第49話 前日
「急用って言われて呼ばれましたけど……」
シグレは空いた口が塞がらなかった。
目の前には普段とは違う服装をしたハルリ。それも、かなりのラフ着だ。
大きめのサングラスを着けた彼女は手を振りながらシグレに走って向かって来ていた。
「なんで、そんな服なんですか……」
呆れ果てた彼女の腕を無言で引っ張るハルリ。困惑を隠せない彼女を尻目に、ハルリは歩み続ける。
洋都セルトルク。
そこは、白亜の壁に包まれた国。
中心に鎮座する西洋風な城に、それを包囲するかのように広がる住宅街。
セルトルクは4つのエリアに分離されており、それぞれで生活感が全く異なっていた。
北から順番にセルビア、ルクセア、セイラム、アルビアの4つ。
彼女らが居るのは東側……即ちアークらの宿近くの街、ルクセアだ。
ルクセアは一言で表すとすれば和だった。他三つ全てにあるはずの噴水はあらず。室町時代にワープしたかのような書院造。
鳥の囀りと、水のゆらゆらと流れる音が心地よく鳴り響いていた。
「それにしても凄いですね……」
感嘆をこぼしたのはシグレ。
隣に立ったハルリは微笑み、彼女に言いながら一歩を踏み出した。
「別名……要塞都市だからねぇ」
外……特にアシキノに比べて仕舞えば、あまりにも平和すぎる。
あの地獄を体験したってのもある。
それ以外に、
(久しぶりに……生きてる街みた……)
魔物1匹いないところに、久しぶりに来たのだ。
「ま、王様が優秀ってのもあるんだろうけどね〜」
ゆるく話しつつ、街を探索していた。
初めて見る屋台。
世間知らずよりのシグレにとって、初めてのことしかなかった。
「……これ、美味しそう」
一歩あるけばそんなことを口にしていた。
見た目相応の反応に、ハルリはニヤケが止まらない。
彼女が欲しいと言えば、なんだろうとハルリは購入した。
財布なんて気にしない。
アークの財布から幾らかパクって来たのだ。
最悪、『等価交換』で増やせるし。
そんなことを考えながら進んでいた。
「真面目な話」
ふと、ハルリが足を止めた。
わたあめを頬張りつつ、彼女はハルリを見つめる。
「魔術の威力の増減条件って知ってる?」
「……?いいえ」
ハルリの意図がつかめず、彼女はただ正直に答えた。
そんな彼女を尻目に、ハルリは話を続ける。
「魔術の威力・精度の条件は大きく分けて3つ。魔力量と、感情、イメージだ」
「……あー」
昔、そんな話を聞いたような気がする。
と言っても、十数年前の話だが。
「魔力量は言わずもがな。感情にもよって大きく精度が変わってくる。ボロボロのナイフより、しっかりと研いだナイフの方が切れるように」
「イメージも同じ感じと聞きました」
「うん。特に『等価交換』はイメージに影響される」
なんとなく、彼女の言いたいことがわかってきた。
「イメージはイメージで、感情に左右される」
「だから、ここに連れ出したと?」
「正解ッ!」
少しテンションの上がった声が響く。
わたあめを頬張りつつ、シグレは彼女と並んだ。
「ま、真面目な話終わり!今日はまだ長いんだし、遊ぼ!」
「……はい!」
手を繋いで。
2人は一歩を踏み出した。
それぞれの想いを抱いて。
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