EP18 エゴシエータ―vsエゴシエーター(後編)
刺すような痛みのあとで、赤い線を引いたのは自らの鮮血か。冷汗が数滴、額から足元へと滑り落ちた。
「貴様は考えたことがなかったか? スターレター・プロジェクトの参加者が次々とエゴシエーターに覚醒していくのなら、この世界はもっとおかしなことになるんじゃないか? と」
「……俺はバカだから、もっと分かりやすく言いたいことを言ってくれねぇかな?」
「結論を急ぐな。この世界の日常は確かに歪だ。月に一度、エゴシエーターの生み出した巨大ロボットと怪獣が戦う。だが、この世界の歪みがその程度で完結しているのは、私がエゴシエーターを見つけ次第、殺し尽くしているからだ」
麗華がエリアズは離反したのは三年前だ。そして、この瞬間に至るまで彼女はエゴシエーター狩りに明け暮れていた。
スターレター・プロジェクトに届いた願いのことごとくを、その願い主ごと殺害する。座標さえ判明すれば世界中のどこにでも現れることのできる彼女のワープ能力は、さぞ役に立ってことであろう。
魔女が黒衣を纏うという共通認識が定着した背景には、「聖なるものと対をなすイメージを押し付けられたから」や「人が本能的に恐怖を抱く闇から連想された」等、様々な説がある。
だが、麗華が烏羽のような黒衣を纏う理由はもっとシンプルに、浴びた返り血を覆い隠す為でもあった。
「私は沢山のエゴシエーターを見てきた。〈エクステンド〉のエゴシエーター、貴様の現実改変能力はその中でも中の下と言ったところだ。殴り合いのセンスだって月並みの筈。なのに、ここまで私に歯向かってみせたのはお前が初めてだ」
「ビビったら負けだと思ってんだよ、悪いか?」
まだ皮肉を吐く余裕があるのかと、麗華は少し驚嘆する。
これは彼女の経験則からなる直観なのだが、この手のタイプは一番気危険だ。恐怖を感じない、或いは理性で恐怖で押し殺してしまうからこそ、何をしでかすか分からない。
「〈エクステンド〉のエゴシエーター。貴様は必ず世界を大きく歪曲させるだろう。だから私が今ここで確実に貴様を処分する」
始まる詠唱はそのまま死へのカウントダウンだ。
「■■……■■■……」
夕星は身を翻し、反撃を試みた。
だが、首に当てられた刃先がそれを許さない。さっきのようにエゴシエーター能力を発動させようと、〈エクステンド〉の発生させた事象が、この場に影響を及ぼすまではタイムラグがある。
「■■……■■■……■■■ッッ!!」
放たれた閃光が髪の端を焼いて、夕星の脳天貫く寸前────誰かがそこに割り込んだ。
「なっ⁉」
夕星は咄嗟にその誰かを受け止めながら、二人でゴロゴロとビルの端まで転がった。
ちょうどその部分の床が脆くなっていたのもあって、二人は下階まで落下していく最中。ふわりと鼻先を掠めたのは、咽せ返るような鋼臭さと、甘い幼馴染の香りだった。
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