第25話:雪人のハサミの使い様



 ホムセン、百均から素材やら工具やらまた買い込んで。


 その中で一番の興味は。


「おぉっ!?」

「ん? どうしたの?」

「この百円ハサミ、意外な効能がっ」


 あはは、と。


 夫の奇行と言うか、奇声に苦笑の嫁・アカネ。


 ずらり並んだ、夫・雪人のハサミたちを見て。


「てか、ほんとに沢山ハサミがあるねぇ……色と形も色々あるみたいだけど」


「うん……百聞は一見に如かず。切れ味の違いをお見せするよ?」


 と、言いながら手渡される一本のハサミ。


「これは……」

「以前から家にあった、普通のハサミ。それでこのウレタンの切れ端、切ってみて」


 と、白い物体オブジェクトの切れ端も渡されるアカネ。


 左手に持った切れ端を、右手のハサミで夫の言う通り。


 ちょっきん、と。


「まぁ、普通に切れるよね?」

「うんうん。じゃあ、次、こっちのハサミで」


 と、ハサミを交換。


 さっきのは、ごくごく普通のハサミだったが、今度のは。


「えらい短いね?」


 普通のハサミは持ち手部分と刃の部分の長さの割合で言えば、刃の方が長い。


 しかし、今、手渡されたハサミは、刃の部分が極端に短い。


 感覚が少し狂うが、それでもアカネは切れ端に狙いを定めて。


 さくっ!


「わっ!?」

「ね?」

「何これ……ほとんど力入れてないのに、さくーって!」

「それはクラフトハサミ。刃が短いのはそこに力を集中させるためなのよ」

「あぁ……テコの原理かぁ……なるほどぉ」


 意外と言うと怒られるかもしれないが。


 アカネも地頭はそんなに悪くない。


 むしろ、良い方。


「じゃあ、次、この……百円ハサミで」

「ホイホイ」


 交換したハサミで、同じように。


 じゅくっ。


「切れないっ!?」


 何度ちょきちょきしても、ちょきちょきできない。


 いや、何言ってんだ?


「笑っちゃうでしょ?」

「さすが百円!?」

「うん。でもね……今度はこっちの組み合わせで……」


 アカネから切れ端とハサミを回収して、別の切れ端と、最初に試した普通のハサミを再度。


「ハサミを横にして、切れ端の表面に平行にあてて、表面をなぞるように飛び出した部分を切ってみて」

「は? ……あぁ、表面を削る、仕上げの時の感じね?」

「そうそう。表面仕上げ」


 今度も言われた通り、切れ端の表面にハサミの平面を当てて、開いて、閉じると……。


 じょりじょりっ。


「あ、うわぁ、切れすぎる……」

「うん。あんまり力入れて押し当てると、ざっくりと深くまで削れちゃうでしょ?」

「そうなのね……」


 そしてハサミを取り換える。


「百円ハサミっ」


 同じように、切れ端の表面に押し当てて、開閉してみると。


 じょっきん。


「うわっ!」

「ね?」


 驚いた。


 表面が、キレイに、削ぐようにまっすぐに、切れた。


 さっき、縦に切ろうとした時は全く切れなかったのに。


「一番刃の薄いのを選んでみたけど、こんな風に切れるとは予想外だったよ」

「そうなのね……」


 お店でハサミを選ぶときに、正面ではなく、横からばかり見ていたのはその為か。


 刃の薄さを基準に選んでいたんだね。


「じゃあ、次はこっちのハサミで」


 またハサミを交換。


「何これ……金ピカ?」

「それはねー、チタン加工」

「チタン……金じゃなくても、高そう……」


 また無駄遣いぃいいいい、と、心の中で絶叫する、アカネ。


「しかも、何コレ……めちゃ薄っ!」


 先ほどの百円ハサミも薄かったが。


「しかもこのまるっこい刃……」


 刃の形も真っ直ぐではなく、曲線を描いている。


 そういえばロープレゲームとかでこういう形の曲がった剣があったよなぁ、とか思いつつ。


 手に持ってちょきちょきしてみると。


「軽っ!?」

「うん、薄くて軽くて……ね?」


 促されて、さっきと同じように表面に刃を当てて開いて、閉じて。


 すーっ。


「うわああ、何これ、何これ?」

「すごいでしょ?」


 さっきの百円のハサミはチカラいっぱいに、じょっきん、と、大胆にぐ感じで。


 おいくらかは聞いていないが、このチタン加工のハサミは。


 削ぐと言うよりは、と言った感じで。


 ほとんどチカラを入れる事なく、薄く、薄く。


「ひええ」


 驚きの、切れ味。


「と、まあ、それぞれ特徴があるんで、使いどころを分けてる感じなの」


 驚くと言うか、呆れると言うか、納得すると言うか。


「で、一番よく使うのは?」


「えーと……この、普通のやつ?」


 結局。


 使い分けるために持ち替えるのが面倒だったりする場面もあり。


 ここぞと言うところ以外では。


 汎用性に長ける普通のヤツが、一番活躍したり。


 ちなみにお値段は。


 百円のはともかく、普通のが五百円程度。クラフトハサミは千五百円程度で。


 値段を聞いて、アカネは、クラフトまではギリ許せたが。


「チタンのは……四千円」


たけぇよっ!?」



 そんな夫の作業は。


 まだ。



 つづくのか……。





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