第49話 リフリ村のレベドル


【 前話までのあらすじ 】


リキルス国への入国に成功したライスたち。しかしパーティはバラバラになってしまった。『世界を繋ぐ者』と自称する男たちに捕らわれてしまったギガウ、リジ、ライスであった。しかし、その様子をしっかり補足するアシリアとスレイ。スレイは国に入ってからずっと違和感を覚えていた。なぜならば、この国の森はスレイの故郷『最果ての森』に似ていたからだ。

◇◇◇


【本編】


 「 ..ん?」


 「いかがなさいました? レベドル様」


 「いや、今、私の結界に誰か触れたような気がしたのだが気のせいだろう」


 レベドルの住まいは他の村人と変わりない質素な家屋だった。


 ライスとリジは手を縛られながらもソファの上に座らされ、扉のない隣の部屋のベッドにギガウは寝かされていた。


 「荒々しい真似をしてすまなかった。外の者が来るのは珍しいのでな。特に我々は人には警戒しているのだ」


 「謝罪をするなら、この拘束を解いてほしいのだけれど?」


 「いや、それは出来ない。剣を持つ君はなかなかの手練れだろ。君の手を見ればわかるよ」


 「ふん、未熟者の証よ」


 リジの言葉は師であるキースの受け売りだった。


 「ははは。 君は剣士、そこの彼女はわからないが、ベッドの男はもしかして精霊使いか?」


 「あなたの言葉を聞いたらギガウはきっと否定するわ。彼は『精霊は使役する者ではない』と考えているから」


 「 ..なるほど。 そうだな。精霊は自由であるべきだ」


 「私はリジ、隣にいるのはライス、ベッドの男はギガウって名前よ。あなたは何て名前なの?」


 「ああ、これは失礼した。私はこのリフリ村の長をしているレベドル。そこの入り口に立っている男は側近のサムルだ」


 「レベドルさん、率直に聞くけどここは水の国リキルスなの?」


 ライスが単刀直入に尋ねた。


 「ああ、そのとおりだ。ここはリキルスだ。ただし君たちが思う水の国ではないがね」


 「水の国ではない? 私たちはあの白鯨に海の中にある国に連れてこられたんでしょ?」


 「君たち、窓の向こうに何が見える?」


 「 空.. 畑?」


 「その通りだ。空に太陽に畑だ。海の中にそんなものが存在すると思うかい? 君たちがどの国から来たかは知らないが、この国は君たちと同じ地上にある国だ」


 「でも、私たちは海に潜ってここに来たんだよ」


 「そして白鯨に呑まれたのだろう?」


 「うん、そうだよ」


 「君たちは自分の国に入る時にまずどこを通る? それは国の規模にもよるが、衛兵が守る門を通るだろ?」


 「衛兵.. 門.. そうか、衛兵は巨大なトバリカニ、門が白鯨ね」


 「ああ、君は賢いね。その通りだ。そして通行許可証が君たちの持つキャカの枝だ。君たちはあの凶暴なトバリガニを倒したのだろう? その事実だけで君たちは私たちにとっては脅威なのだよ」


 「あの.. 勝手にカニを殺してしまってごめんなさい」


 「それについては気にすることはない。大丈夫だ。あのカニは脚一本からでも再生する魔獣だ。10日もすれば復活するだろう」


 「ところで、レベドルさん。この国に来たアアルク王を知っていますか?」


 すると側近のサムルが剣を抜いた。


 「待て、サムル。 ..アアルク王を知っているとは、君たちはキャスリンの密偵か?」


 「密偵なんかじゃないわ」


 「私はレミン女王にアアルクさんを連れて帰るって約束してしまったから」


 「レミンとはアアルク王の娘か。君たちはアアルク王の仇を討つため来たものではないのだな?」


 「仇ですって?」


 「ああ、残念ながらアアルク王は殺害されてしまったのだ」


 「誰に? 」


 「リキルス国を造った4賢者のひとりにだ」


 「4賢者? でも、王様はレベドルさんなんでしょ?」


 「私が王? ははは、君たちは大きな勘違いをしている。私はこの国の反逆団カンペプロのレベドだ」


 「じゃ、王様はどこなの?」


 「この国に王などはいない。4賢者がこの国を束ねているのだよ。 いや、今はあの女が束ねていると言っていいか.. 彼らはここから北東ラテドニオにいる」


 「レベドルさん、アアルクさんが死んでいるというなら私はある物を持ち帰らなきゃいけないの。アアルクさんの墓を知りませんか?」


 「それは謎なのだ。あの女、エルフのエレンフェに聞くしかあるまいよ」


 「え!? エレンフェ!?」


 ライスの反応にサムルが再び剣を抜いた。


 「エレンフェまで知っているのか。 やはり君たちを自由にするわけにはいかないな」


 「いいえ、あなたには私たちを自由にするしか道はないわ」


 部屋には風に乗って舞い込んだ木の葉が漂っていた。


 「どういうことだ—」


 サムルの腕が矢に射抜かれると、剣が落ちる音が響いた。


 そしてレベドルの目の前にルースの弓を引くアシリアが現れた。


 「お、お前は! エレンフェ!!」


 レベドルはアシリアの姿に驚きに目を見開いた。


 「話せ、その女について」


 アシリアの弓がギリギリと音を鳴らした。

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