第51話 魔王クエート


かん!


初撃は、お互いの剣のぶつかり合い。

だが、一騎打ちと言うわけでは無かった。

クエートの背後に迫る、閃光の一撃。


「はぁ!」

「フン!」


彼は素手でシキの剣を掴む。

その手から血が出ようが構わず、鞭のようにアークにぶつけた。

ごん!と鈍い音が響く。

見れば、剣を離したシキが勢いよく吹き飛ばされていた。

壁に着地し、重力にその身を任せながら落下する。

ただ、一連の動作でクエートは僅かな隙を生み出してしまった。

その隙を逃す彼ではない。

瞬間移動とも取れる速度でクエートの胸元まで迫る。すぐさまナイフを逆手に握り直し、


(潰し斬る!)


心臓目掛け、ナイフを滑らせた。

だが、


(!? 硬った……)


それは無惨にも鋼鉄の鎧に弾かれてしまう。その上、


「ガラ空きだ、アーク!」


剣ではない拳が、


「がはっっっっ!」


アークの腹を打ち抜き、吹き飛ばしてしまったのだ。

大量の血を吐き、壁に激突する。

だが、肉体への衝撃はシキの比にならなかった。

一瞬の事ではある。それでも、彼は白目を剥き、意識が飛んでいたのだ。

即死級の一撃を受け、腹をゆするアーク。

意外にも、痛みの割にダメージは少ないようだ。

まだ、戦える。


(ちッ……『無音』が使えないのが痛過ぎるな)


微かに舌打ちをし、口元の血を拭き取る。

小さく息を吸い、状況を見定めた。


(ナイフは……微妙。クエートはシキが抑えている)


打撃を受けた時、ナイフを手放してしまった。シキは剣を手放した上のステゴロで戦い続けている。

だが、それも時間の問題だろう。

いかにシキが強かろうとも、経験の差があまりにも大きすぎた。


(くそッ……)


立ち上がるのがやっと。

大きくふらついた。


「──────────────!!」

「は?」


バルボロスの咆哮が響く。

耳が割れそうだ。

シグレとハルリが黒龍と空中戦を繰り広げている。

城を貫き、破壊し尽くす怪物。

咆哮だけで、壁のヒビが大きくなっていった。


「喰らい尽くせバルボロス!」


バルボロスの上に乗ったダマ。

獣使いの彼だが、バルボロス以外の魔物は1匹除いてもう持ち合わせていなかった。

なんせ、黒い触手の一件で、ほぼほぼ全ての魔物が洗脳されていたからだ。


巨大な黒龍の背中を走り抜けるシグレ。


「ダマ!」


怒りの困った叫び声。

長身の剣に変化した腕を振り下ろす。

だが、


「黙れ。お前の声は聞きたくない!」


それは彼の短刀によって防がれた。

力任せに振り下ろすシグレ。

彼も同じように力任せに短剣を振る。


「なんで!なんで!きみが!よりにもよって!」


一進一退の攻防。

隙あらば敵の胸目掛け蹴りを打ち込む。


「黙れ!耳障りだ」


徐々にダマにも怒りが困り始めた。

打つ。

どちらが速いか。


に、なんて顔向けすんだよ!」

「黙れ!」


感情をぶつけた。

シグレの腹に、ダマの膝蹴り。

だが、同時に彼女はダマの胸ぐらを掴んだ。


「ぐッ!」

「この!」


全力で頭突きをするシグレ。

全力で彼女を殴るダマ。


「離せよ」

「離すもんか!」


頭部から滲み出る血。

既に、片目は血液で見えなくなった。

ダマの打撃は、シグレを砕くことができなかった。


「今ならまだ間に合うから!」

「俺たちに!」


カーライの惨状を知っている彼にとって、もう、後戻りなんていう選択肢は存在しない。揺れる足場。


「ヨキカナ!」

「!?」


彼の言葉と同時に、ポケットから1匹のヘビが出現した。

ヘビはシグレの足を絡めとり、


「……な!?」

「地上戦だ。因縁に蹴りをつけてやる」


バルボロスの背中から落下してしまった。

掴んだ手は離さず、ダマが下敷きになる形で、地面に着地する。


「いっっっっっった……」

「幼馴染だからって、もう、加減はしない」


思い出が頭痛になって。

その拳を弱めていた。

なれば、相手を倒すことは出来ない。

覚悟を決めろ。


「ふぅ……もう、いいや。蹴り付けよう」

「ああ。やるぞ」


拳を握れ。

想いを振り切れ。

目の前にいるのは敵だ。

幼馴染。友達。敵。


「「勝って、従わせてやる」」







「はぁ!」


上空と背後から同時に迫る。

だが、クエートは平然と、両手を使って受け止めた。

背中に目がついているのか疑いたくなる。


(『千里眼』か!)


その正体に気づいたところで、対応はできない。

未来の見えるその瞳。

対処方法は『千里眼』を潰すのみ。

だが、その手は未来には通用しない。


「縛れ」

「ぐっ!?」


詠唱すらなく発動した鎖。

背後のシキを縛り、勢いそのまま顎を蹴り上げた。その一撃は先程とは比にならない。


それは、クエートの性質。


傷つける度に更にその部位が強化される。

控えめに言ってクソゲー。


「ッ!シキ、退がれ」

「分かった」


ムーンサルトの応用で吹き飛ばされたアーク。2人は背中合わせになり、呼吸を整える。


(なんだ?)

(このままやっても埒が開かない。それどころか、やつの性質上、時間をかければ掛けるほど俺たちが不利になっていく)

(早く言えよそれ!)

(悪い……ぶっちゃけ忘れてた)

(はぁ?)

(まあ良い。それよりも聞け)

(?)

(           )



それを聞いて、シキは目が点になった。

それどころか、乾いた笑いが飛び出てしまった。


「ハハハ」

「覚悟決めろ」


姿勢を低くして構える。

魔王は剣を回しつつ、ゆったりと近づいた。


「作戦会議は済んだかい?」


「ああ。お陰様でな」



「仕切り直しだ。ぶっ潰してやるよクエート」

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