第48話 入国!?
【前話までのあらすじ】
パウダーの背に乗り純白の砂地に着いたライスたち。門番のように待ち構えていた獰猛なトバリガニを打ち破ると、竪琴を持つ聖女の像を見つけた。アシリアがその竪琴をつま弾くと、巨大な白鯨が現れて、ライスたち全員を呑み込んでしまった。
◇◇◇
【本編】
—アシリア、起きなさい.. 精霊たちがあなたを呼んでいるわ..—
「 姉さん!!」
アシリアは遠く幼い日の夢に目を覚ました。
周りを見渡すとそれは森の中だった。しかしエルフのアシリアにはこの森は奇妙だった。森が静かすぎるのだ。おしゃべりな精霊たちの声が全くしないのだ。
木の向こう側にスレイの脚が見えた。
「スレイ、スレイ、起きて.. スレイ!」
「 ..ん んん.. イタタタ.. あ、アシリアさん.. ここは?」
「不思議なことに、ここは森の中みたいだ」
「えっと.. 確か.. え!? 森の中? だって僕たち海にいて.. そうだよ! 僕たちは海の中だ!」
「ええ、確かに私たちは巨大な白い怪物に吞み込まれた」
「ギガウさんや他の人たちは?」
「そうね、探さなきゃね。スレイ、あなたの鼻なら見つけることできるでしょ?」
「うん、任せて!」
一方、小川のほとりの草むらに倒れているのはリジだった。
「う..う~ん、お、お.. 重い!!」
リジの上に重なるようにライスがよだれを垂らして寝ていた。
「 くっ、おりゃっ!!」
何とかライスを跳ねのけ起き上がる。しかし、転がされても起きないライス。だらしない顔で寝るライスの顔に若干引くリジ。
「まったく、呑気な顔して!」
ライスの鼻と口を指でつまんだ。
「 ..プ ププ ..プププ ....ぶがぁ!! 溺れる! 助けて!!」
「起きた?」
「うん! 起きた!! ..リジ、ここは?」
「ここは森ね」
「リキルスなのかな?」
「わからない。でも、私たちは白鯨に呑まれても、今、生きているってことは確かね」
「そうだね。なら、みんなを探しに行かなきゃ」
その時、木々の間から人の話し声が聞こえた。
リジとライスは小高い草に身を伏せ、息をひそめた。
[ —あっちのほうだ。確かに気配がするぞ ]
[ —ああ、確かに。 ..懐かしいな。 だが、なぜ精霊が? 死に絶えたはずなのに]
緑色の頭巾をかぶる男たちの物騒な会話にリジとライスは顔を見合わせた。そして頭巾の男2人の跡をつけることにした。
それからほんの数十メートル先で頭巾の男が声をあげた。
「—いたぞ! あそこだ!」
そこにいたのはギガウだった。既に他の頭巾の男たちに捕獲されていた。
「—こいつは外の奴か?」
「—おそらくは」
「—死んでいるのか?」
「—いや、目を覚まそうとしたからニーケの花粉を吸わせ眠らせた」
「—しかし、妙だな。この男から精霊の気配がするぞ」
男たちは合計4人。リジとライスでどうにかできない人数ではない。2人は二手に分かれて行動した。
「動かないで!」
リジが頭巾の男の背後から剣をつきつけた。
「だ、誰だ!?」
男たちは突然のことにたじろいだ。
「動かない! 同じ質問を私がするわ。 あなた達は誰? 何者?」
「俺たちは—」
『私たちは世界を繋ぐ者だ。君たちは外の人間だな』
森の中から派手な銀のカチューシャを付けた男があらわれた。そしてその横にツタで縛られているライスがいた。
『ライス! 何で捕まってるのよ』
「ごめん、お腹減って力が出なかった」
不甲斐ないライスにリジは呆れてしまった。
「さぁ、剣をおさめたまえ。別に君たちに危害を加えようとは思っていない」
「その言葉を信用しろと?」
「まぁ、信用できないのであれば、少々乱暴な方法を取るだけだよ」
その時、そよ風に乗ってジャスミンの香りと木の葉が流れてきた。
「 ..わかった。大人しくするわ。乱暴はしないでね」
「ああ、君たちが大人しくしていればな」
リジとライス、そしてギガウは謎の男たちに捕獲され連れていかれてしまった。
しかし、スレイとアシリアがしっかり跡を付けていたのだ。
男たちは村に入って行った。村は広大な土地に作物を実らせていた。家一軒につきそれぞれ農地を持っている完全に自給自足の村のようだ。小高い丘の上に屋敷があり、男たちはそこに向かっていた。
森の中でアシリアとスレイは気が付いた。森が何度も2人を迷わせようとしていたことを。これは地の精霊の縄張りだ。望まれない者がその縄張りに踏み入れば永遠に森を彷徨うことになる。
ただし、それは人間ならばの話だ。ふたりは森の住人エルフ族とオレブラン(獣人)だ。並みの精霊の力に迷わされることなどないのだ。
アシリアは気が付いた。森に精霊の気配がしないのに『縄張り』を敷いている。この『縄張り』は『牢獄の魔道具』によってつくられていたものだと。
そしてスレイはこの地の根本に気が付いたのだ。
「アシリア、やっぱり変だ。この森は.. ここは僕の故郷『最果ての森』にそっくりなんだ」
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