第52話 アーク
一撃で潰す。
だが、魔術は使用できない。
理由は単純。
クエートの固有魔術
『
だが、長期戦もできない。
生半可な攻撃を与え続ければ彼の特性によって更に強くなり始める。
なれば。
(決着は一発で着ける)
アークとシキは共に走り出した。
2人は小さな円を描くように別れ、
(成程、左右からか)
同タイミングで、左右から魔王目掛け武器を振り下ろす。
だが、それも『千里眼』で見抜かれていた。クエートは余裕の笑みを崩さず、言い放つ。
「舐められたものだね。作戦会議までしていたのに、コレか?」
右手に持った剣を地面に突き刺し、素手で迫りくるモノを掴み取った。
だが、武器を失った筈の2人も不敵な笑みを崩さない。
「な訳」
「無い!」
2人は同時に武器を離し、瞬間移動とも取れる速度でクエートの視界から姿を消した。その瞬間、彼の瞳に未来が映り込む。
それは、アークが上空から、シキが背後から拳を打ち込んでいる光景。
(なんだ?)
何か、違和感を感じた。
(砂嵐?)
だが、それも些細な事。
そうしている内にも、時間は刻々と過ぎていっている。
(いや、気にするほどでも無い)
そう割り切り、魔王は次撃に備え、掴み取った剣を離し、拳を握った。
そして、どん、と空気を揺らし、3つの魂がぶつかる。
「未来が見える相手に死角からの攻撃か。意味無いって、何回も言ってたはずだけど?」
「ああ。そうだな」
クエートの挑発に、逆立ちの姿勢のまま頷くアーク。
(何が……狙いだ?)
『千里眼』で見える未来に、偽りは無い。
だからこそ、彼らの意図がわからないのだ。
何せ、彼が見た未来は、自身の勝利なのだから。
(時間稼ぎ? いや、あり得ない。アークの性格的にってのもある……だが、余相手に時間稼ぎをして何になるというのだ?)
思考を巡らせ、2人の拳を握り潰し続ける。
力が込まれて行くにつれ、苦悶の表情を浮かべる彼の右手。
何を考えているのか。
だが、そんな思考も止めざるおえなくなる。
「おぉ!」
「!?」
最早叫び声に近しいシキの声。
がっしりと完全に捕まえられている筈なのに、
(こいつ……なんて怪力だ……!)
掴んだはずの拳が、クエート目掛け少しずつ迫っているではないか。
それも一つの要因ではあった。
だが、それだけなら脅威になり得ない。
(いや、そんな事より!)
彼の瞳『千里眼』によって写された未来は、彼以外に歪ませる事はできない。
無論、例外などあるはずも無く。
なのに、
(今のは……写されていなかった!?)
シキの拳はその監視網を潜り抜けたのだ。
偶々、という可能性が高い。
だが、そう言って僅かな可能性を切り捨てれるクエートでは無かった。
(なんだ?)
悩む。
押し返されている拳は、まだ距離があった。アークに関しては、彼の限界値を1番知っているのがクエートであり、彼の攻撃を何度も受け切った経験から、意識から切り捨てる。
悩む。
「悩んでんなぁ!顔に出てるぜ!」
「ああ。不可解な事が起こったものでね」
シキの挑発に、冷静に答えるクエート。
実際、彼は冷や汗をかいていた。
頬を伝う水分。
疲労の汗とは違う、久方ぶりの緊張。
正直いえば、楽しかった。
そんなクエートにお構い無しに、シキは拳に力を込める。
「ぐぐぐぉぉ!!」
獣の咆哮が如き声。
感情を乗せた拳。
より強く。より早く。
──その先へ。
(流石に、不味い。これ以上は押し切られる)
冷静に判断し、流れる水のように自然に下がった。アークらもバク転の要領で数步下がる。
お互い、仕切り直しと行ったところだ。
(……一瞬。一瞬だけ、魔王の悔しそうな顔が見えた。ああ、いいツラだ。後は殺すだけ)
魔王の混乱の元凶であるシキ。
だが、彼は自分が何をやったのか、気づいていなかった。
彼からして見れば全力で押し返しただけで、悔しそうな顔を見させれたのだから。
クエートを倒すには、一撃必殺が必須だ。
だが、今の彼らにはそれだけの火力が無い。魔術を使えれば話は変わるだろう。
だが、それは無理だ。
先述した通り、魔王には固有魔術『
いくら身体強化を施そうとも、魔術を無効化されて仕舞えば意味がなくなる。
だが、強大な能力にはそれ相応の反動が存在する。
それは、
いくら彼が魔王となって強化されようと、固有結界の破壊の反動はかなりのダメージを負うことになる。
それが、アークの作戦。
だが、それには大きな問題がある。
(厄災)
──なんだ。
(一度だけ、『無音』を打たせろ)
──断る。
彼が、それを許すわけもなく。
さっきの打撃はクエートの読み通り、時間稼ぎだった。
かれこれ5分は平行線だ。
お互いに一歩も譲らない。
(今後、『無音』を使えなくなってもいい。だから!)
──どうでもいい。だが、
(だが?)
──それは、面白そうだ。
厄災は愉快そうに笑った。
そして、
「ふぅ……ッ!」
アークの身体に、魔力が巡り始める。
これが、最後。
チャンスは一度キリ。
だが、何度も潜り抜けて来た。
自分なら、大丈夫。
自分なら、できる。
そう言い聞かせ、平常心を保つ。
ここから先、誰かが一手でもズレれば死ぬ。
「やってやるよ!」
彼の言葉に、『無音』の到来を感じ取ったクエートが叫ぶ。
「さぁ、来い!」
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