第53話 薄日ゆらめく再会
【前話までのあらすじ】
大空から稲妻を操るハーフエルフがあらわれた。そして、もう一人、エレンフェからの使いであるハーフエルフのミーアは言った。
『あなた方をお迎えに参りました』
ライスたちは敵意を示すことのないミーアの言葉に従った。
【本編】
「みなさん、バルクが大変失礼いたしました。おそらくはみなさんをただの侵入者と思ったのでしょう。それにしてもみなさん、お強いのですね。バルクが気を失うところなど初めて見ました」
馬車が森を抜けるとそこに城門が姿を現した。
「やっぱりだ。ミーアさん、僕はだいたい城の位置を把握していた。でも城は近いのに全然たどり着けないんだ。これは魔法なの?」
「いいえ、魔法ではありません。この国はところどころ空間の歪みがあるんです。みなさんはその歪みの道にはまってしまったのです。例えばあの木を見てください」
「ん~、ただの木にしか見えないけど..」
「では、隣の木とよく見比べてみてください」
「あっ、同じ形だ」
「そうです。歪みを避けるには同じものが隣にあるかを確かめる必要があります。それは木であったり岩であったり様々です。歪みにはまったら、後退するか第三者に引き出してもらう必要があります。これは視力が弱いスレイさんにはもっとも難解な道かもしれませんね」
「なるほど..」
方向感覚には絶対の自信を持つスレイは今の情報をインプットした。
「ところでミーアといったな。お前も魔法を使うのか?」
「魔法とは少し違います。私たちは魔術師です。どちらかというとギガウさんに近いかもしれませんね」
「そうか。そんな魔術師のお前たちはいったい何なのだ」
「そうですねぇ.. このリキルス国を守る者です。詳しくはエレンフェ様にお聞きください」
「最後にひとつ、お前は私たちの敵か?」
「どうでしょうね。それはエレンフェ様の判断ですね。ただ、今のところ私はあなた達の友でいたいと思っています」
「 ....」
城門の中は果てしなく広い草原だ。そしてそのはるか向こうに塔が建っている。
この城内の空間もでたらめなのだ。城壁の広さに対してあまりにも広い草原だ。例えるなら手の平におさまるマッチ箱の中に長箸が入っているような状態だった。
「さぁ、あの真ん中の塔にエレンフェ様がお待ちしております。どうぞ、先にお進みください」
『ミーア、待て。そいつらをここに入れるわけにはいかない』
後ろから声がした。振り返るとそこにはギガウにも負けない体躯を持つ髪を束ねた男が立っていた。
「オルサか」
「ミーア、なぜそいつらをここに連れて来たのだ」
「 ..エレンフェ様のご命令です」
「ふん、エレンフェか。お前は命令を受けたのだろうが、俺はそんな命令など聞いてはいない。この先、お前らがここを通ることを認めない。通れるものなら通ってみるのだな」
「そうか」
ギガウはそう返事をすると、何事もないように門をくぐりぬけた。その後にライスたちは続いた。
「 ..なっ! ミーア。何なのだ、あいつは!?」
「エレンフェ様の妹・アシリア様です」
「違う。あの先頭を歩く褐色の男だ」
「あの方の名はギガウ様です。おそらくはチャカス族でしょう」
「いや、あいつは普通のチャカス族ではない。一瞬で俺の縄張りを消すチャカス族などいるものか」
・・・・・・
・・
遠くからは数十メートルもある高い塔が、近づくに連れ低くなっていく。そして今、目の前にあるのは、ほんの数メートルの塔が付随する2階建ての家屋であった。
開け放ったままの外玄関の中には2階への階段と奥の部屋への扉があった。内装は派手な装飾など一切ない造りだ。そこからこの国の質素な生活感が漂ってきた。
アシリアは両手で部屋に続く重い扉を押した。
暖炉がある懐かしさと安心感のある部屋。木枠の大きな窓から射す薄日のゆらめきに、ひとつ結びの長い髪、やさしい薄緑のローブを着た女性が椅子に座りたたずんでいた。透明感のある白い肌は、まるで彼女が淡い光で包まれているように錯覚するようでもあった。
「ひさしぶりね、アシリア。あなたにまた会うことが出来てうれしいわ」
「エレンフェ姉さん。私も会いたかったわ」
そういうとアシリアはルースの弓矢を発現し、彼女に向けた。
「アシリア.. 覚悟はできています。私は森の巫女としてあまりにも罪深いことをしました。そして、アシリア、あなたがどれほど苦しんだか。それを思うと私は..」
「そうだ。姉さんのせいで私は『森の恥さらし』とまで言われた。でも、そんなことはどうでもいい。なぜなんだ? 姉さんは誰よりも精霊に愛を注いでいた。それがなぜ?」
「それを話したところで私の罪は変わりません。しかしアシリア、やはりあなたには知ってほしい。私がなぜ『牢獄の魔道具』に関わることになったかを」
エレンフェはライスたちをソファに促した。
「この話をする前に、まずはお礼を言わせてください。みなさん、アシリアと旅をしてくれてありがとうございます。私たちエルフ族は人間との接し方がわからないのです。とくにアシリアはそうでした。きっとあなたたちはとても優しい方々なのでしょうね。私はアシリアの双子の姉エレンフェです」
エレンフェの言葉にアシリアは顔を赤くしていた。
ライスたちはひとりずつあいさつをした。そして最後に自己紹介したスレイに対してエレンフェは興味を示した。
「スレイさん、そのフードを取っていただけますか?」
スレイは少し戸惑ったが、フードを脱ぎ、隠していた耳をだした。
「やはり、あなたはオレブラン(獣人)ですね。スレイさん、あなたはこのリキルスの国の森を見て何か思い当たることはありませんでしたか?」
「 うん.. 僕は最初、ここが『最果ての森』なのかと思った」
「そう思ってもおかしくありませんね。このリキルスの国は、まさに『最果ての森』の先にある国だからです」
「え!? ここってクジラの腹の中にある魔法の国じゃないの?」
「ふふふ、ライスさん、ここはあなた方のいた地上と同じ地にある国ですよ」
「それは変だよ。だって『最果ての森』の先に国があるはずがない。どこまでいっても森ばかりだよ。だからこそ、あの場所は『最果ての森』と呼ばれているんだ」
スレイが身振りをくわえながら力説した。
「白鯨の口を入り口とし、『最果ての森』の先にある『忘却の森』にできた国。まずはそこからお話しいたしましょう」
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