第52話 巫女の紋章

【前話までのあらすじ】


リフリ村のレベドルが持つ『牢獄の魔道具』を破壊したアシリア。パーティはリフリ村を出るとスレイの超感覚をもってエレンフェのいる中央集落ラテドニオへ向かうのだった。一方、侵入者に気が付いたエレンフェは使いとしてミーアを派遣した。


【本編】


 大きな閃光と衝撃が空を割り大地に突き刺さった。


 砂煙が立ち上ると、辺り一面、茶色一色の景色となる。


 「おいおい、まさか、もう終わりか? つまらねぇなぁ」


 雷鳴の影響が残る耳に若い男の声が聞こえた。


 超感覚を使うオレブラン(獣人)のスレイがなぜこの男の気配に気が付かなかったのだろうか? 答えは簡単だ。この男が大空で待ち構えていたからである。


 土煙が落ち着くと生意気そうな男は嬉しそうに口角をあげて言った。


 「へぇ。やっぱりそうじゃなくちゃなぁ」


 空を裂く一閃、あの瞬間にギガウは地中から岩を引き出すと、稲妻から5人を守ったのだ。


 「おい、お前、すげぇ精霊もってやがるな。この中でお前が一番強いんだろ?」


 「 ....」


 ギガウは黙って男を睨みつけた。


 「なによ、あんた! ふざけないでよ! 降りて来なさいよ! このぉ!!」


 「なんだ。やかましい奴がいやがるなぁ」


 「いつまでも上から見てんじゃないわよ。このにわとり頭! すかし顔!」


 「 ..おいっ、うっせーぞ。カラス女!」


 「なんですって! このトンガリ耳! ..え? トンガリ耳?」


 「ああっ? この耳が何だって!? 調子に乗るんじゃねぇ!」


 男が中指をはじくと雲の裂け目から光の槍がライスを目がけて飛んできた。


 — リィィン


 ガラスを弾く音とともにリジの聖剣「空の羽」が光の槍を粉々に切り裂く。


 「ほぉ、強いのはあの大男だけかと思ったら.. こいつは楽しめそうだな」


 男はようやく地上に降りて来た。その男の風貌を見てライスはアシリアに尋ねた。


 「アシリア、あいつは.. エルフなの?」


 「いや、あいつはハーフエルフだ」


 アシリアは男の服装を見てエレンフェの配下のものだと見抜いた。純白のローブに施される淡い紫の刺繍は生命への敬意を示すもの。これは森の巫女にだけ伝えられる紋章なのだ。


 「そこの女はエルフか.. お前ら何者だ?」


 「お前には関係ない。邪魔をするなら殺すぞ」


 アシリアの目が冷酷な殺し屋のそれになった。


 「 ..なるほど。地の精霊使い、稲妻を斬るメイド、冷酷な目を持つエルフ、オレブラン(獣人)に..」


 男はライスを見ると少し困惑した。


 「 ..それと 口の悪いうるさい女か」


 「なんですって!」


 ライスは鼻息荒くキーっと怒っている。


 「どちらにせよ、お前らはこの国の害悪になりそうだ。俺が炭に変えてやる」


 男が再び大空に飛び立つと詠唱を始めた。


 「あいつ、魔法を使っているみたいよ!?」


 男の頭上に大きな雲が形成され始めた。


 「だ、大丈夫だ。今度も俺が防いでやる」


 ギガウは稲妻を防ぐほどの速さで巨大な岩を地中からひきだしたのだ。そんな離れ業を何度も行えば身体に無理が生じるのは明白だった。


 「だめだ、ギガウ。無理をするな」


 止めようと掴んだアシリアの手を静かにほどくと、ギガウは両手を地面につけた。


 ― ズガンッ


 ギガウの眼前で地面に叩きつけられたのは、空にいたハーフエルフだった。



 「お前らは悠長だな。あんな隙だらけの奴はさっさと片付けろ」




 そこには式紙から勝手に召喚したルシャラがいた。


 ― ピーッ グワッ グワッ


 大空にはルシャラが使役するミミズクが羽ばたいている。


 白目をむくハーフエルフにアシリアがルースの矢を放とうとしていた。


 「待て、アシリア。そいつにはいろいろ聞くべきことがある」


 ギガウが地面に手を付けると地中からツタが伸び、男を拘束した。


 「先生、何で召喚できたんですか?」


 「私はお前が望んだ時にしか召喚できないわけではないぞ」


 「そうじゃないです。ここには精霊がいないから式紙を使うための魔力がないはずです」


 「私が最初に言ったこと忘れたのか? 私はリベイルが溜めた魔力で動いている。だからこそ私はリベイルの母ルシャラなのだ」


 「ああ、そうでした」


 「ライス、その男が魔法を使ったのも同じ原理だ。そいつの指輪だ。ハーフエルフの技術だろう。そいつらは器用だからな。その指輪に魔力を溜めることができる処置をしてあるのだろう」


 ライスが男の指輪に手を駆けようとした時、


 「待ってください」


 若い女の声がした。


 誰もが気が付かなかった。あのスレイさえも声がするまで気が付かなかった。


 「私の名はミーアです。エレンフェ様の命令であなた方をお迎えに参りました。どうぞ、どうぞ、大人しくついてきていただけませんか、アシリア様?」


 ハーフエルフのミーア。彼女の服にも森の巫女の紋章が施されていた。


 アシリアは素直に頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る