第50話 結界の中と外
【前話までのあらすじ】
リフリ村に連行されたリジとライスは長であるレベドルからリキルス国やアアルク王についての情報を得ることが出来た。しかし『エレンフェ』の名が出た時のライスとリジの反応を見たレベドルは2人への警戒心を強めるのだった。
◇◇◇
【本編】
―リキルス国リフリ村―
「どういうことだ! なぜエレンフェがここにいる」
額にルースの矢を突き付けるアシリアの姿にレベドルは驚愕していた。
その隙にスレイがライスとリジの縄を嚙みちぎった。
「動くな。 少しでもお前がその髪に付けた魔道具を使おうとすれば、私のルースの矢がお前の脳を破壊する」
スレイがレベドルから髪飾りを取り上げた。
「そうか.. お前はエレンフェの妹か。名は確かアシリア」
「 ..そうだ。今から私の質問に答えてもらう」
「ああ、わかった。その前にサムルの腕の手当てを許してくれないか?」
リジは鞄から外傷用の薬草を取り出すと、サムルの腕に塗り包帯で巻いた。
「ありがとう。 さて、アシリア、質問は何だね」
「まずは、お前たちは何だ?」
そのアシリアの質問にザワリとした感触を覚えたのはリジとライスだった。
「 ..ふぅ。やはりエルフの感覚は凄いもんだな。ほぼ人間の私たちにそれを感じとるのだな。君の想像通りだよ。私たちにはエルフの血が流れている。君と同族だ」
「一緒にするな!」
「君たちエルフはいつになっても変わらないんだな」
「 ..なにがだ?」
「いや、いい。忘れてくれ」
「次の質問だ。なぜ、この国には精霊がいないのだ」
そのアシリアの言葉にリジとライスは驚いた。
「死んでしまったのだ。私たちと共にこの国に来た上位精霊はみんな死んでしまったのだよ」
「 それで式紙が使えなかったのね」
あの時、ライスは式紙に息を吹きかけた。しかし白虎は召喚できなかった。あわてたライスは即座に頭巾の男たちに取り押さえられたのだ。『お腹が減っていた』せいではなかった。
「ライス、それだけではない。精霊がいないということはお前の魔法が使えないということだ」
「え、ええー!」
[—ハリュフレシオ—]
魔法には魔力を属性魔力へと変換する過程がある。契約精霊が火属性ならば火属性の魔力を得ることが出来るのだ。その魔力があってこそ炎の魔法を使えるのだ。
当然、ライスの詠唱に煙すら起こすことも出来なかった。
アシリアの質問は続いた。
「この国に『牢獄の魔道具』はいくつある?」
「それはわからない。だが、この魔道具は十個以上、いや数十個はあったと噂されていた。それが今も存在するのかはわからないが。少なくとも4賢者の手元にあることは確かだ。あとは君の姉に聞くがいい」
「そうするわ。最後にそんな内情も良く知らないお前がなぜ魔道具の所有者になっている?」
「私は聖女さまからいただいたのだ。この道具さえあれば、私の願いを叶える力になると」
「聖女だと?」
「ああ、そうだ。この『忘却の森』から解放される道を我らの母ルミラウェが示してくれたのだ」
「忘却の森から解放って何なの? そもそもここって本当に地上なの?」
アシリアに変わってリジが質問するとレベドルは言った。
「君たち人間はこの国から早く出て行った方がいい。『忘却の森』について少し教えてやろう。この小さな国には強い結界が張られている。誰の侵入も許さないためだ。しかしこの結界が時間に大きなズレを起こしてしまっているのだ」
「ズレってどういうことなの?」
「もしもこの国での1分が10年分だったら、君はどうするね?」
「1分が10年ですって!?」
「そうだ。こうして話しているうちに20年、30年と時が過ぎていく。そして君たちがこの国から出る頃には計り知れない年数がたっていたとしたら?」
ライスとリジは汗がじわりと湧き出るような気持になった。
「安心したまえ。今のは極端な例えだ。だが、実際この国の時の刻みは1/20以下だと言われている」
「じゃあ、私がもしこの国で1年過ごしたとしたら..!? 」
「ああ、外の世界では20年の時が過ぎているだろう。そして本当に恐ろしいのは、君が外に出た時だ。君の肉体は凄まじい早さで20年分老いるのだよ」
「 !!」
「1年くらいならまだいいほうだ。もしも君が5年過ごしたとしたらどうだ? 外の世界では100年だ。君は100歳以上生きている自身はあるかい?」
「あ、あなたたちはここで何年暮らしているの?」
「おおよそ100年といったところだ」
「ここで100年ってことは.. 2000年は過ぎてるよ!?」
「そうだ。私たちはエルフの血が流れている。普通の人間よりは長寿だ。しかし、純粋なエルフやハーフエルフならともかく、エルフの血より人間の血に近い者たちは1000年など生きることはできないのだ。だから私たちにはこの国から出て行く選択肢はなかった。今までは」
「今まではって?」
「 ..嘘だという話を聞いたのだ。この国と他国に時間のズレがあったとしても、私たちが年老いることなどない。それは私たちをこの地に縛り付けるための脅しだったという話だ」
「それで、あなた達は国からでたいと思っているのね」
「ああ、そうだ。だから、アシリア、その髪飾りを返してくれ、4賢者に対抗するには魔道具が必要なのだ。私たちは外の世界を知りたいのだ」
「 ..くだらない.. そんな理由で精霊が閉じ込められた魔道具を使おうというのか。誰よりも自分自身が閉じ込められる苦しみを知っているくせに..」
アシリアはレベドルを蔑む目で一瞥すると、ルースの矢を魔道具へ向けた。
「 や、やめるんだ、アシリア。ここの縄張りが解かれれば、すぐにでも4賢者がやってくるぞ。私たちも君らも彼らには勝てない」
「そうか、そいつは好都合だ」
アシリアはルースの矢で宝石を射ち砕いた。
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