第43話 花摘み花植え
【前話までのあらすじ】
畑に訪れたレミンの目の前でキャカの花を披露したギガウ。レミンの態度から、潜入したマイルが捕まった感じはなかった。一方、城の部屋で目を覚ますマイル。自分を介抱してくれたのは若き姿のままの前王アアルクであった。
◇◇◇
【本編】
夜通し、キャカの発芽のために精霊の力を使い続けたギガウ、ミレクには休憩が必要だった。「まだ大丈夫」という2人を宿屋モンタジュに強制的に帰すと、ライスとリジはキャカの花植えの作業を始めた。
畑の土はギガウとミレクの精霊の力で活性化している。まずは握りしめたクワを土に沈めると、ひと掻きひと掻き土を掘り起こしていく。
土仕事に慣れないリジにライスは果樹園で覚えたロス仕込みの耕し方を伝授した。
ひと通り畑の耕し作業を終えると、ライスはキャカの木を見上げる。
「これはちょっと私たちには手が届かないね」
ライスは近くに農家を見つけると、物おじせず脚立を借りて来た。そしてリジから脚立を支えてもらうとヒョイヒョイと天辺にまで登ってみせる。そよ風が吹くとキャカの花の爽やかな香りが作業をする2人を包み込んだ。
指先を丁寧にキャカの花を摘むと、背中の籠にホイホイと投げ入れていく。
「さすがライス、果樹園を手伝っていただけあって手慣れたものね。でも、ライスなら魔法や式紙使って摘むこともできるでしょ?」
「うん、そうだね。でも、これがいいんだ」
下から見上げるリジは、陽の光に重なるライスの笑顔が眩しかった。
[ —ライス! ちゃんと手で作業するんだ。愛情を込めてな— ]
ライスにはあの懐かしいロス・ルーラの声が今も聞こえているのだ。
「うん。わかってるよ」
「え? ライス、何か言った?」
「ううん。別に」
・・・・・・
・・
摘んだ花は籠2個分にもなった。
「結構、量があったね。中腰で腰痛くなったよ」
「ははは。果樹園を再建する時はもっと手伝ってもらうから覚悟してね」
そんな作業を見守っていた近くの農夫から2人に声がかかる。
「お~い。若いの2人。おつかれさん。こっちに来て、うちで取れたアンラの実でも食べんかね」
「いいんですか!?」
「なに遠慮してるだ。ほれ、こっちに来なされや」
「やった!」
ライスとリジは走って、その農家のお茶の時間に混じった。
***
翌朝、植えたキャカの花から芽が開いていた。畑全体に、ギガウの精霊の力が浸透していたためだ。
そして、この後の作業は女王レミンと父親アアルクの前で行われた。
その2人の姿には誰もが違和感を覚えた。
70歳を超えるレミンはアアルクをお父様と呼び甘えている。しかしアアルクの姿は、まちがいなく30代の男性の姿をしているのだ。
「ねぇ、アシリア。アアルクさんはエルフや精霊の仲間なの?」
「いいや、あれは普通の人間だ」
その時、アアルクがこちらを見た。
「やばっ 聞こえたかな..」
アアルクはそのまま歩いて近づいて来た。そして震える手を伸ばしアシリアの肩を掴んだ。
「き、君は.. 君は誰だ!? 君は私のことを知っているか?」
「 え.. いや、アアルク..さま?」
その奇妙な会話に周りの注目が集まってしまうと、アアルクは慌てて場を繕うように労いの言葉をかけた。
「よくぞキャカの木を復活させてくれた。礼を言う」
そして背中を向けると、足早にレミンのもとへ戻った。
「何だったんだろ?」
「 ..さぁ」
キャカ畑にギガウが両手を付け、ギガウの肩にミレクが手を置いた。
こうすることでミレクの精霊の力がギガウの精霊の力に上乗せされるのだ。
キャカの木は瞬く間に枝葉を伸ばし成木へと成長していく。レミンとアアルクはその不思議な光景に圧倒された。
そしてエルフのアシリアがキャカの木の葉に混じると、喜びを表すようにキャカの黄色い花が一斉に咲いたのだ。そよ風は辺り一面に爽やかな香りで包み込んだ。
「おお、懐かしい花の香りだ」
「そうですわね、お父様。ほら、見て! 私たちがお花見したあの時のキャカ畑よ!」
「そうだな。ありがとう。君たちのおかげだ」
その時、咲き乱れるキャカの花々を、宿に置いてきた秘想石が映し出していることなど誰も知らなかった。
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