第44話 目を背けていた事実
【前話までのあらすじ】
キャカ畑一面が黄色い花で埋め尽くされた時、女王レミンは前王であり父上のアアルクを連れてきた。ライスたちが見たアアルクの姿は老人ではなく30代前半の男性であった。そしてその時、秘想石が光り始めていた。
◇◇◇
【本編】
「キャカの木」を復活させた功績にギガウをはじめ全員が祝いの宴に城へ招待された。
これは願ってもない機会だ。城内にさえ入れば、スレイの鼻と耳で行方知れずのマイルを見つけることが出来る。
ツルツル岩の階段をひたすら登り、城の入口に足を踏み入れると、早速スレイが反応した。
「ライスさん、匂いがします。マイルさんの匂いが。しかもこの匂いは.. 毒と薬の匂い」
「え! マイルは大丈夫なの?」
「毒の匂いは微かだし、大丈夫だと思います」
「わかった。じゃ、あとで隙を見て探してきてくれる?」
案内の衛兵が振り返ったのですぐに口を閉じた。
『君たちは招かれた客人だ。これから迎賓広間での食事会だが、他の場所には立ち入らないように。用がある時は私に声をかけてくれ。私は女王の護衛をしているカイだ』
長い廊下の突き当りの豪華なドアを開くと赤い絨毯の先にはご馳走が並んでいた。
『さぁ、すぐにレミン様と.. アアルク様がいらっしゃる』
リジは護衛のカイが拳をぎゅっと握りしめたことに気が付いた。
一方、ライスは目の前のご馳走に目をキラキラさせていた。
「リジ、リジ! こんなご馳走は久しぶりだね。何から食べてやろうかな!」
「ライス、あんた目的を忘れないでよね」
「わかってるって。 でも、せっかくのご馳走なんだからこれはこれで楽しまなくちゃ損だよ」
「まったく.. それより、ちゃんと秘想石は持っ—— ライス! あなたの鞄から!」
ライスの鞄の隙間から強い光が漏れていた。
ライスが光る秘想石をテーブルに乗せると、その光は迎賓広間の白い壁に映像を映しだした。
それは切り出した深蒼石をあしらう豪勢な柱に囲まれる廊下だった。そしてその映像は左右にゆっくりゆれながら廊下を移動している。その先にある赤い細工模様が施してある白い扉が開いた。扉の向こうには、テーブルの上の豪華な料理と、ギガウ、アシリア、ライス、リジ、スレイ、ミレクの姿が映っていた。
「これは.. どういうこと?」
そう言うとリジはゆっくりとアアルクの顔を見た。
「待たせて.. なんだ? 何を見ておるのだ?」
レミンはテーブルを周り込むとその映像を目撃した。
「これはなんだ! ここに映るは、私たちか!?」
リジがその映像のもとを辿る。それは間違いなくアアルクからの目線だった。
「な、どうしたのだ、レミンよ」
アアルクがそう言いながらレミンに近づく。
壁に映る自分の姿とアアルクを交互に見るレミン。そして、彼女も映像が父アアルクの視線なのだと確信した。
「ひっ.. !! 」
レミンは自分に伸ばしたアアルクの手をはじき拒絶した。
「どうしたの..だ、レミン....」
アアルクが壁に視線を向けると、映像が合わせ鏡のように何重にもなった。
「うわあっ!」
アアルクは両手で目を押さえながら言った。
「な、なんだと言うのだ。なんなのだ、これは!?」
『形のない宝石』
ライスが呟いた。
光る秘想石を鞄にしまうと、広間は水を打ったようになった。
いつもは先陣をきるリジでさえ、この状況を説明する言葉が見つからなかった。
「いつなのですか?」
最初に切り出したのはライスだった。
「何が.. だ?」
レミン女王が聞き返した。
「レミン様には今の質問の意味がわかっているのではないですか? レミン様のお父様が現れたのは、いつのことなのですか?」
「あ、現れただと.. 何を言っておるのだ!!」
『 ..60年も前に、リキルス国へ旅立ち行方知らずだったアアルク様がお若い姿のままご帰還なされたのは14日程まえです』
「カイ、黙りなさい!」
レミンは護衛のカイを怒鳴りつけた。
「レミン様、恐れながらアアルク様は『形のない宝石』です」
「な、何を.. 先ほどからわけのわからないことを.. なんだ、その何とかという宝石とは!?」
「『形のない宝石』は人が心から願うものに姿を変える宝石です。私はそれは物だけなのかと思ってました。でも違ったんです。レミン様、お父様は光の中から突然現れたのではないですか?」
「そ、そんなこと..」
「レミン様はきっとお父様に会いたい、帰ってきて欲しいと願っていたのでしょ? 私にもその気持ちわかります.. きっとその願いに宝石は応えてたんです。だって今のアアルク様の姿ってレミン様の想い出にあるアアルク様の姿なのだから」
その時、ライスは式紙のルシャラのことを思い出していた。式紙ルシャラこそ幼き頃のロスの想い出の中にある母の姿だったからだ。
「貴様、その口を閉じねば、死を与えるぞ! 衛兵! そ奴らを地下の牢にぶち込むのだ!」
「レミン、やめなさい!」
「ええい、うるさい!!」
レミンはあれほど慕っていた父アアルクに対して、命令するような言葉遣いをした。彼女も気が付いていたのだ。目の前にいる父親が何かであることを。
「わかった、小娘。お前が父上を偽物と呼ぶのなら、お前がリキルス国より本物を連れて来るのだ! 丁度、旅に必要なキャカの木もある!」
レミン女王は父親のアアルクを冷ややかな目で見ると言った。
「リキルスの行き方はそこの父上に聞くがいい」
「 ..レミン」
そして続けて強い口調でカイに命令した。
「その小僧とミレクを捕らえよ!」
カイは渋々命令に従った。
「よいか。もしもお前がリキルスから手ぶらで帰ったら、小僧とミレクの首を跳ね、港町ケロットにさらしてやろうぞ」
そう言い放ち部屋を後にした後、聞こえたレミンの高笑いはどこか悲しい響きを奏でていた。
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