EP18 エゴシエータ―vsエゴシエーター(中編)

 夕星の現実改変能力は〈エクステンド〉を起点にして、その半径一〇メートル以内の物質を創り替える。ただし、能力発動に際し、夕星が〈エクステンド〉へ搭乗しなければならないという制約は存在しない。


 ただ願うだけで、願いを叶える。────それこそがエゴシエーターなのだから。


「なるほどな……こういうケースの場合、こんな風に叶うんだな」


 能力発動の起点が〈エクステンド〉である以上、極論を言ってしまえば夕星が地球の裏側で願いを念じただけでも、機体の周囲ではそれを叶えようと現実改変が起こってしまう。


 夕星のエゴシエーター能力だからこそ出来る、一つの裏ワザだ。


 廃ビルの中で麗華と対峙した瞬間に「この不利な状況を覆したい」と夕星は願った。その結果、飛び込んできたのがこのミサイル達なのだろう。


 今頃エリアズの基地内では、ミサイルを構築するために様々な物質が砂に変換された筈だ。それは高価な機材であったり、誰かの私物であったのかもしれない。夕星は内心で「皆さん、すみません!」と謝りながら、前を見遣った。


 外壁を突き破り、床へと突き刺さったミサイル達は白煙を吐き出して視界を一色に塗りつぶす。これは幼少期の夕星が〈エクステンド〉に、「正義の味方」であって欲しいと願った制約。だからミサイル自体に殺傷能力は付与されず、実態はスモーク弾に近いものになっていた。


 だが、絶対絶命のピンチを覆すのにこれ程までピッタリなものもない。麗華にしてみればいきなり想定外が起こったのだ。そこで彼女の集中が削がれれば、彼女の発動していた魔法もまた不安定なものとなる。


「さぁ、反撃開始だッッ!!」


 両手脚を引けば、鎖は簡単に千切れ、背後の魔法陣は完膚なきまでに崩れ去る。


 自由を手にした夕星はそのまま息を殺し、粉塵と白煙の中に身を投じた。これで麗華の視界からも完全に消えられた筈。


(殺しはしねぇ……だけどな、十悟のときの借りと、陽真里を傷つけようとした分くらいは返して貰わなくちゃ、割に合わねぇんだ!)


 そして、彼女の三角帽子とローブ姿というシルエットは烟(けむ)る視界の中でもよく目立つ。


 足元に転がる瓦礫の一つを拾い上げ、夕星は彼女に迫った。一撃で彼女を昏倒させようと振るった腕は確かな直撃コースをなぞっていただろう。


 だと言うのに、夕星の一撃は空を切る。


「は…………?」


 麗華の立ち位置を見誤ったわけでも、途中で何かに躓いたわけでもないと言うのに。


「なぁ、〈エクステンド〉のエゴシエーター。ARAsの秘密基地にはとあるエゴシエーター能力を元に開発された転送装置があったんじゃないか?」


 魔女の身体が光の粒子となって溶けたのだ。次第に白煙が晴れて、視界がクリアーになっていく最中。粒子は再び「竜胆麗華」と言う個人を再構築していく。


「私のエゴシエーター能力は一度、自分の身体を光の粒子に分解することで再構築を行うんだが、その際に再構築する座標は私の意思で自由にズラすことが出来るんだよ」


 ARAsの転送装置は麗華が工作員だった頃、そのエゴシエーター能力の〝副次的な作用〟から未那月が着想を経て開発が進められたものだ。


 そして麗華が再構築に選んだ座標は、夕星の真後ろ。────鋭利な刃と化した魔女の杖先が、再び首元へと押し付けられる。

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