第50話 再会。そして……


「良し、揃ったな」


フードの男の前に立つ少年少女。

全員がそれぞれの武器を持つ異様な光景。

予言者は自分の爪で指を裂き、4人を囲むように円を描いている。


(基本魔術にワープって有ったっけな?)


そう呑気に考えていたのはアーク。

赤く出来上がっていく魔法陣を見つつ、ナイフを強く握った。

討つべき敵は明白。

斬るべき敵は眼前。


全てに決着を。


(……全部、終わってしまえば……)


少し、躊躇いを覚えたのはシキ。

魔王を倒したい。

その気持ちは、初めから変わっていない。

でも、今が心地よかった。

この旅が終われば、幻のように消える。

そう考えると少し、寂しかった。


(これが終わったら、厄災の件もどうにかしないとね)


楽観的に、されど現実的に見ていたのはハルリ。

他の人はどうかは知らないが、彼女には厄災を祓う使命があるのだ。

それに、残る二つの厄災が出現するまで彼女の旅は終われない。


(……)


彼女が持っていたのは、不安と恐怖。

それらは、魔王に対して感じているのか?

否。

彼女が気にしていたのは、

よりにもよって彼女の数少ない友人が、敵として阻むのだ。


それぞれの思いを抱き、武器を握る。

それは、ちょうど予言者が魔法陣を描き終わった時だった。

予言者が彼らの前に立ち、右手を翳す。


「なぁ」


ふと、アークが口を開いた。

予想外の声に、予言者は右手を振り下ろしてしまう。


「なんだ。まだ、何か用意があるのか?」

「いや、そういや名前を聞いてなかった。『予言者』は本名じゃないだろう?」

「……

「ナツか……ありがとう、ナツ」


ナツ。

予言者はそう名乗り、再度右手を翳す。

本名かどうかは定かではない。

だが、彼はアークに名乗った。

それだけでも、アークからしてみれば十分だ。


「……終わったら、一発殴らせろ」

「考えとくよ」


そうやって、2人は笑う。

同時に、ナツは詠唱を始めた。


「──欲せ。からく、深く往く者よ。神秘をこの手に。終焉をこの手に。捻じ曲げ、新たなる真理とならん」


詠唱が進むにつれ、彼らは光に包まれていく。皆、目つきが変わった。

ここから先は紛う事なき地獄。

戦場であり、思い出の地ルーラリア。

そこで、決着を着ける。


「我が魔力を喰らい、我が神秘を喰らえ、真なる勇者よ」


光はさらに強くなりつつあった。

もう、詠唱も終盤なのであろう。


「往け!」


叫びとも取れるその言葉と共に、光は全てを飲み込んだ。


「ああ!」


その言葉が届いたかは定かではない。

だが、魔術自体は成功した。


「……久しぶりだな……」


ふと、アークが呟いた。

ルーラリアの惨状は、地獄以外の何物でもなかった。

至る所に見える魔物の傷跡。

至る所に放置された人間の死体。

安全な場所を探す方が難しいだろう。

かつての王都の面影はどこにも無かった。

だが、一つ。


(……居る)


長年の勘か、はたまた別の理由か。

魔王の位置がわかった。

それも、待ち構えている。

まるで、待っているかのよう。


(……待ってろクエート。消し飛ばしてやる)


明確な怒りを持って、一歩。

確かな勇気を持って、一歩。

行進のような足取りで、彼は進む。

それに続くように、他の3人も進み出した。


魔物は1匹たりともいない。

魔王がいるのに。

訝しむが、答えは出ない。

所々に落ちている魔物の腕。

食いちぎられたようなそれに、一つ心当たりがあった。


(バルボロス)


ダマの保有する最大戦力。

それに、そこら中に飛び散った

きっと、例の触手だろう。

ならば、バルボロスが顕現した理由に納得がいく。


特段邪魔が入る事なく、ルーラリア城に侵入することができた。

城内はもっと悲惨で、白亜であった壁は赤く染まり果てている。

生者など居ないだろう。

あるのは殺戮の跡。

死者の骸が連なり、血のカーペットが道を指してくれた。


10数分歩き、


「ここだな」


重々しい門を発見する。

元の見た目は失ったものの、それが豪華であったことは今でも確認できた。

それは、玉座の間。

かつての王が。かつての勇者が。

かつての仲間が。

旅を違った場所。


(決着を着けるってんなら、確かに最悪最高だな)


目的は一つ。

魔王クエートの殺害。

至ってシンプル。

アークが扉に手をかける。

そして、


「行くぞ!」

「「ああ!」」


全力を込め、因縁な扉をこじ開けた。

ギギギと軋む音。

も侵入者に気付いたのか、立ち上がり、手元に突き刺した剣を引き抜く。

ゆったりと扉は開き、天井の空いた空間へと続いていた。

階段の先に見える、ぼろぼろの玉座。

無論、そこにいるのは魔王。

隣には腕を組み、首だけをこちらに向けているダマ。

照りつける光。


「遅かったね」


僅かな静寂の中、最初に口を開いたのはクエート。

彼は微笑みを崩さず、されとて油断するわけでもなく、ところどこか崩壊した階段を一段ずつ降っていた。


「まあな。手前をぶっ潰す準備してたからな」


答えたアーク。

彼も魔王と同じく、部屋の中心へと足を進めていた。

最早、いつ打ち合ってもおかしくはない。


「話したいことは山程あるけど……」

「もう、言葉は要らない」


2人、部屋の中央で互いの武器を構える。

切先を敵に向け、間合いを把握した。


「我が名はクエート! 勇者を捨て、魔王となりし者!」


彼の目的は、

邪魔になる者は、斬り伏せる。


「我が名はアーク! 星を喰らいし厄災を宿す者!」


その瞳に宿る殺気。

邪悪の塊は、蠢き、時を待っていた。




「「決着を!」」

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