訳ございませんでした」
俺は謝る男たちを一瞥して、正道さんの所まで歩く。
「魂さん、雰囲気変わった?」
近付くと未羽さんから声を掛けられる。
「あー、前は下に見られない様に少し横柄な態度取ってたからね。その節はどうも失礼しました」
俺はそう言って軽く頭を下げる。
「いえいえ、失礼だなんてとんでもない」
正道さんは両手を振ってそう言う。
「……ですが今の貴方様の方が、話しやすくはありますね」
そしてそう言って苦笑した。
「そうだね」
そう言って基本的に無表情だった未羽さんも少し頬を緩ませた。
「ささ、立ち話もあれですしどうぞ中へ」
そう促されて入るのは、これで二日連続となる澄鳴家の屋内。靴を脱いで、上がらせてもらう。
そして廊下を歩いていると、正道さんが話しかけてきた。
立ち話がどうとか言ってたのに話しかけてきたぞ? そんなに気になる事でもあったのかな?
「というか貴方様、受肉なされたのですね。失礼ですがどこでその体を?」
正道さんが視線で俺の身体を指してくる。
まぁ確かに、昨日魂だった奴が人間になって現れたら驚くだろうな。もしかしたら人間の身体を奪って使っていると思われたのかもしれない。
「この身体は前世の姿を模して作った肉体ですよ。特に人間の身体を奪ったわけではありません」
そう言うとホッとした様子で「なるほど」と頷き固まった。
急に固まった正道さんを見て俺は未羽さんに目を向ける。だが、同じように未羽さんも爺さんも目を見開いて固まっていた。
「なんと……」
という爺さんの言葉で我に返ったであろう、正道さんが「それは本当ですか!?」と迫ってくる。
なんだろう、俺そんなに変なこと言ったかな。正道さんも以前“受肉”って言っていたし、この霊能力者の人達にとっては不思議でも何でもないんじゃないのか?
「はい、本当ですが?」
再度目を見開く正道さん。そして顔を背けると深呼吸を繰り返し、俺に向き直った。
「魂殿、今後絶対に無暗に人体生成する術を使わないで下さいね。お願いですよ」
正道さんは鬼気迫る表情でそういう。
「何故です?」
「それは――」
「いい、わしが話そう。……魂殿、その魂の器と成り得る肉体を生み出す技術は我々人類には無いのですよ。それ故、それを知った依り代が欲しい者達が貴方様を狙うかもしれませぬ。ですから何卒、無暗にその術をお使いになられない様にお願いします」
ああ、なるほどそうだったのか。あれ? じゃあ正道さんが言っていた、受肉とは一体……? まさか誰か人間を生贄みたいな感じで俺に捧げるつもりだったとか……。いや、まぁ流石にね、ないか。
「なるほど、分かりました」
「分かって頂けたようで何よりです」
横で話を聞いていた正道さんが安心した表情でそう言った。
「こちらの部屋です」
そう言って正道さんが襖を開ける。歩いた距離と部屋の入り口からして見覚えがあったが、やはりそうだ。昨日お茶菓子を食べた部屋だった。
同じ場所の座布団に座るように促され、そこに座る。今回は魂姿じゃないので普通に座れた。
「ところで……このお爺さんはどちら様です?」
俺はその謎のお爺さんに顔を向けながらそう言う。
先程の物言いからして、正道さんより立場が強そうだけど……もしかして、正道さんが言う上の人だったりするのかな?
「ん? 儂としたことが自己紹介を忘れておったわ。儂の名は
この人が水無月家の……。案外真面な人っぽいけど、実際の所どうなのかな? 取り敢えず俺も自己紹介した方がいい流れだな。名前は……適当でいいか。
「そうでしたか。俺の名前は
うん、即席の名前だけど割としっくりくる。特に竜って響きが気に入った。
「竜真殿、そのお名前は前世の……?」
「いや? 今考えた名前だ。ただ今後この名前を使うのでよろしく頼むよ」
「は、はぁ」
正道さんは若干困惑気味に頷いた。
そして俺は本題に入るべく話を切り出す。
「で、俺を呼び出した理由は何です?」
俺は席に座る人達を見回した後、そう言った。
「ここは儂が話そう。竜真殿にお越し頂いた理由は二つある。一つ目は竜真殿の力量を儂が見極める為じゃ」
「俺の力量を? ……それは見極められたので?」
俺の問いに真之介さんは少し頭を振って口を開いた。
「いや、竜真殿の力は王霊級くらいまでしか分からなんだ。故に竜真殿は推定王霊級じゃな」
「そうですか」
「二つ目は……ここから話す内容は内密にしてほしいんじゃが、よろしいか?」
内密にするほどの話か。少し姿勢を正しておく必要がありそうだな。
「分かった」
俺が同意すると、真之介さんは一拍を置いて話し始めた。
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